あの人を追いかけて1
「ちょっといいですか?」
「なんだい?」
「情報屋さんがどこにいるか知らない?」
「……知らないね」
ジッとギルドの中を見ていたルフォンは酒場の隅に座る年配の女性に声をかけた。
当たりだとルフォンは思った。
流石に一発ではなく3人目であるが前の2人は怪訝そうな目でルフォンを見たり、鼻で笑ったりされた。
どちらの人にしても情報屋なんか知らないか、知っていてもろくな情報屋しか知らないだろう。
何の反応もないように装っているが何の反応もないように見せていることが逆に怪しい。
昼間のギルドの隅で気配を消してジッと一杯のお酒を飲み続けているのも何かの事情がある。
そう、この女性が情報屋だとルフォンは思った。
ルフォンたちはトゥジュームの首都を訪れていた。
冒険者ギルドでは情報を得られないし、噂程度では話にならない。
ここは1つ情報のプロに頼むことにした。
大都市であれば大体情報を商品として扱う情報屋が1つはあるものだ。
大っぴらに店舗を構えているものでないが情報屋というものなのでまず探すことから始めなければならない。
情報屋がいる場所は知らなきゃ辿り着けないが店に行く以外にも大きな情報屋ならアクセスできるところもある。
多くの場合冒険者ギルド周辺に1つはそうした情報屋がらみの人がいる。
情報収集も兼ねた窓口があるはずだとルフォンはリュードから聞いていたのだ。
情報屋を利用する必要性がなかったので利用したことはなかったのでルフォンも手探りで探していたが冒険者とはまた違う雰囲気をまとう年配の女性が情報屋だと確信して目の前に座る。
「今すぐ情報が欲しいの」
テーブルの上に金貨を1枚を置く。
口をつけかけていたジョッキを話して驚きの視線をルフォンに向けた年配の女性。
金貨といえば日常じゃほとんど使われない高額貨幣である。
今日一日これで全員にお酒を奢ると言っても足りる可能性があるぐらいの金額である。
「……何のことか分からないね。
そんなもの人に見られると危ないからしまいな」
「トゥジュームの貴族がやっている大会について知りたいな」
もう1枚金貨を上乗せする。
前に冒険者ギルドでやったのと同じやり方だが金額が違う。
ルフォンは交渉事が得意ではない。
相手が情報をくれてやると言うなら言い値を払うつもりだし条件があるなら飲むつもりもある。
仮に騙したのなら今のルフォンはそれを許すことはないし、お金を奪って逃げるとしてもルフォンから逃げ切れる人はそう多くはない。
金貨を見せられて動揺もしない人は多くない。
何の関係もない人でも嘘を並べ立ててでも金貨を欲するだろうに年配の女性はわずかな動揺を見せただけで金貨に対して欲を見せてこない。
商売人の香りがする。
大きな金額に手を出さないあたりに確信が深まる。
「もうそこでやめな」
もう1枚をさらに重ねたところで年配の女性がルフォンを止める。
迷った。
金額にではなく、こんな金額を出せるルフォンという人物が分からなくて迷った。
ポンと出せる金額ではない。
これほどの金額を出して、まだ出してくるような気配まであった。
この国の人間ではなさそうだし情報屋の知らない権力者の可能性もある。
金の力はバカにならない。
大きな金額を出せるだけで汚い仕事をやる人を雇うこともできる。
関わるべきか、完全に否定してしまうべきか。
下手すると情報屋全体が危機に晒されてしまうかもしれない。
言葉少なに金を積んで圧力をかけてくるルフォンは只者ではない雰囲気をまとっていた。
リュードを助けたいという覚悟がルフォンにいつもにはないような威圧感をまとわせているのだ。
「分かった。
場所を変えるよ」
金貨が積まれていく異常な光景。
昼間、冒険者ギルドの隅で行われていることなので周りに気づかれておらず注目されていないが一度見つかると視線が集まってしまう。
この若い女性を動かしているのは何なのかと気になった。
「……あんたの仲間かい?」
「はい」
「そうかい。
付いてきな」
年配の女性について冒険者ギルドを出るとラストとミュリウォがいた。
3人で冒険者ギルドの中をうろついていると目立ってしまうのでルフォンだけで情報屋を探していたのだ。
2人の視線にルフォンはうなずき返す。
ルフォンは情報屋についていき、ラストとミュリウォはルフォンについていく。
冒険者ギルドからそう遠くない酒場の奥の部屋。
執務室のような小部屋。
正面には大きなデスクがあって、壁には地図が貼ってある。
けれど窓もなくこの部屋には1つの出入り口からしかアクセスできない。
情報屋はマントをかけてそのままデスクの椅子に座る。
「さて……招かれざるお客様よ、私はカディア。
情報ギルドサドゥパガンの支部長さ」
光の加減によっては黒にも見える深いグリーンの瞳がルフォンを見据える。
「本来なら何の紹介もなく情報の取引はしないんだけどね」
あれだけの金額を積めるなら手段を選ばなければ欲しい情報にいつかは辿り着けるだろう。
知らぬ存ぜぬを貫いてもよかったが売ってもよさそうな情報だし、何よりルフォンに興味を持ってしまった。
正体やどうしてそんなお金を持っているのか気になるが、なぜお金を積んでまで貴族の集まりについて知りたいのかが気になる。
「それで何について知りたいのかもう一度聞かせてもらえるかい?」
「今この国では貴族たちが奴隷を集めて何かをしていると聞きました」
「あぁ、あの趣味の悪い催し物だね」
「その大会についての情報が欲しいんです」
「ふぅん、あれについてね。
どこまで知りたいんだい?」
参加している貴族について知りたいというなら情報料も調べる時間も相当かかる。
貴族の情報を調べるのには大変だし、リスクも伴ってくる。
「大会の場所と時間、それに参加する奴隷に特徴が一致する人がいないか調べてほしいんです」
「奴隷をかい?」
予想外の方を調べてほしいと言われた。
貴族ではなく奴隷の方を調べてほしいとは思いもしなかった。
「それと最近話題になっている人攫いについても調べてほしいんです」
「……人攫いについて、ね」
ここまで聞いたら事情は察することができる。
なぜ貴族の大会の情報を欲しがるのか話が見えた。
「ふぅむ……大会の場所と時間はすぐに教えてあげるよ。
けれど参加する奴隷とか人攫いについては今すぐってわけにはいかないね。
奴隷の方は難しくないだろうけど人攫いの方はどうだろうね」
奴隷の調査については問題ない。
けれど人攫いの方は楽な仕事じゃなさそうだ。
冒険者ギルドの方に圧力がかかっていることは情報ギルドも当然把握している。
無理に調べて国や貴族に目をつけられるのは嫌なので人攫いについては手を出してこなかった。
「調査してもいいけどそうだね、金貨で5枚、銀貨なら150枚払うってなら引き受けても……」
「はい、お願いします」
ルフォンはすぐさま懐から金貨を5枚出してデスクに置いた。
「……調べさせてもらうよ」
初めてカディアの顔がひきつった。
3枚の金貨は見たがそこからさらに金貨を持っているとは思えず、かつためらいもなく出してくるなんて想像していなかった。
カディアは金貨を手に取ると拡大鏡を使って金貨が本物か確認する。
これはかなりふっかけた金額だった。
値引き前提の金額で相手が多少なりとも渋ることを予想した上で提示していた。
少しでも渋ればすぐに値引きしてそれを相手に押し付けて、この話し合いの立場を優位に進めようと思っていた。
それなのにルフォンはポンと言い値の額を払ってしまった。
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