活躍の軌跡
「シューナリュード君が羨ましいよ」
そう言って盛大にため息をついた男性冒険者。
彼は前にデルデに質問をぶつけていた人で今回の冒険者たちの臨時のリーダーとなったゴールドランクの冒険者であるリザーセツ。
リザーセツがチラリと視線を向けた先には和気藹々とする女性冒険者たち。
その中にはルフォンとラストも混ざっていた。
リュードたちも合わせると31名の大所帯となる冒険者たちの中には女性冒険者もいた。
1パーティー丸っと女性のところもあるし、ちょいちょい他の冒険者パーティーにも女性冒険者が所属している。
昼間移動する時は自分のパーティーと移動して警戒を交代で行っているが夜の空き時間なんかは女性冒険者たちが集まって談笑していることもあった。
リュードはリザーセツに誘われてリザーセツのパーティーのグループと一緒にいるのだけど楽しそうにしている女性たちをみてリザーセツはまたため息をつく。
疾風の剣という冒険者パーティーを組んでいるリザーセツなのだけど残念なことに疾風の剣には女性冒険者が1人所属していた。
だけどその人と今のところ同じパーティー以上の関係を築いた人いない。
ついでにパーティーメンバー全員が独身で彼女もいない。
ゴールドランクになれば富も名声もそれなりに手に入るはずなのに女性にはなぜかモテない。
リザーセツはどうしてなのか良縁に恵まれず、談笑している女性たちを見て女性運の無さにため息しか出てこない。
優しい人柄で雰囲気も柔らかくゴールドランクには見えないぐらいの人なのに女性との巡り合わせが悪い。
むしろゴールドランクに見えないような優しさが見えるのがゴールドランクというワイルドさと打ち消しあってしまうのかもしれない。
それに比べてリュードはシルバー−なのに超をつけてもいい美人の女の子2人を連れて旅をしている。
ゴールドランクに上がることもあれほど羨ましいと思って生きてきたのに、今となっては女性と旅しているリュードが羨ましくてしょうがない。
そんな風に言われてリュードも女性陣を見る。
贔屓目なしにしたってルフォンやラストは中でも容姿がいい。
何を話しているのか知らないけど笑うと花が咲いたように華やかな2人。
リュードが見ていることに気がついてラストがルフォンをつついてリュードの方を指差す。
2人が軽くリュードに手を振るとリュードも微笑んで手をふり返した。
そんな様子を見て周りの冒険者たちがため息をつく。
冒険者って奴は女性関係に関して極端になりやすい。
全く縁がないか、あるいは恋が多いかである。
1人の女性を一途に愛することももちろんあるのだけど職業柄いろんなところに行くのでいろんな出会いはある。
冒険者という職業で考えた時に嫌がられて全く興味を持たれない人もいれば、なぜなのか異常にモテるような人もいる。
運がなければとことんすれ違うような職業なので仕方のないことなのだ。
リュードはモテる方。
リザーセツも自然とため息がもれてしまうのであった。
ただ改めて見ると女性冒険者も意外と多いなとリュードは思った。
自由に生きていく価値観が広まりつつあるので女性冒険者という形で生きる人も増えている。
だから冒険者という職業に対しても以前よりは避ける女性の数は減ってきている。
みんな頑張れと流石に口には出せないけどひっそりとお祈りしておく。
「そうだ。
黒いツノ……で思い出したが神の使いなんてのが現れた話知ってるか?」
「神の使いと黒いツノが何か関係が?」
このままではみんなため息をつくだけついて寝るだけになってしまう。
少し場の雰囲気を変えようと疾風の剣のメンバーのドコムが思い出したように話し始めた。
やや小柄な体格のドコムはムードメーカーで話が上手くていつのまにか懐に入り込んでいるような人だった。
行きすぎると馴れ馴れしく感じるものだけどドコムはそこらへんのバランス感覚も優れていた。
「どこだったかな……国まで忘れちゃったけどここからだと結構遠いところの噂話だよ。
なんでも愛と正義を司る神の使いが町中に突然現れたらしいんだ」
「へぇ」
知らない話。
神の使いとは使徒や聖者とはまた違うのだろうか。
「黒いツノを生やした黒い姿の獣人族みたいな男が不当に脅して若い女性と結婚しようとした悪い貴族の前に雷と共に現れて女性をさらっていったらしいんだ!
天から現れて花嫁抱えてひとっ飛び!
正しい愛を守る正義の味方ってわけだ」
「……へ、へぇ」
知らない話、だと思ったのになんだか知らない話ではないような気がしてきた。
それどころかなんかちょっとばかりやったことあるような気すらするぞ。
「その国では愛と正義の黒き神の使いなんて呼ばれてて、その悪い貴族は神の使いが罰が下るだろうと最後に言った通りに悪事がバレて処刑までされたんだと。
えー……すまん、又聞きだから名前も朧げでシャー……違うな、シュー?
なんかシューナリュード、お前と似たような名前だった気がするな」
「そうなんですかぁ」
気のせいではない。
これはリュードの話だ。
遠い目をして答えるリュードはどんな顔をしていいのか分からなくなっていた。
「んで、雷も落ちたってんだから雷の神様の使いとか竜人族の始祖だったんじゃないかなんて言う奴もいるそうだ」
冒険者ってのはだいたい噂話が好きだ。
情報収集も兼ねているし移動の時間も長いのでその手の話に飢えている。
娯楽が少ないから面白ければどんな話でもいい。
酒場で聞けば酒の肴になるし、旅の途中で思い出して色々考えてみれば時間潰しになる。
人にあった時には話したり聞いたりすれば会話になるしとにかくそんな噂話には常にアンテナを立てている。
なので早い速度で噂話は人々の間を駆け巡る。
消えていく噂話も多いのだけど逆に話の内容が変化しながら伝わっていくものもたくさんある。
リュードの話も大まかな内容は維持しつつも細かなところは変化して伝わっていた。
リュードの容姿や名前などは物語を語る上では特に必要でないために徐々に薄れていく形になっていた。
黒いツノは特徴的なのでそこをピックアップして話を続けることもできるために話の中にも残っていた。
容姿や名前についてボヤけててよかった。
愛と正義の神の使いなんて呼ばれているのは今初めて知った。
エミナを助けるためにやったことがこんな噂になっているとは思いもしなかった。
「なんだか最近黒いツノの男の話聞くんだよな。
それっぽいのから明らかにウソだろってもんまで様々。
さっきの話がどうにも最初の話っぽいんだけど本当のところはどうだかな」
その後もドコムはいくつか黒いツノの男に関わる話をしてくれた。
黒いオオカミを連れているとかクラーケンと海で殴り合ったとか身に覚えのあるような、ないような話が色々とあった。
港町で多くの女性に貢がせるクソ野郎も黒いツノの男らしくてリュードは乾いた笑いしか出てこなかった。
噂の発生原因が予想できるものはいいのだけど空を飛んだり浮気者を成敗したりするのはどこから出てきた話なのか気になった。
噂の誇張とか他の噂が混ざってきているのかもしれない。
右手一本でグリフィンを倒すとんでも化け物にされている時には流石に笑ってしまった。
ドコムは黒いツノの男だけでなく色々な面白話をしてくれた。
大所帯でリアクションや他の話も出てきて退屈もしなかった。
その上戦えるメンバーも揃っているので魔物の脅威もほとんどなくドワガルまで到着することができた。
デルデが門番に頼んで連れてきたことを告げると冒険者を迎え入れるために大きな門の方が開いた。
「ようこそ、ドワガルへ。
他のドワーフは分からんがワシは歓迎するよ」
他の人たちは止められ、羨ましそうに見られる中冒険者たちはドワガルに足を踏み入れたのであった。
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