kzkg01
白木兎
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昼下がりの公園のベンチ。私はひとりで座り、黙々と弁当を処理していた。今日は妻の機嫌がよく、二段弁当が両段とも白米なんてことはなく、比較的良い日だった。
会社のデスクで食べないのは机の上が片付いていないからではなく、気まずいからだ。
会社の同僚とうまくコミュニケーションができていない。会話をしようにも上手くかみ合うことがないのか、次第に同僚とは誰とも世間話をしなくなっていた。清掃のおばちゃんに絡まれた際のかわし方をよく知らないので、廊下で誰かに助けてもらうまでずっとおばちゃんの話を聞いている。仕事の報告程度なら特に問題は起こっていないと信じたいが、とまれ私は先輩からも後輩からも孤絶していた。
私が唯一気兼ねなく話せるのが幼馴染であり現妻のハルカだ。
喧嘩するほど仲がいいを信じていいのか、私たちは週四でしょうもない喧嘩を繰り返している。プリンがどうこう、靴下を裏返すな、子供は諦めろ等々、しょうもなくない話題もしばしばあるが、仲睦まじいと言っていいはずだ。
今週は私が風呂場で髪の毛を切ってそのまま流したせいで排水溝が詰まった事件を皮切りに、実に五日連続で白米二段弁当を食わされていた。ご丁寧に海苔を切って、『呪』の字まで二段重なっていた。一昨日冷蔵庫に一センチ以上もの分厚さで、呪海苔が重ねて保存されていたのを見つけた私は彼女に泣いて土下座したものだ。そもそも五日も粘った私も悪かったのだ。
そして今日は久しぶりにおかずのあるお弁当だった。五日も二段呪弁当だったので、泣くほどうれしかった。その日は晴天に恵まれており、雲一つなかったのを見た私は何を思ったのかわざわざ休憩時間に車を走らせ公園までやってきた。
土曜の午前中だったが、小さな公園だからなのか誰も居なかった。
わくわくと弾む心に口元をにんまりとにやけながら、お弁当を取り出し、箸を割った。蓋を取り、仲には私の好物であるところの竹輪の磯辺天、そしてひじきの煮物に生姜焼きを発見したところで記憶からお弁当が消えた。
憎むべきはトンビ。あろうことか、私が会社に勤めだしてからハルカが買ってくれた竹製のシャレオツなお弁当箱ごと、あいつは持って行ってしまったのだ。
そしてあろうことか、あの野郎、お弁当から生姜焼きを一口ついばんだだけで投げ捨てやがった。さすがに重かったのだろう。しかし、落とした先が大きめの池だったのは厄か天罰かそのたぐいか、私は崩れ落ち、おもわず割り箸をトンビめがけて投げていた。むろん当たるはずもなく、ずいぶんと手前で減速し、池にさっきよりかは小さな音が響いたのみである。
場面は最初に戻り、私はベンチに一人、黙々と白米を素手で掴んで食べていた。さながら原人のように貪るさまは見るからに滑稽であったろう。だが、少しくらいは同情してくれてもいいのではなかろうか。ハルカになんといわれるか。いやむしろ何も言われない方がきずつくだろう。気にしていたのは私だけかもしれない。
お弁当を食べ終わると、私はいそいそとカバンに一段だけになった箱を戻し、駐車場へ駆け足で向かった。泣いてはいない。
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