第七章
君が起きるなら1
「歩きにくくはないのか?」
「あったかい方が大事だからしょうがないですね」
偉大なる創造神であるケーフィスのお願いでありさらにその使徒でもあるダリルからも頼まれてしまった。
こうなっては行かざるを得ない。
場所としてはだいぶ北上してきた。
そのために気温が下がってきた。
これまで多少冷えることはあってもしっかりとした防寒具の必要性を感じたことはなかった。
北に進むにつれて冷え込みは強くなり特に夜は持っているものだけじゃ厳しくなっていたので防寒具を購入した。
色々と防寒具にも種類があった。
今回は高かったけど魔物の羽毛みたいなものを使った防寒具を買ってリュードは日中もそれを着込んでいた。
日の出ている間ならまだ必要ないかなと思うのにリュードは割とモコモコした防寒具を身につけていたのでダリルは邪魔じゃないのかと思っていた。
さらにルフォンとラストはリュードと腕を組んで歩いている。
イチャつき目的ではなくリュードが暖を取る目的である。
少なくともリュードにとっては。
2人にとっては合法的にリュードに抱きつけるのでそうしている。
側から見れば完璧に変な3人組であるが本人がそれでいいならダリルも何も言わない。
他人の目よりも寒さをどうにかする方が優先なのである。
実はまだ耐えられないこともないけど他人の好奇の目さえ気にならないなら耐えるなんてことしなくてもいい。
酒に強いが寒さに弱いリュード。
寒さ暑さなんてこと考えなかったけどケーフィスに寒さにも強くしてくれって頼んどきゃよかった。
「ほんと寒さに弱いんだね……」
せっかく腕を組んでいるのに分厚めな防寒具越しだし得しているんだけどなんだか十分な感じもない。
「俺自身も不思議でならないよ」
弱点と言っていいほどに寒さに弱い。
リュードの弱いところ、悪いところを全て寒さに弱いというところに集約したような寒さ耐性の低さ。
もしかしたら本当にそうなのかもしれない。
他の能力が優れている代わりに寒さへの耐性を失った可能性もなきにしもあらず。
何事にも完璧はあり得ないからある程度は仕方ない。
「君たちがそれでいいなら何も言うことはない。
さて、歓迎しよう。
ここが聖国ケーフィランドの首都ケラフィスだ」
開かれた門を抜け都市に入った。
遠くからでは高い城壁に阻まれてよく見えていなかった都市の全貌がようやく見えた。
白い都市。
雪とかでなく建物の壁や道に至るまで白くて都市全体が白く見えるのである。
季節が進んでもっと寒くなっていくと雪が降り、この都市はさらに白く染まることだろう。
白銀国と呼ばれるケラフィスの荘厳さにリュードたちも驚いた。
創造神であるケーフィスは創造神だけでなく主神や聖神といった呼び方もされることがあり広く信仰されている。
国や首都の名前からも分かるようにケーフィランドはケーフィスをメインに信仰している国である。
ただしケーフィスだけを信仰しているのではない。
神々にもいわゆるグループのようなものが存在している。
ケーフィスは人々の間で善良な神として知られている。
同じく善良な神でケーフィスと仲が良いとか同じように人に利益をもたらしてくれる神もいる。
そのような神々のことをまとめて1つの一派として聖派と呼ぶ。
そしてそうした神様を信仰する宗教を聖教と呼ぶのである。
ケーフィランドは聖国と呼ばれていてケーフィスを中心とした聖教の国なのである。
国民のほとんどが聖派神様を信仰していて、聖教の人たちである。
なので国王が治める国でなく宗教国家となる。
だからといってリュードたちが入れないことはない。
広く開かれた国であってリュードたちも問題なく入ることができるのだ。
「おおっ、あれはダリル様ではありませんか!」
「なんと……今日は運がいい」
ダリルが道を歩くとダリルに気がついた人たちがダリルに祈りを捧げる。
聖国はやはりケーフィス教の信徒が多い。
ダリルはケーフィスの使徒でケーフィス教の影響が強いこの国においては大きな敬意を払われる存在である。
使徒であるダリルに祈ることは神に祈ることにも通じるのである。
こうした都市につくとまずやるのが宿の確保。
何事も起点となる場所、帰る場所、寝る場所を確保するのが優先なのであるが今回はダリルがまず先に寄りたいところがあるというのでついていく。
ケラフィスの中心はやや小高くなっていて、都市の縁からでもよく見える大きな白いお城がある。
ダリルは歩きながら説明をしてくれた。
あの見える城は実は城でなく教会なのだと言った。
ケーフィスを始めとした聖教の神々複数の教会や神殿が入っているらしい。
「教会……お城みたいだな」
城壁が白いので神々しさはある。
ただ見た目の作りは完全にお城だ。
「それも間違ってはいないのだ。
元々はお城だったからな」
建物としては城でいいのだ。
ただ機能としては城ではなく教会や神殿となる。
ダリルの答えにリュードは少し首を傾げた。
向かっているのはそのお城の教会であるがまだ着くまでに時間がかかりそう。
ダリルはリュードの疑問に答えてくれた。
この聖国は信者が寄り集まって出来た国とかそのような起こりの国でなく、元々別の国であった。
はるか昔にこの地には普通の国があった。
しかしある時その国の王の様子がおかしくなり始めて、今では狂王と呼ばれるほどに狂ってしまった王がいたのである。
気に入らない者は殺し、民を権力と恐怖で支配して世は荒れに荒れた。
そんな民がすがったのが宗教だった。
神に祈りを捧げ、辛くて死に怯える日々をどうにか乗り切っていた。
そんな状況に声を上げたのが当時の聖者と使徒だった。
皮肉にも圧政のせいで広まっていた宗教が狂王の首を絞めた。
小さな民の力でも1つの目的の下に団結すれば大きな力となる。
白い都市が赤く染まるほどの戦いを乗り越えて民は勝利を勝ち取った。
当時から白かったこの都市。
その真っ白で汚れのない姿が王を狂わせたのだと人々は言い始めた。
なのでもう2度と狂う王が出ないように、そして戦争の立役者でもあった宗教を立てるためにこの地は王ではなく宗教が治めることになった。
狂うことのない清らかで真っ直ぐな心を持ち、1人ではなく聖教複数の指導者の下で舵取りをする聖国が生まれたのである。
真っ白なお城は宗教関係が集まる施設として利用されることになり、国の中心でありながら人々が祈りに訪れる教会ともなった。
今でもお城では狂王やあるいは狂王に殺された人、戦いで命を落とした人のために祈りが捧げられている。
白銀城とも呼ばれているがこの国の人にとっては大神殿と言った方が馴染みが深い。
「悲しい歴史を背負ってるんだな」
美しいと思える城にも凄惨な過去がある。
それでも城に罪はないので破壊せずにそのまま利用して狂王より後に城のせいで狂った人は出ていない。
「あっ、おかえりなさいませ、ダリル様!」
「デーネ、久しぶりだな」
そんな話を聞きながら大神殿に着いた。
入り口の門は祈りを捧げる人のために開かれていて、複数の神様がいるために入り口に設けられた案内所にいる白い神官服の若い男性がダリルに気づいた。
「テレサはどうだ?」
「今はまだ眠ってらっしゃいます。
お目覚めになられたのはだいぶ前のことですのでまたそろそろお目覚めになられる時だと思います」
「そうか……
リュード、是非紹介したい人がいる。
ここに来るまでに疲れているかもしれないがもう少し付き合ってくれ」
デーネとの会話で少し寂しそうに笑うダリル。
「ここまで来たんだ、もちろんさ」
「ありがとう」
「デーネ、私の名前で1番良い宿を取っておいてくれ。
こちらは大事なお客さまだからな」
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