神様お助け人2
「ま、ちょっとざっくりとお願いしてるけどそんなわけで君にお願いがしたかったんだよ。
どうか聞いてやってくれないかい?」
「どうせ俺に拒否権なんてないしな。
聞くだけ聞くよ」
「ありがとね。
これ、お礼のまんじゅう」
もはやここにくる数少ない楽しみの1つとなっているおまんじゅう。
ケーフィスが信者に作らせて奉納されたものをリュードに渡す。
「おっ、ありがとう」
「食べながらでいいから聞いておくれ。
およそ500年前の悲惨な戦いについては君の知るところだと思う。
その時に魔力が世界からなくなってしまったことも知っていると思うけど神と君たち、あるいは君たちとの世界を繋ぐのも魔力の役割なんだ。
つまり魔力が無くなると神と世界との繋がりも薄くなってしまうんだ」
ソーダとまんじゅう。
悪かないけど熱いお茶が欲しいと思うリュード。
「神と世界との繋がりが薄くなるとどうしても信仰に影響が出てくる。
戦争のせいで神なんかいないと叫ぶ人も多かったしね。
そうした隙をついて神を嫌う勢力や僕たちの座を狙う神というものも動いたのさ」
この世界における神はどちらかと言えばかなりの多神の世界である。
八百万、どんなものにでも神は宿るとまではいかないがたとえ同じものを信仰していても信仰の角度が違ったりすれば別の神が生まれることもある。
水全体の神がいるけど川の神や海の神もいるみたいなものである。
一般的な信仰でないので静かに暮らしている神がほとんどだけど自分の勢力を拡大したいとか自分がメインの神様になりたいなんて野望を持つ神もいるのだ。
大きな戦争はチャンスでもあった。
自分の信仰を高める機会であり他の神を蹴落とすのにも良い状況であった。
神に打撃を与えるものがいくつかあるがそうした中でも最もと言えるほどに大きなダメージを与える方法がある。
「それは神物に手を出すことだよ」
神物は神の象徴でありながら同時に神と世界を繋ぐ大きな役割を果たしている。
実際にファフラの神物を盗み出した勢力がどこのものなのかは分かっていないが神物は盗まれてしまった。
そして神の力が及ばず漏れ出さないように封印されてしまった。
教会の方は盗まれたことを公表もできないでこのことを隠してしまった。
「基本的には大きな影響をすぐに及ぼすものじゃないんだけどね。
それでも僕の事例を見れば全くの無影響ではないことは分かるだろ?」
神の影響が薄くなるだけでそこで何が起こるのでもない。
けれどそのせいでテレサは本来死ぬほどに反動の出ない降臨魔法で死にかけていた。
神物が無くなった影響で神の力がコントロール出来ていなかったためであった。
「今は世界に魔力が戻って繋がりも太くなった。
神物も取り戻せたしテレサも無事回復するけど問題は他の神様でも同じく神物を盗まれたり、行方が分からなくなっている神様がいるのさ」
魔力が増えて人が増え、平和になって宗教が安定してきているので神の力も強くなった。
もしかしたらもっと世界の動きが活発になれば神物も見つかるかもしれない。
けれどすでにテレサのような影響も出ている。
のんびりと待つだけじゃダメだ。
その上でリュードがいる。
かなり特別な存在であるリュード。
神との繋がりが太くてこうして神の世界にも呼べる。
実力も高くて道徳心があって、お願いに応えてくれる。
神物を見つけても悪用しないし、他に方法もない。
リュードならと神々は思った。
だからリュードを呼んでお願いすることにした。
他にもお願いしたいことがある神様はいるのだけど一度にたくさんお願いされるとリュードに嫌がられる。
なので今回は緊急性の高いファフラのお願いを優先した。
「……なるほどねぇ。
事情は分かったよ」
「もちろんただとは言わない。
上手くやってくれたら私の加護をやろう。
火の加護は意外と便利だぞ」
もう引き受けること前提で話すファフラ。
「んで、神物はどこにあるんだ?」
しかしリュードも甘い。
テレサのような人を今後でないようにするためなら引き受けるつもりだった。
どの道話を聞いてしまっては断れない。
「それが……分からないのだ」
「あぁ?」
「そ、そんな顔しないでくれ……
火の力は中でも苛烈で強力だ。
そんな力が漏れないように封印されていたので私にも分からないのだ」
「なんのヒントもなく広い世界を探し回れって?」
「こ、こちらでも必死に探している!
神物は封印されているがずっとは完全に封じ込めておけない。
だから今頃は周りに影響も出始めているはずなんだ。
そうした場所を探せばあるかもしれない」
「影響ってなんだよ?」
ファフラに対して態度が雑になるリュード。
こんな大事な時に呼び出しておいて、最初に雑にお怒りなさったのはファフラの方。
ケーフィスは強気なファフラが押されるのを見てニヤついている。
いつも怒られるのは自分だから他が怒られるのは楽しくて仕方ない。
「た、たとえばそこらの気温が急に高くなったとか火の魔物が増えた……とか?」
影響の出方も分からない。
ちょっとずつ変化が起きていた場合自然のものとして受け入れられてしまっている可能性もある。
この世界においては不思議な現象はつきものなので異常に見える現象も神物由来ではなかったりあるいは神物由来でもそうは見えないことだってある。
結局ヒントはあまりないということ。
「その……もう1つというかこっちがメインで……」
「まだあるのか?」
なんだか一回り小さくなったような気がするファフラ。
「神物を見つけて私の神獣を助けて欲しいんだ」
「なに?」
「火というのは信仰が多くて私の神格は割と高く保たれていた。
でもやっぱり信仰が薄まり繋がりが薄くなると中世界にいる神獣にも影響が出てくる。
私の神獣は神獣としての格を失わなかったのだけど誰かに襲われてひどく怪我をしてしまった。
そのせいで理性を失って今はただの魔物のようになっている……
神物を取り戻してくれれば私の影響力が戻る。
そうしたら神獣の理性を取り戻す手伝いをしてほしいんだ」
泣きそうな顔をするファフラ。
神獣は家族のようなもの。
雷の神獣のように格を失ってしまうものもいるが火の神獣は格を失わずに耐えていた。
なのに何かに襲われて魔物に身を落としてしまった。
神獣を助けてほしい。
これがファフラの本当の願いだった。
「なんか……難易度高いな」
ケーフィスの時は神物の場所も分かっていた。
それに見つけて取り戻せばそれで終わりだったのだけどファフラのお願いでは神物を探し、取り戻して、神獣まで救う。
ちょっとやらなきゃいけないことのレベルが違う。
「とりあえず引き受けるけどさ……」
でもなんだかんだ引き受けちゃう。
「ありがとう!
こっちでも探すから!
見つけたら教えるし時が来たら私の信者にも手伝うように伝えておく!」
「ふぅ……」
深いため息をつくリュード。
なんだって神様のお願いを解決していかなきゃならないのか。
もうちょいのんびりと旅してる予定だったんだけどな。
「あっ!
それとイレギュラーなことが起きて…………悪い子じゃないから……………………頼んだ…………」
いきなり意識が世界から離れていく感じが襲いかかってくる。
ケーフィスの声が遠ざかっていき、ようやく戻れるのだと思った。
でも最後にケーフィスは何かを言おうとしていた。
それがなんなのか聞くこともできずにリュードの意識は白く塗りつぶされていった。
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