不当な投票1

「賛成しましょう」


「ワシもだ」


「なんで!」


「おや、あなたは反対のようですね」


「違う!


 賛成だが……なぜお主らが賛成なのか……」


 後日行われた話し合い。

 リュードの提案の賛否をまずは4人のドワーフが決める。


 デルデとドゥルビョ、サッテとゾドリアズムで賛成反対半々になると思われていた。

 蓋を開けてみると反対すると思われたサッテとゾドリアズムもサラッと賛成してしまった。


 説得してやると大見得を切ったドゥルビョは説得する相手を失い、まさかの展開に呆気に取られてしまった。


「正直、賛成してくださるとは思ってませんでした」


 ドワーフにだって色々な人がいる。

 酒に勝ったからとリュードを信じるあっけらかんとした性格のものばかりではない。


 他種族に対する拒否感もあるし、当然魔物に対する強い拒否感もある。

 信用できなくて当然。


 だから反対されることも予想していた。


「デルデ、あんただよ」


「ワシ?」


 サッテが優しい目でデルデを見た。


「あんたが前に言った言葉はワタシの心に響いたよ。


 ワタシらは変わらなきゃならない。

 確かに変わるにしては噴火のような劇的な変化になるかもしれないけど恐れてちゃ結局全て変わらなくなっちまう。


 それにあの子が悪い魔物ではないのは目を見ていれば分かるよ」


 次に大人しくしているハチに視線を向けた。

 リュードを性的に襲いかけた事件はあったがこの話し合いが設けられるまでの数日間でハチが起こした事件は他になかった。


 むしろドワーフの酒飲みに参加してよく酒を飲んでいつの間にかドワーフたちも普通の距離でハチと接していた。

 大キラービーの方も実は穏やかな性格をしていて今ではドワーフの子供を背中に乗せて軽く飛んで遊んであげたりしていた。


 真人族ならこうはいかなかった。

 長い時間をかけて固まった偏見があるだけでドワーフには他種族を受け入れる広い度量としかと他者を見極める目があるのだ。


 サッテも何回かハチを自分の目で確かめた。

 大キラービーの方も見て、共に生きるにふさわしいかを考えた。


 将来のことは誰にも分からないが新しい風にはなってくれる。

 デルデの言うように守るべきは若い者の未来だ。


 この風が新しいドワーフの歴史を作る一歩となってくれると思った。

 あとは自身の勘である。


 ここでこれを逃せば一生後悔する。

 そんな気がしたのである。


「ワシはな、実はドゥルビョとリュード君の戦いを見ておった」


 リュードがドゥルビョと酒飲み対決をしている時、周りで酒を飲む観客の1人にゾドリアズムがいた。


「若い時のワシを見ているような良い飲みっぷりじゃった。


 そちらの子もな」


 髭を撫でながらゾドリアズムが愉快そうに笑う。

 ドワーフの中でも最年長になるゾドリアズムは温厚ではあるが最もドワーフだ。


 今は年を取ったので最盛期ほどではなく、控えてもいるけどもう少し若ければゾドリアズムが酒を持ってリュードに挑んでいた。

 同時に年を重ねた冷静な目も持っていた。


 確かに偏見もあるが変化を受け入れられる丸さも持ち合わせている。

 真っ直ぐにドゥルビョと戦うリュードは信頼できる。


 酔って、それでも献身的に酒を注いでいたハチもそれほど悪くはなかった。

 さらに1度冒険者を受け入れたことで完全に変化を受け入れる覚悟もした。


 もう1つ、ゾドリアズムはハチがリュードを性的に襲おうとしているのを見た。

 それが良いか悪いかは置いておいて、狙ったのは命ではなくリュードの子種。


 命だって狙えたのにそうしなかった。

 そしてリュードに強烈に想いを寄せている。


 今やドワーフの女性でもリュードに想いを持つものがいくらかいると聞くのでリュードに直接負けたハチならしょうがないだろうと思えた。

 愛する者がいるならハチもリュードのためにと努力をしてくれるはずだとゾドリアズムは考えた。


 何を思って賛成したかはそれぞれ違うけれどともあれドワーフ4人は満場一致で賛成となった。

 しかし4人の意見がドワーフ全ての総意とは流石に言えない。


 このことをドワガルに公布して意見を募り、最後には投票を通じてちゃんと決めることになった。

 町中に今回のキラービーとの共生についてのことが書かれた立て看板が設置されてドワーフの間でハチのことが完全に周知された。


 大きな反対も予想されていたけれどドワーフから起こった反対は思いの外に小さかった。

 むしろ若いドワーフを中心とした賛成の声も聞かれて、ハチを推してくれるドワーフもいた。


 こうしてドワーフの間で議論が起こっている間に冒険者たちは問題を片付けることにした。

 鉱山はまだ取り戻しきっていないのである。


 キラービーたちにやられた冒険者たちの毒も抜けてリザーセツたちも完全復活した。

 ハチたちのいた鉱山を除いた他の鉱山の討伐を再開することになって冒険者たちは戦った。


 しかし相手としてはハチたちキラービーに勝る魔物はいない。

 時間をかけてしっかりと戦っていったので怪我人もなく鉱山を取り戻すことに成功した。


 鉱山を取り戻した。

 このことはドワーフに喜びをもたらし、良い雰囲気を生み出した。


 ドワガルの町の中心部にある大きな広場。

 そこに町中のドワーフが集まっていた。


 ステージが設けられ、その前には布がかけられた山がある。


「オホン!


 よく集まってくれた。


 この度我々ドワーフは魔物に奪われてしまった鉱山を取り戻すことに成功した!」


 ドッとドワーフが沸く。

 鉱山を取り戻すのに犠牲になってしまったドワーフもいる。


 完全な閉鎖によって生活も厳しくなってきていたのでドワーフたちも大喜びである。


「鉱山を取り戻すことに成功したのは真人族の冒険者たち、それにリュード、ルフォン、ラストという友があってのことだ!」


 名指しはやめろと言いたい。

 ドワーフが広場に作ったステージの上にデルデたちドワーフのトップとリュードたちと冒険者が上がっていた。


 ついでにハチもいる。


 ドゥルビョが広場全体に聞こえるほどにしっかりと腹から声を出してドワーフたちに集まってもらった理由を述べようとする。


「そしてさらに!


 我々は魔物の友も迎え入れようとしている。


 しかしこれに関してはドワーフ全ての総意である必要がある。


 なので同胞に問いたい!」


 ドゥルビョが手を振るとステージ前に置かれていた大きな山にかけられた布が取られた。


「話は単純。


 賛成なら酒の樽から酒を飲み、反対なら水の樽から水を飲むといい!


 その投票結果によって賛否が決まる!」


 ドワーフ以外のものが非常に驚いた。

 公平でも公正でもなく、正確性もない、投票とも言えない行為。


 リュードがデルデを見るとニヤリと笑って見返してきた。

 誰かの勝手な行いではない。


 分かっていてやっているのだ。

 もはやドワガルの世論はほとんど賛成の意見が占めていた。


 根強い反対の意見もあったけど若いドワーフが酒を飲み交わしながら説得を重ねてドワガルに新しい動きをもたらすことに積極的だった。

 ついでに賛成で酒が飲めるなら文句があるドワーフも少ない。


「鉱山も奪還した宴のついでに投票してくれればよい。


 さて、同胞が意見を示してくれ!」


 こうして宴が始まった。

 もう結構な量をリュードたちがいる間にも飲んでいたはずなのにドワーフたちはどこから酒を持ってくるのか。


 ドワーフたちが一斉に賛成に集まり、酒を持っていく。


「お姉様、おつまみはいかがですか?」


 ハチはルフォンに負けて以来ルフォンのことをお姉様と呼んでいた。

 リュードのことはなぜかご主人様である。


 誰が教えたのか知らないけどいつの間にか呼んでいたので正すタイミングも逃してしまった。

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