アリの巣掃除2

 いくら優れた武器であろうとも使えぬ者に持たせたところで鉄の棒と剣の差も出せない。

 優れた武器が人を武器の扱える人にするはずもなく、扱えるだけの練習も必要となってくるのだ。


 使える者だったから武器が生かされ、武器の性能が才能を生かし、1つの強さとなる。

 ルフォンとラストには扱えるだけの技量があり、その努力も垣間見えた。


 自信がありそうな3人だったが自信があるだけのことはあるとデルデは1人頷いていた。


「ここはアリの巣か……」


 出てくる魔物はこれでわかった。

 アリである。


 魔物ってのは多くの場合他の魔物と共存共生したりしないのでこの鉱山にいるのはアリだけの可能性が非常に高い。

 この世界のアリも生態としての大きな部分は前世のアリと異ならない。

 魔物としては顎の力が強くて繁殖力が強くて集団で襲いかかってくる感じだ。


 肉は食えないけど割と体は固くて素材としては加工しやすめな部類で厄介な攻撃もなく戦いやすいので冒険者目線でいくと人気がある方の魔物だ。

 とにかく数勝負な魔物な感じなのでそこだけ気をつければいい。


 狭めな坑道での戦いはアリの数を制限できるからむしろいいかもしれない。

 デルデは持っていたランスでアリを突いてどんな感じか確かめる。


 硬さがありながらも結構柔軟そう。

 加工すれば軽くて丈夫な防具にできそうだと職人の目でアリを観察していた。


 数勝負なアリがたったの10匹で終わるはずがない。

 最初アリを第一波とするなら第二波、第三波と数を増やしながらアリが襲いかかってくる。


 暗闇に強いルフォンとラストがメインで戦い、リュードはデルデを守るように下がる。


「ちぇー……これがダンジョンなら楽なのになぁ」


 ラストが不満を漏らす。

 戦いそのものは武器の性能もあって特に苦労しないのだけどその後が大変だった。


 自然発生の魔物はダンジョン産の魔物と違って勝手に消えていったりしない。

 広いといっても限度がある坑道内にアリの死体は残る。


 数が多いだけにとても通る時に邪魔になるのだけどラストの場合は1つ手間もある。

 弓矢で戦うラストは矢を回収しなければならないのだ。


 魔力で生み出した矢を放つ方法などもあるのだけどアリ如きにそんなこともしていられないし、普段から物理的な矢を使い、戦いのたびにそれを回収している。

 魔力を爆発させるのもよほど強く爆発させなきゃ矢は再利用可能である。


 どこに矢がいったのかを覚えていて回収しなきゃいけないのだけどやっぱり作業としては面倒だ。

 ダンジョンなら魔物が魔力となって消えて落ちた矢を拾い集めるだけで済む。


 アリの体液も付いてるしラストはため息混じりに矢を拾う。

 ここだけは弓矢の面倒な点だと思う。


 せっかくいい弓も手に入ったし魔力で作る矢、魔矢の練習もしてみようとラストはちょっと思った。


「いい加減にしろー!」


 第五波。

 第一波では10匹だったアリも30匹と3倍になった。


「なんか赤いのいるよ!」


「りょーかい!」


 リュードとデルデには、よく見えていなくてもルフォンとラストには見えている。

 アリの後ろの方にこれまでのアリとは様子の違う赤いアリがいた。


 後ろにいるし無理に赤いアリから倒しに行くこともない。

 まずは黒いアリからルフォンたちは倒していく。


 もはやアリの動きも慣れっこ。数が増えたところで坑道の広さには限界があるので一度に襲い掛かれる数も限りがあって戦いに大きな変化はない。

 むしろアリの死体が増えることでアリの方が戦いにくそうにしていた。


「ルフォン来るよ!」


「うん!」


 黒いアリを倒していってとうとう赤いアリが前に出てきた。

 黒いアリより一回りほど大きくてアゴが発達している。


 リュードの考えでは黒いアリはいわゆる働きアリで、こちらの赤いアリは兵隊アリといったところだろう。


 素早さも少し黒いアリよりも速く、ルフォンをアゴで挟もうと迫る。

 けれどそれでもルフォンの速さには敵わない。


 ルフォンはアゴをかわすとナイフで反撃を繰り出した。

 まだ切れはするが黒いアリよりも固い感じがする。


 黒いアリよりも明らかに戦闘力が高いアリはリュードの予想通り兵隊アリであった。

 一撃で仕留めるには反撃は浅く、アリは再びルフォンを挟もうと試みる。


 ルフォンは飛び上がってアゴをかわすともう一度ナイフを振る。

 今度は魔力をしっかりと込めて。


 ドワーフというのはすごいと思った。

 デルデの技術は卓越していて、尊敬できるとルフォンは素直に認める。


 今までナイフに関して不満なことなど思ったことは一度もなかった。

 けれどミスリルを混ぜてデルデが鍛え上げたナイフを使うともう以前のナイフには戻れないと言わざるを得ない。


 同じ形状のナイフであるはずなのに比べてしまうとどうしても以前のナイフが劣っている。


 赤いアリの体の中でも特に固いはずのアゴが切れて飛んでいく。

 ミスリルの凄さもあるのだろうけどデルデの技術があるからミスリルも最大限生かされている。


「はっ!」


 最大の武器を傷つけられて、ひどい痛みに赤いアリが大きく怯んだ。

 ここは本来ラストにとどめを任せるところだけどこのままいける気がした。


 ルフォンは体ごと回転させるようにナイフを真っ直ぐ上に振り上げた。

 アリの頭が縦に切り裂かれて倒れる。


「あれだな、嫁さんには逆らわん方がいいな、リュード」


「亭主関白気取るつもりなんてないから大丈夫だよ」


 逆らうも何も何かを決める時はちゃんと相談するし、多少のわがままは互いにあっても許容はしている。

 ルフォンやラストが本気でやりたいことはリュードは応援したいし、リュードがやりたいことはルフォンやラストも応援してくれる。


 互いをちゃんと尊重しているから大丈夫である。


「ワシは鍛冶仕事にかまけて女房に逃げられたからな。


 お前さんは嫁さんを大事にしてやれよ?」


「肝に銘じておきます」


 ガハハと笑ってデルデはリュードのケツを叩く。

 本当なら背中を叩くところなのだけどデルデの身長では自然とケツぐらいの高さが限界なのだ。


「その心意気があれば大丈夫だろうよ。


 2人もいて大変だろうがお前さんは果報者だ。

 その幸せ忘れんようにな!」


 ラストの方はまだそうした関係ではないと言いかけて言葉を飲む。

 説明も面倒だし、あらためて客観視した時にそう見えることに自分で自分に反論できないと思ったのだ。


 ルフォンも認めているしラストのことは憎からずは思っている。

 嫁さんになるかは分からないが大事にはしようと思うことに変わりないので曖昧に笑顔を浮かべておいた。


 友人だろうと恋人だろうと大切にはするし、一緒に旅をするのだから絶対に守るという気概はある。

 リュードにその甲斐性が十分にあり、魔人族の習性的に見ればそうした関係性に見えてしまうからデルデがそう思うのも仕方のない話なのである。


 第五波の赤いアリの出現を皮切りに黒いアリが減り、赤いアリが増えた。

 全体的な総量の増加はほとんどなくなったが少しだけ厄介な赤いアリがほとんどの割合を占めるのに時間はかからなかった。


 その変化はアリの巣の中心に近づいていることをリュードたちに予感させていた。


「ここは!」


「奴らがやったんだな。


 ここにこんな広い場所なかったはずだ」


 アリの襲撃にルフォンたちにも疲労が見え始めてきた。

 余力を残しているリュードが前に出て戦おうかと思っていたら広い部屋に出た。


 天井の一部が崩落して日が差し込んでいて明るい。

 それほどまでに拡張された空間はデルデたちドワーフが掘ったものではなくて、アリが独自に広げたもののようだ。

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