たとえこの世界が滅びようとも

石濱ウミ

プロローグ


 『かわいらしい子だね。どうしてこんなところへ来ているの』


 と、王さまはおたずねになりました。


 エリーザは首をふりました。口をきいてはたいへんです。おにいさまたちがすくわれなくなって、おまけにいのちをうしなわなければなりません。そうして、エリーザは両手を前掛けの下にかくしました。痛めている手を王さまにみられまいとしたのです。


『わたしといっしょにおいで』


 と、王さまはいいました。


『おまえはこんなところにいる人ではない。おまえの顔がうつくしいように、おまえの心もやさしいむすめだったら、わたしはおまえにびろうどと絹の着物をきせて、金のかんむりをあたまにのせてあげよう。そうして、おまえは世にもりっぱなわたしのお城に住んで、この国の女王になるのだよ』


 こういって、王さまはエリーザを、じぶんの馬のうえにのせました。エリーザは泣いて両手をもみました。けれども王さまはこうおっしゃるだけでした。


『わたしは、ただおまえの幸福をのぞんでいるだけだ。いつかおまえはわたしに礼をいうようになるだろう』




 


 ハンス・クリスティァン・アンデルセン著

 ――『野のはくちょう』




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る