毒草を探せ2

「ルフォン様……」


「うん、わかってる」


 囲まれている。

 監視役の人がまた来たのかと思ったけれど違っている。


 堂々と姿を現してルフォンたちを取り囲む。

 身なりはお世辞にも綺麗とは言えず隠密とはかけ離れて大きく音を出して動いている。


 囲う人数も頭数が多くルフォンたちを監視している人ではないことは確かである。


 ブンと音がして1人がおもむろに斧を投げつけた。

 ヴィッツがそれを受け流すようにして地面に叩き落とす。


「あなたたち何者ですか?」


「お前らこそこんなところで何してやがる。


 ここは俺たちのナワバリ。

 よそ者が勝手に入ってきていい場所じゃねえぞ」


 いわゆる山賊という連中。


「ただ俺たちはただの荒くれ者じゃねえ。


 無事に出たいというなら出してやってもいい……ただしそこの女を置いてくならな。


 そうすりゃそこのジジイの命だけは助けてやるってもんよ。

 紳士的だろ?」


 ルフォンをいやらしい目で見て大笑いする山賊たち。

 何も面白くなく、ただただ不愉快で不快。


「あなたたちこそ、今逃げ出せば命だけは助けて差し上げますよ?」


「なんだと?」


「ちなみに私たちはイェミェンという植物を探しているのですが何か知ってはいませんか?」


「あぁ? お前らなんでアレを探しにきた!」


「ほう? 何か知っているようですね?」


「悪いがイェミェンはやれねえな。


 お前ら、こいつらをとっ捕まえて誰の差金が聞き出すんだ!」


 山賊たちが一斉に武器を構えてルフォンたちを取り囲む。

 聞き出し方は指定されていない。

 ルフォンに対して下卑た妄想を膨らませている奴もいた。


「あのリーダー風の男さえ無事でしたら他の者はどうなっても構わないでしょう」


「オッケー、人のこと嫌な目で見てくる罰は受けてもらうよ」


 ある意味頭の中が桃色の妄想でいっぱいだったやつは幸せだったかもしれない。

 その妄想のままに最後を迎えることになったのだから。


「なっ、速い……」


 動き出したルフォンに山賊たちはついていけない。

 両手のナイフで流れるように山賊を切りつけていくルフォンに全く反応ができずに何人かが喉から血を流して倒れていく。


「おい、こっちのじいさんを誰か」


 山の中で執事服のヴィッツは細めの片手剣で山賊の首を刎ねる。

 素早く無駄のない動き、相手の次の行動を予想するように山賊の攻撃をかわして一撃で仕留めていく。


「な、なんだこいつら……」


 十数人もいた仲間たちが次々にやられていく。

 山賊たちは全くルフォンたちの相手にならず、残ったのはリーダーの男とルフォンたちの実力の差がわかって怖気付いてしまっていた何人かの獣人族だけであった。


 ルフォンもさることながら服に返り血すらつけていないヴィッツの腕前はかなりのものである。

 山賊ごときのレベルでは2人にかすり傷一つ負わせることもできなかった。


「お、お命だけはお助けください!」


 最初の勢いは何処へやら。

 山賊のリーダーは小さくなってルフォンたちに対して平伏する。


 そんなリーダーの姿を見て獣人族たちも地面に膝をつく。


 人数差もあるし、相手は小娘とジジイ。

 余裕で勝てると思ったのに余裕で負けてしまった。


 命のためならプライドも捨ててみせる。

 助かるためならなりふり構っていられない。


「イェミェンについてお教え願えますか?」


「そ、それは、その……」


「命が惜しくないというのならそのまま口を閉じていても結構ですよ」


「あ、いや、イェミェンがあるところまでご案内します」


 剣を首に突きつけられてあっさりと陥落した。

 ルフォンとヴィッツの2人では手に余るし処理も面倒であるので降参した残りの山賊は武装を解除して解放した。


 運が良ければ魔物にも会わずどこかに辿り着くだろう。


 本当なら山賊であるので捕まえてどこかに突き出したいのだけどプジャンの領地でそんなことをすれば目立つし、ゾロゾロと捕らえた山賊を連れて歩くわけにもいかない。

 大部分は倒したし武装も解除したので今後大きな問題になることはないからとりあえず逃す他ない。


「こ、こちらです」


 山賊のリーダーに案内されて山の中を進んでいく。

 山頂からでは見えない、山が裂けて人1人がようやく通れるぐらいの入り口がある洞窟に辿り着いた。


 周りは木々が多めのところであるし、山頂どころか近づかなきゃこれには気づけなかった。

 体の大きな山賊では横になってようやく入れるぐらいの裂け目。


 覗き込むと中は空間が広がっていて洞窟になっていた。


 ヴィッツが先に中に入り、警戒をする。

 壁にかけてある松明に火をつけると中の様子が見えてきた。


 先に続いている洞窟ではなく広い1つの部屋のようになっている洞窟だった。

 地面一面には赤紫色の葉っぱが生えている。


 これがイェミェンである。

 外から見えるよりもはるかに広い中にびっしりとイェミェンが生えていて全部取れば相当な量になる。


「イェミェンを栽培していたのですか?」


 ルフォンにナイフを突きつけられて洞窟に入ってくる山賊のリーダーに顔を向ける。


「栽培ってほどじゃ……上手く育つようには手を入れましたが元々ここに生えていたものです」


「うわぁ……こんなところにあったんだ」


「自然に生えていたものなら取っていっても構いませんよね?」


「はは……どうぞお持ちください。


 これが取る時に使ってました手袋とカマです。

 よければお使いください」


 生えている状態では人に毒の影響を及ぼすものではないと言われてはいるけれど、イェミェンはそれでも猛毒の毒草である。

 本当に影響がないとは言い切れないし、長時間触って確かめた人もいないだろうから手袋をして作業を行うのは正しい判断である。


 分厚い手袋をつけたヴィッツがカマで丁寧にイェミェンを刈り取っていく。

 その間もルフォンは山賊のリーダーの後ろに立って変なことをしないように警戒する。


 ヴィッツがイェミェンをカマで切るとイェミェンの香りが洞窟に広がる。

 匂いだけなら爽やかで良い匂い。


 リュードがいたならシソみたいな香りだなと思ったことだろう。


 イェミェンの必要量はそれほどでもないのだけど初めて作る治療薬なので失敗する可能性もある。

 ギリギリの量でなく余裕を持って多めにイェミェンを採取した。


 ただこれだけの量であっても一体どれだけの人を殺せる毒薬が作れてしまうことか。


「あぁ……」


 イェミェンは育成が遅い。

 あんなにいっぺんに取るものでもないし、大切に育ててきた苦労を思うと山賊のリーダーが泣きそうな顔になる。


 イェミェンにもう関わることはないのだから気にしなければいいのに残念に思ってしまう。


「1つお聞きしたいのですがよろしくですか?」


「……なんでしょうか?」


「ここであなたたちにこんなことをさせていたのは誰ですか?」


「えっ!


 そ、それは……」


 黒幕がいる。

 ヴィッツはそう考えていた。


 イェミェンは知る人が少ない毒草である。

 たまたま山賊がここを見つけたとしても生えている葉っぱを見てイェミェンだと気づくはずもない。


 こんな風に手袋を用意したり、手を加えて育成を補助したりするなんてことまずしないだろう。

 誰か知識のある人がイェミェンの育成を山賊たちにやらせている。


 うっすらと予想はできるのだけれど山賊のリーダーの口から出来れば吐いていただきたい。


「う……あ……グフっ!


 分かった、言う、言うから暴力はやめてくれ!」


 ヴィッツが突如として山賊のリーダーを蹴り飛ばした。


 カマを捨てて剣を抜くヴィッツ。

 口どもる山賊のリーダーに怒ったのではない。


「うぇ!?」


 山賊のリーダーがいたところに紫色の液体が落ちてきて、地面がジュワジュワと音を立てながら溶けていく。

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