静かな森の不穏な気配2
「これは?」
「そういえばちょうどよさそうなものがあったと思ってな」
ドワーフたちはすっかり王者となったリュードに優先的に勝負を挑むために美味い酒と挑戦料として武器やらなんやらを差し出した。
様々差し出されたものはあったけれど分類してみると多かったのは剣。
一般的な武器でもあるので数が多く、別にリュードが使いそうでもない剣も多かった。
全てのものをまだ把握しきれてはいないが剣は大体どんなものがあるのか確認してある。
挑戦料とするためにどのドワーフも結構な自信作を持ってきていた。
中には自分の武器がいかに優れているのか飲みながら熱弁していたドワーフもいた。
そんな熱弁を振るっていたドワーフが持ってきた剣だった。
「わあっ……!
キレイ!」
受け取ったラストが剣を抜いた。
剣身は赤く細身でやや短めな剣。
ラストの瞳のような深く澄んだ赤さではないけれど鮮やかで人も目を惹きつけるような美しい剣である。
ドワーフの熱弁によると炎華宝という火属性の魔力を持つ宝石を細かく砕いて混ぜ込んで作った剣で魔力を込めると熱を発するらしい。
ラストが振り回してみると赤い剣は軽く、片手でも問題なく振り回すことができた。
体格の良く力のあるリュードが使うには軽すぎ短すぎで剣として扱うか、ナイフみたいに扱うか中途半端な感じになってしまうがラストにはちょうどよい。
赤い剣はラストの容姿にもよく似合っている。
人に合う武器は意外と見た目の一体感としても合っているものだったりする。
「こ、これ、いいの?」
剣としての質もかなり高そう。
売れば高値で売れることだろう。
最悪リュードならば扱えないこともないしリュードが貰ったものを貰っていいのか。
逆にこれぐらいの短さ軽さならもう一本持って双剣でも戦えるかもしれない。
「俺は使わないからな。
なら才能のある人で使う人に使ってもらうのが1番だ。
それに俺にこれをくれたドワーフも使うべき人が使ってくれる方が嬉しいって言ってたぞ」
「そっか、ありがとうリュード!」
「お礼は名前も知らないドワーフのおっさんに言ってくれ」
初めて持ったはずなのに手に馴染むよう。
抜き身の剣を抱きしめてしまいそうな衝動を抑えながらラストは笑顔でお礼を言って、顔も知らないドワーフのおじさんにも心でお礼を告げた。
「ルフォン」
「なーにー?」
その様子を見てちょっと拗ねた顔をしているルフォン。
嬉しそうに剣を振り回して具合を確かめているラストは全然気づいていなかった。
ちょっとばかりラストに甘すぎて、ずるくはないかとむくれている。
「手を出して」
「……はい」
「ちゃんとルフォンのことも忘れてないよ」
「リューちゃん……これは…………」
「髪留めだよ。
料理する時にでも使ってくれ」
最近剣を教えてもいるのでルフォンよりもラストに構う時間の方が多くて、ルフォンが不満そうなオーラを出していることにリュードは気づいていた。
まだ旅に不慣れなこともあって気にかけているのだけどラストの方もリュードを何かと頼るので距離も近かったりする。
ただルフォンのことは忘れてないし考えている。
こんな外であげるつもりはなかったのだけどラストに剣をプレゼントして、ルフォンには何もなしだと不公平だ。
これ以上はルフォンの不満も溜まりすぎてしまうので先手を打っておくのだ。
紫色の宝石を削り、小さい花のような形にした装飾の髪留め。
酔い潰れて道に寝こけているドワーフを迎えにきた奥さんがお詫びがわりにとリュードにくれたものだった。
貰った時真っ先にルフォンのことを考えた。
邪魔になる程髪を伸ばしはしないが料理をする際に時折髪をかけ上げていたりする。
サッと止められるゴムの輪っかとかあればいいんだろうけどリュードは見たことがない。
武器は足りているし他に装飾品なんかもルフォンは付けないので料理をする時に少し髪を止めておくぐらいならどうだろうと思ったのだ。
「ここで渡すのは良い雰囲気とはいかないけど……ちゃんとルフォンのことも考えてるってこと、分かってほしくてな」
「リューちゃぁん……」
まだまだお子様。
自分のことをそう思わずにはいられない。
嫉妬してしまうこともそれを悟られるほど態度に出してしまうことも恥ずかしい。
分かっているのに嫉妬を思うことも抑えることもできていないなんて、第一夫人失格である。
リュードは立派な男だ。
ならば第一夫人となるべくルフォンも第一夫人としての品格を備えねばならない。
他の女性に負けないほど強く、そして負けないほどに強かな女性でなくてはならないのだ。
でも、今は素直に喜ぼう。
前髪を寄せて髪留めで留める。
「ありがとう……リューちゃん」
「可愛いよ、ルフォン」
「ふへへ……」
不貞腐れた態度を見抜かれたのは失敗だけどこんな風にちゃんと見てくれているならそれもまた悪くない。
考えてくれて、行動にまで示してくれるなんて嬉しかった。
リュードとしてもルフォンにプレゼントをするというハードルの高さになんとか喜んでもらえて安心していた。
せいぜいネックレスぐらいで魔人化という体の変化があるルフォンはあまり装飾品を好まないので悩んだ。
珍しく食材や調味料が欲しいのは知っているけどそうではなくて何かしらの形に残るものを贈りたかった。
ほんの少し料理方面には思考を向けつつ形に残るプレゼントができた。
さすがドワーフが作る装飾品は髪留め1つでもセンスが良くて芸が細かくステキな代物だった。
「……ふん、罪作りな男だな。
ワシにもその秘訣を教えてほしいものだよ」
「その憎まれ口をやめて、普通にして、素直に褒める。
それだけでだいぶ変わるだろうな」
「生まれ持っての言い回しだからな、今更変えられんわ。
素直に褒めるのも……この歳じゃ恥ずかしくてな」
「歳なんて関係ないですよ。
いつでも人は素直になれます。
デルデだって出来てたじゃないか」
あれだけの熱弁かまして他種族に助けを求めることを認めさせたのだから素直に話すことは出来るだろう。
「……女性と面を向かってやるには少し無理がすぎるわい」
「ふふっ、じゃあ諦めてください」
「この歳でモテる必要もないからいいわい」
秘訣は単純だけどやれそうにもない。
デルデはやれやれと首を振る。
弟子はいるし今後の生活に困ることはまずない。
もうちょい若ければ秘訣とやらに従ってみたかもしれないが今更誰にモテようというのだ。
「さて、次はオークかな?」
コボルトのミミも集め終えた。
その過程で死体を1箇所に集めて火の魔法で燃やす。
コボルトは素材としてはあんまり良くない方なので持って帰るよりも燃やしてしまった方が早くて楽で良い。
コボルトの群れが思いの外早く見つかったのでまだ時間はある。
悩みどころだけど森の奥に進んでオーク探しをしてもいいぐらいの日の高さである。
「オークめ、待ってろよー!」
帰ってもよかったけど新しい武器を手に入れてラストは意気揚々としていた。
何も無理して1日で全部終わらせることもない。
ラストの新武器練習も兼ねて何体かオークが見つけられれば良いなと思って森の奥へと進んだ。
奥と言ってもそんなに進むわけじゃない。
コボルトやオークのいる場所は森の比較的浅いところである。
なのでコボルトのいる場所から少し奥ぐらいのところにしか移動はしない。
4人中2人がご機嫌なので雰囲気も非常に良い。
森も今いるところは木が生い茂り、ジメッとした空気感のところではなく程よく日がさえぎられて心地よい温度になっているところだった。
「た…………け…………」
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