浅き欲望の果て1

「意外と明るいな」


 言われるがままに階段を降りてきた。

 階段にはところどころしか明かりがなくて薄暗く、足元がギリギリ見えるぐらいだったのだけど下まで行くとそこそこの部屋があって思いの外明るくされていた。


 魔力で光る天然石の魔光石が天井に嵌め込まれていた。


「おっと……


 俺が閉所恐怖症だったらどうするつもりだったんだ」


 ゴウンと音がして今降りてきた階段の出入り口が上から落ちてきた岩で塞がれる。

 どうやら逃すつもりのないことは分かった。


 帰り道は無くなった。


 しょうがないので部屋の中に目を向ける。


「ふーん……」


 見渡して何かを見るほどの物も置いてはいない。

 小さなテーブルがあってその上に封筒があるのを見つけた。


 とりあえずすることもないし封筒を開いてみると中には手紙が入っていた。

 達筆な文字でツラツラと今後についてのことが書かれている。


 1つ前までは文字の読めない人にも配慮していたのに、と思ったら下の方にイラストも書いてあった。

 それで伝わるのか分からないが相手を倒して石を集めることは分かるぐらいのイラスト。


「なになに……そこは控え室だ」


『そこは次のステージが始まるまでの控え室である。


 食料や寝具は置いてある物を好きに使ってくれてよい。


 次のステージが開始となったら扉が開く。


 次のステージでは各個人の腕輪につけられた石を10個集めることが次に進む条件である。

 または各場所に魔物を配置してあるのでそれを倒してもクリアとする。


 武器は1人につき1つ、こちらで用意させてもらった。

 なお、赤い宝石は石3つ分の価値がある。


 最後に、部屋の隅にある魔道具は破壊しないように。

 故意に壊した場合は失格とする。』


「なーんか情報量が多いな」


 整理するとまた殺し合いだ。

 腕輪についている石がそこらへんに落ちているはずがない。


 なので相手を倒して奪うしかない。

 気絶でもいいだろうけどきっと相手は殺すつもりでかかってくる。


 その上リュードの腕輪には赤い宝石。

 3人分の価値があるこの石が他の人に見つかれば標的になる。


「それで、武器は……これか。


 俺に与えられたのは槍ってことか」


 部屋の隅に立てかけられていたのは一本の長槍。

 安物だろうけど先もちゃんと切れるようになっていて、金属で柄も補強してあるやや重めな槍。


 悪くない。

 基礎的な武器として槍の扱いも村では習っていた。

 

 得意武器とまで練習はしなかったけれど扱えない物じゃなく、へんな武器なんか渡されるよりはよっぽど良かったと言える。


 何回か槍を振る。

 感触を確かめ、忘れていた槍の動作を思い出そうと体を動かしてみる。

 

 天井もそれなりに高いので地下の閉鎖空間にしてはちゃんと槍を振り回すスペースがあって助かった。

 それっぽくは動かすことはできるがやはりぎこちなさは抜けない。


 槍の動きに関して頭に思い浮かぶのはテユノの姿。

 テユノは短槍を扱うのでリュードの持つ普通サイズの長槍ではやや扱いが違うがパッと思い出せるのがそれなのでテユノの闘う姿を参考にして槍を動かす。


「ふぅ……こんなもんか。


 あとはこれが例の魔道具か?」


 いつ次のステージが始まるのか分からないので体力は残しておかねばならない。

 食料があるのですぐに始まるとは思えないが程々のところで切り上げておく。


 槍を置いて部屋の別の隅に目を向ける。

 そこには変な物が置いてあった。


 これが手紙に書いてあった魔道具なことは一目して分かるがなんの魔道具なのかはよくわからない。

 第一印象で言えば亀。


 ラクダのコブを切り取ったかのような小さい小山に四つ足が生えている。

 子供ぐらいの大きさがあって中々存在感がある。


 コブの真ん中らへんには水晶みたいな物が嵌め込まれていて、変な魔道具である。


 ちなみにこの魔道具何かもう発動していて、リュードが動くと水晶が常にリュードの方を向くように動いていた。

 なんとなく見られているような気がして嫌な気分になる。


 落ち着かないリュードだったがまさしくこの魔道具はリュードを見ているのであり、この水晶を通した映像が映し出されることになるのだがリュードはそんなこと知る由もない。


 ただ今は第二ステージも始まっていないのでまだスクリーンも出ていない。

 どこに映し出されているのかと言うと、第一ステージでリュードのことを気に入った一部の方々がお金を払って個人的にリュードの姿を見ているのであった。


 見られているとも知らず槍を振っているリュードの姿はマダムたちに人気であった。

 割と人気が高くてリュードの姿をもっと見たいと要望があって亀のような魔道具は少し前に出る。


 しかし前に出てきたことをリュードが怪しんで必要のない時は食料が入っていた袋を魔道具に被せてしまった。

 壊したわけでもなく、注意もしに行けないのでマダムたちのリュード観覧はそこで終わった。


 噂を聞きつけたマダムがリュードを見ようとしていたのだがもう見れなくてガッカリとしていた。

 見れなくなる前にリュードを見ていたマダムはどんなだったのかを得意げに語っていたとかいないとか。


 ずっと明るい地下では時間がわからない。

 昼なのか、夜なのか、そんなに時間が経ってないのか、経ったのか。


 長いこと待たされている気がするのだけど実際のところは分からない。

 時折槍を振って鍛錬し、飯食べて、薄い布団で休む。


 日持ちするように作られた食料たちは中々食べていて飽きが来る。

 暇だからと槍の扱い方を思い出そうとするけれどウォーケックも剣がメインの人だったし、リュードも割と早い段階で剣をメインにするつもりだったので剣を主にした教え方だった。


 どうしてもウォーケックに教えてもらったものよりも見え覚えているテユノの動きに近い動きをしてしまう。

 そんな風にしていると、突然壁が動き出した。


 ちょうど階段があったのと真反対の壁が横にスライドして開いた。


「……ようやく始まったのか」


 始まる始まらないはいいけど水浴びくらいしたいとリュードは思っていた。

 暇なので槍を振り回していたが動けば汗をかく。


 清潔で余っている布もないので体を拭くこともできない。


 ため息をついて部屋を出ていくリュードの後ろを亀の魔道具がゆっくりとついていく。

 武器として槍は悪くないと思ったが少しよろしくないと思った。


 通路が思ったよりも狭いのだ。

 剣を振り回すのにも大変そうなぐらいの幅しかないので槍を取り回すにはもっと厳しい。


 槍に不慣れなリュードが槍にとって不得意なフィールドで戦うのは大変そうだ。

 もうちょっと開けた場所でもないかと足を早める。


 ここで誰かに会うことになると危険である。


 そうして進んでいくと壁の感じが変わってきていた。

 これまでは岩盤を削った、人工的な感じがしていた壁が少し広くなり、ゴツゴツとした手の加えられていない天然岩肌のような感じになってきたのだ。


「なんだ?


 ここは洞窟だった……のか?」


 地質学にまで詳しくないので壁や地面を見てここがどんなところかまで知りもしない。

 真っ直ぐに一本道になっている通路を進んでいくと開けた空間に出た。


 見回すと鍾乳洞のような、人の手で切り開いた部屋ではなかった。

 洞窟の一部のような自然に出来た空間である。


 そして、ほのかに臭う血の香り。

 ピリついた空気。


 少し前に進んだリュードは身をよじった。

 リュードがいたところをナイフが通り過ぎ、天井から男が落ちてきた。


「ははっ、やるじゃないか!」


 天井から落ちてきた男は着地の勢いを生かしてリュードに飛びかかるとまだ血の乾いていないナイフを突き出した。

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