不当な投票2
ラストのことはラスト呼び捨てなのでラストは不満そうだけど接近戦が得意ではないラストはハチに勝負は挑まない。
ルフォンとの戦いも見ていたラストは接近戦では勝てないと察したので完全に勝敗をつけることは避けた。
負けて下に見られるぐらいなら今の状態をキープすることを選んだ。
「うん、貰うよ」
ルフォンはハチの差し出したお皿を受け取る。
何もしたくない宣言をしていたハチだが根は働き蜂的なところがあるのか意外と気が利いて細かいところは見ている。
ドワーフにもお酒が飲めない人が少数ながらいる。
そんな人にもお酒っぽいけどアルコールの入っていない飲み物があったりする。
ルフォンとラストはそんな飲み物を飲んでいた。
せこせこと働くハチに対してルフォンは意外と優しい。
リュードを慕ってそうする人はいるのだけどルフォンを慕ってそうしてくれる人はこれまでいなかった。
お姉様なんて呼ばれること初めてだし、気分は悪くない。
リュードもルフォンも一人っ子なのでちょっと兄妹的なものが欲しいとルフォンは思っていたこともある。
ハチの人懐っこさも結構レベル高いこともあるのだろう。
そうしてステージの上でのんびりとしているとドワーフたちもおおよそ一巡していた。
賛成なのか反対なのか実態は分からないけど多くのドワーフがお酒に群がっていて、用意したお酒の樽があっという間に空になっていっていた。
水の方も減っているのだけどそれはお酒を割ったりするのに使われているので反対票を投じたくて水ばかり飲んでいるドワーフはいないと言っていい。
それでも思いの外減ってないななんて思っているとリュードは見てしまった。
酒樽の方は空になると別のものが置かれて投票されたと示すのに横に置かれているのに水の樽は水が継ぎ足されていた。
あれじゃあいつまで経っても反対票は増えていかない。
不正じゃないかと思うけどあれは反対票じゃなくて水が欲しくて持っていくドワーフ分を足してるだけだと笑うデルデにリュードも気にするのをやめた。
宴と投票は3日を通して行われた。
1日目でリュードたちや冒険者は引き上げたけれどドワーフたちは飲んでは寝て、起きては飲んでを繰り返していた。
そして3日目。
「賛成多数につき、我々は魔物の友を迎えることにする!」
ほとんどのドワーフが酔っていて、寝ている人も多い中ドゥルビョが高らかにハチを受け入れることを宣言した。
そんなドゥルビョも赤ら顔で宣言を終えた瞬間倒れて寝てしまった。
ーーーーー
「んん……」
「おはよう、ご主人様」
チュッと音を立ててハチがリュードの頬にキスをした。
「また頬を腫らしたいの?」
「いふぁいです、お姉ふぁま」
リュードはルフォンとハチに挟まれて寝ていた。
ハチがリュードと一緒に寝る!とうるさくワガママを言った。
当然拒否したのだけど夜にこっそり部屋を抜け出してリュードのところに来られても困るので一回だけ、さらにルフォンとラストも一緒にという条件で許可が出された。
そこにリュードの意思はほとんど介在していないのであるが何故かみんなが嬉しそうにしているので断ることも出来なくなった。
勝手にリュードの頬にキスをしたハチの頬をルフォンがつねる。
今はルフォンがリュードの右手、ハチが左手にいる。
流石に1つのベッドじゃ小さいので2つのベッドを寄せて1つにして寝ている。
「おはよ、リュード」
そしてラストはというとリュードの上に寝ていた。
ルフォンとハチに両サイドを取られたので役得的に上に寝ることになった。
寝苦しかったけどラストも意外と軽かったのでどうにか夜は過ごせた。
リュードのお腹にちょっとヨダレを垂らしながら寝ていたラストは混乱に乗じてリュードの体の上を這って上るとおでこにキスをした。
「ラスト!」
「へへぇ〜ん、やったもん勝ちぃ!」
「むぅ〜!
え、えいっ!」
少し勝ち誇った顔をするラスト。
ならばとルフォンもリュードの頬に唇をつけた。
「ど、どう?」
「そうだな……すごい幸せな夢みたいな気分だよ」
顔を真っ赤にするルフォン。
夢見心地なリュードはこれが夢なのか現実なのか分からなくなってくるようだった。
美人3人に囲まれて朝からスキンシップを受けられて嬉しくないはずがない。
下半身に意識が集中しすぎないようなコントロールは必要だけど男子の夢を体現したような状況は素直に良い気分だった。
ハチもハチ的な要素を残しつつ見た目美少女だからリュードにとっては全然女の子である。
「起きてるかい?
朝食が出来たよ」
「はーい、今行きまーす」
ケルタがドアをノックした。
慌てて起きあがろうとしたリュードだけど両腕を抱き抱えられ、ラストが上に乗った状態では動くことも出来ない。
みんながみんなもうちょっとだけと夢の時間を過ごした。
せっかく作ってもらった朝ごはんを冷ますわけにはいかないので程々のところでみんな身支度をする。
宴のような投票から数日が経って、ドワーフも変わろうとしていた。
ハチたちとの共生の内容を考えることもそうであるし他種族に対してもう少し開かれた町にしようとすることも検討し始めていた。
そのためのご意見番としてリュードやリザーセツも相談に乗ったりしていた。
「しっかしどうするかな?」
「私は何でも良いですよ?
ご主人様に付けていただいたお名前でしたらどんなものでも大切なお名前です」
ドワーフとハチの共生する上で決めるべきルールや越えちゃいけないラインなど細かく決めておく必要がある。
そうしたことでもないが決めておかなきゃいけないことがあった。
それはハチの名前である。
ハチには決まった名前がない。
魔物だったので名付けの習慣もなくとりあえずハチなどと呼んでいたけどこれからハチがキラービーの代表としてドワーフと共に生きるので呼称できる名前がないと何かと不便だ。
キラービー1体1体にまで名前をつける必要ないけどハチには何か考える必要があった。
けれどハチはリュードに名前をつけて欲しがった。
なのでリュードはハチの名前をどうするか頭を悩ませていた。
名前を持たない魔物にとって名前を持つことは大切な意味もあるらしいので簡単につけるわけにもいかなくなった。
どんな名前がいいか聞いてもリュードが付けてくれるなら何でもいいと言う。
蜂に関して何かの知識があるのでもないからそこから流用して考えることも出来ないのでなかなか良い名前が浮かばない。
「本当に何の希望もないのか?」
「そうですね……俺の嫁ってのはどうですか?」
「却下。
お前そうなるとみんなから俺の嫁呼ばわりされるぞ」
「……それはダメですね」
「そうだろ」
「残念です」
さほど残念そうでもないハチ。
リュードに付けてもらうことにこだわりはあってもどんな名前であるかにこだわりはない。
「うーん……スズ。
スズってのはどうだ?」
もはや単純明快なのがよい。
蜂と言って思い出すのはスズメバチ。
スズメだと鳥になってしまうのでスズ。
響きも可愛らしいしややシンプルだけどちゃんと名前っぽくていいんじゃないかと思う。
「スズ……」
「嫌か?
なら別の名前を……」
「いいえ、私はスズです。
あなたのスズ、です」
ニッコリと笑うスズ。
リュードが付けてくれた名前。
魔物として生まれたハチだったが今この時にハチはスズとして人となったと言えたのかもしれない。
「ありがとうございます、ご主人様!」
「ま、気に入ってくれたならよかったよ」
個として認められた。
ニコニコとして嬉しそうに笑うスズになんだかリュードも嬉しい気分になってきたのだった。
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