水を守って2

「んで呼ばれたのはあの人……神様のせいか?」


「うん。


 なんかやっぱり僕と君との繋がりはそれなりに強いみたいで僕が君を呼ぶのが1番浪費が少ないんだ。


 それに彼女がいきなり呼んだら警戒するだろうし…………それに彼女の領域の部屋、汚いんだ」


 声を抑えてこっそりと教えてくれるケーフィス。


「きた……」


「シー!


 僕が言ったって知れたら怒られるから!」


 チラチラとリュードの方を見ながら縁側でお茶を飲んでいる青い髪の女性。

 夢で土下座していたのに似ている。


 いかにも清楚で綺麗な女性だけど部屋が汚いらしい。

 リュードは大切なお客様である。


 ケーフィスとしてはそんなリュードを汚部屋に呼ぶわけにはいかない。

 それもあってケーフィス同伴でリュードは呼び出されたのである。


「神の友、神のお助け人リュード様ですね?」


 縁側から足を上げてサッと正座するウォークア。


「いやいや、神の友とか神のお助け人とかの二つ名は知らない……神のお助け人は前にも……聞いたような」


 誰だそんな望まない変なあだ名付けたやつは。


「……お前か」


 テヘッと可愛くなく自分の頭をコツンとするケーフィス見て犯人が分かった。


「私は水を司る神であるウォークアと申します。


 どうかあなた様に助けてほしいのです!」


 そしてそのまま床につくほど頭を下げる。

 体勢的にはいわゆる土下座である。


「ちなみにその話俺に拒否権は……」


「あります!」


「あるんだ……」


 こういう時拒否権なんてないものだけどあるとサラッと言われてしまった。

 だけど話を聞くと大体拒否するなんて出来ないことが多い。


「とりあえず話は聞くよ。


 だから頭を上げてくれ」


 もはや安眠が妨げられたのは確定。

 ここでウダウダしていても時間を食うだけで、まして話を聞かなければ気になって眠れなくもなる。


 結局お願いの内容を聞くしかない。


「ありがとうございます!」


 顔を上げたウォークア。

 ようやくまともに正面からウォークアの顔をみたが非常に美人であった。


 今は現実に美人が多くてだいぶ目も肥えているリュードであっても驚くぐらいだ。

 さすがは神様。


 しかし汚部屋だと聞いているので見た目だけには騙されない。

 見た目はいいけど第一印象土下座だしな。


「しかしやっぱり水の神様か」


 抑えきれないため息がもれる。


「お願いって?」


「水の未来と私の子どもたちをお救いください」


「水の未来だと?


 それに子どもって」


 今現在のリュードはコユキのために子どもと聞くとちょっと弱い。

 面倒なら断るつもりもあったが一気に断りにくくなった。


「リュード様がいらっしゃいますあの城はノーヴィスヴォルガンと言いまして私の領域なのです」


「の……」


 城の名前を一回で聞き取りきれない。


「ノーヴィスヴォルガンです。

 

 まあそこはどうでもよくて、大切なことはあそこは私の力を受けて世界に水を生み出す役割を担っているのです」


 だから水が城から噴き出していたのか。


「じゃあ聖域って呼ばれているのもあながち間違いじゃないのか」


「そうですね。


 ちょっと世界に魔力が足りず私の力も弱かった影響で正式に聖域にはなっていないのですがそうしたいとは思っています。


 そして水を生み出しているのですが私が直接中世界に行って管理もできす私の子、つまりは私の代わりに管理してくれている子たちがいるのです」


「困っている原因は?」


「ご存知かと思いますが今あそこでは異常が起きています」


「水が少ないとかそういうことか?」


「はいそうです。


 本来あそこには魔物は寄り付かないようになっているのですが魔物にも侵入されてしまいました」


「なんでそんなことに?」


「私はいわゆる水の神ですが他にも水の神はいます。


 その水の神々の中でも信仰が多く水の主神として崇められています。


 主神として崇められれば神としての格もかなり上がります」


「だから主神の座を狙って?」


 ウォークアはうなずく。


「主神の座を狙っている神というのはいつの時代でもあります。


 どこの神かは分かりませんが今回のことも水に関わる神の仕業です」


 神々の争い。

 ただそこに存在しても崇められるほど神様だって甘くない。


 神は神である努力も必要である。

 過去には主神と呼ばれるその分野のトップの神が入れ替わったり、主神の座をかけて争うこともある。


 神の世界だけでなく人の世界でも神々の争いが元になった戦いや戦争が起きたこともあるのだ。

 雷なんかは大きく種類もないので神様もたくさんおらずほとんど一枚岩と変わりない。


 けれど水や火なんかは信仰者も多くて種類も多い。

 今回のことは水の主神の座が欲しい他の水の神様がウォークアの信用を落とそうとしているのだ。


「嵐になるとどうしても川が荒れたりします。


 その時に水の生産をそのままにすると川が氾濫してしまいます。

 だから水の量を絞ったりして調整するのですがこれも大変な作業なんです。


 今季の嵐は特に激しく長く続きました。

 私の子たちも頑張ってくれていたのですがその隙をつかれてしまいました」


「相手の神が魔物を送り込んできたのか?」


「魔物にも信仰するという行為をするものもいますし、中には魔物に関わる神もいます」


 神も人のものだけではない。

 知恵のある魔物が神を信仰していることもあるし、人が魔物と関連づけて神を信仰していることもある。


 魔物が城にいたので魔物も関わる水の神だとは予想はできた。


「ノーヴィスヴォルガンにいる私の子であるのはウンディーネなのですが今どうなっているのかの確認もできていません……


 神である私が直接介入することもできないので神託を下して教会の聖騎士を動かすが誰かが解決するのを待つしかないのです」


「それなら教会の聖騎士に頼んだ方がいいんじゃないのか?


 なんか問題でもあるのか?」


 神の問題はそっちで解決してくれと思う。


「もちろん私の子であるウンディーネたちが危険であるという問題もありますが人の方にも問題が生じる可能性があります」


「どんな問題だよ?」


「仮にこのままノーヴィスヴォルガンが落とされると支配者が変わることになります。


 仮にそれで上手くいくならそれはそれでいいのですが問題は上手くいかなかった時です」


「上手くいくってなんの話だ?」


「ノーヴィスヴォルガンの機能維持です。


 あのお城が水を生み出しているのですがそれだって誰でも簡単にできることじゃありません。


 支配者が変わって上手く水が生み出せなかったらどうなるのかはお分かりになられますよね?」


「……そうだな」


 城が水を生み出せなくなったら川は枯れる。

 単純に川が枯れるだけじゃない。


 水がなくなることは河川域全ての都市に影響を及ぼす。

 川の魚が取れなくなり水が得られず飲料水や農業に悪影響が出る。


 ヴァネルアで考えると都市の交通を担う水路が使えなくなる。

 川の先には海がある。


 どこまで影響が出るのかまで想像は及ばないが甚大な被害が出る。


「ですので教会の関係者に神託を下して騎士団を動かしてもらうのも悪くないのですけどそうなると少し時間がかかりますので……」


「もういい」


 再び大きくため息をついたリュード。

 結局のところ拒否権なんてあってないようなものではないか。


 そんな被害が出る可能性があると聞かされてほっとくリュードではない。

 もしかしたら話を聞くと言った時点で腹は決まっていたのかもしれない。


「どうすればいい?


 魔物を倒していけばいいのか?」


 ウォークアの顔が明るくなる。


 神様がお願いしてくるということは重大案件。

 自慢じゃないがそれを解決できるだけの能力は備えていると自負している。


 なんだかんだと頼られるのも嫌いじゃないし自分に出来ることならやってみよう。

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