契約交渉1
「お待ちしておりました」
ルフォンの同意も得られたしサキュルラストの力になろうと決めてから2日後。
リュードたちは再び領主の城を訪れた。
開かれた門の前で例の執事がすでにリュードたちを待っていた。
「ずっとここでお待ちに」
「もちろんでございます。
いつ来られるか分かりませんから」
軽い冗談に軽い冗談で返してくる。
「ずっと待ってるわけがないから……」
それにしても結構遠くから城は見えていたけどもう執事はいた。
流石にずっと待っていたなんてあり得ないからどこかのタイミングで出てきたのだろうけどどこでリュードが来ると分かったのか。
ちょっとだけ疑問に思ったけれど細かく聞くのも怖い気がしてリュードは気にしないことにした。
次の日ではなくさらに1日空けて2日後に訪れたのは準備を整えていたからである。
本来は宿でも取ってちょっとのんびりと町の様子でも見ながら次に行く道を調べる予定だった。
食料品や消耗品の買い出しもするつもりだった。
ところがついて初日にレヴィアンに絡まれてサキュルラストに絡まれて、宿を取ることでいっぱいになってしまった。
考えていたことは何一つ出来ずこのまま行くことができなかった。
大人の試練でどこに行くのかも分からないけどそこら辺でやれることでもなさそうだし最低限の準備は必要だと判断した。
なので1日かけて旅の準備を整えてからサキュルラストのところに来たのである。
大きな町の方が大体物価が安く物も良いので補給をケチっていたのがこんなところで裏目に出た。
何か美味いものでも食べるつもりだったのにお店をちゃんと調べる時間もなかった。
「うむ、よく来てくれた!」
通されたのはサキュルラストの執務室。
大きなデスクが2つ置いてあり、姉であるレストもサキュルラストの職務を補助していた。
やってきたリュードを見てサキュルラストが破顔する。
断られる可能性など微塵も考えていない笑顔。
「それで、受けてくれるのか?」
「ああ、一応はそのつもりだ」
「本当か!?」
「ただし大人の試練についてちゃんと話を聞かせてもらうことや俺にウソをつかないことが条件だ」
まだ詳細な話も聞いていない。
だから最低限の準備はしてきた。
乗り越えられないものは試練でもなんでもないので出来ることをさせられるのだろうけどしたくもないことをやるつもりはない。
人の道を外れたことやルフォンを裏切るようなことはリュードは絶対にやらない。
あとは複雑な事情が多そうだけどそれを一々秘密にされては対応に遅れが出る可能性がある。
言いたくもないようなことを無理矢理聞き出したりはしないけれどウソをつかれては困る。
「分かった。
大人の試練といっても難しい内容じゃないよ。
今年の大人の試練は要するに魔物を倒せばいいんだ」
大人の試練も時代ごと、あるいは1年ごとにでも変わる。
はるか昔、国になる前はバラバラだった血人族の各氏族のところに行って証をもらうことが大人の試練だった。
単にくれば渡してくれる人もいた時もあるし何かしらの条件を課す人もいた。
戦って認められなきゃいけないなんて条件を出す人もいて非常に困難な時代もあった。
各々の氏族長が出してくる大人の試練は内容がバラバラで個人的な好みや恨みといった受ける側にはどうしようもない問題で均一な内容ではなかった。
では今はどうなのか。
国として血人族はそれぞれの氏族という形はありながらも単一の国家のもとに統一されている。
大人の試練という風習も血人族の中では受け継がれてきて、今では国が執り行っている。
けれどリュードたちのように年を跨げば何歳というような一斉に同一年齢とみなすシステムはなく、大人の試練をする年齢になると国の方からこれがあなたの大人の試練ですよと指定される。
人数が多ければ何人かの試験監督を設けて戦って自分の力を証明させるような試練もある。
過去には多くの人が同時期に大人の試練を受けることになったのでそのための大規模な施設を設けたこともあった。
今でも大人の試練のために使われたり、子供の訓練用に利用されることもあるのだけどサキュルラストの大人の試練はダンジョン攻略と魔物討伐だった。
魔物の討伐は今では大人の試練として一般的な方法で指定の場所に行き、付近にいる魔物を討伐することが試練となっている。
ダンジョン攻略も魔物と戦う点では魔物討伐と変わりはないがちゃんとボスを倒すことが必要となる。
ダンジョン攻略は一般的な方法ではなかったけれど他に大人の試練を受ける人がいなければ魔物討伐よりも管理はしやすい。
ティアローザにはダンジョンが多いというのも大人の試練でダンジョンを使える理由の1つであった。
魔物を倒すだけなら分かりやすい。
リュードもその方が得意でうってつけの内容である。
「私が回るべきところは5ヶ所の予定」
バーンと手を広げて突き出しで5を表現する。
これが多いのか少ないのか。
過去最高レベルの多さである。
そもそも大人の試練とは通過儀礼であってそんなにガチガチで審査するものじゃない。
立場が上の人ほど厳しい試練を乗り越えなきゃいけないことはあるけれど5ヶ所もやらなきゃいけないのは過去最高に並ぶ多さだった。
他の兄姉でも多くても3つだったのに。
その上5ヶ所行くことしかサキュルラストには伝えられていない。
もしかしたらダンジョンが5ヶ所の可能性もあるし、魔物討伐を5ヶ所でやる可能性もゼロとは言い切れない。
ただダンジョンはあまり良い思い出がないとリュードは思う。
ボスも異常だったしそこまでの過程でダンジョンに潰されかけたなんて苦い思い出がある。
「とりあえず1つめはダンジョンってことは聞いたわ」
「そうか……」
あんな出来事はダンジョンを専門にする冒険者だって一生で一度も会わない出来事。
もうあんな目に会うことはないと分かっていてもちょっとウッと思ってしまうのは仕方のないことだ。
「正直にいうと1つ目のダンジョンから難易度は高いのだ……」
ウソはつかないと約束した。
ダンジョンは国で管理しているものがほとんどなのでダンジョン名を教えてもらえれば調べることは難しくない。
「それは別に大丈夫だ」
元より楽でないことは重々承知の上で受けた。
最初から簡単だって言葉1つも出ていないので覚悟はしている。
「もう1つ聞いておきたいんだけど俺が手伝ったとして見返りはなんだ?」
見返りを目的として手伝うなんてずるいことはしたくないが後々で揉める可能性もあるなら決めておいた方がいい。
他の奴のように権力や結婚を見返りとしているのではないから何か別のものを見返りとしたい。
見返りって言うと印象が悪いからお礼かな。
「み、見返りはだな……」
サキュルラストの目が泳ぐ。
何も考えていなかったな。
「わ、私のことを好きに……」
「いらん」
「い、いらんとはそれも失礼ではないか!」
「そういうことに興味がなさそうだから声をかけんだろ」
「はいはーい、じゃあ私が愛人に……」
「却下だ」
「じゃ、じゃあ私が嫁になって……」
「だからそういうのいらないって」
嫁になるのも1つ目の提案の遠回しな言い換えみたいなもんじゃないか。
「むむぅ……流石に女性としてのプライドが傷つく」
「プライド持ってるなら自分を安売りするようなことはするなよ」
現地妻を作るつもりなんてない。
助けてやるから体を差し出せなんて、それを1番嫌がっていたのはそちらじゃないかとリュードは思った。
もっと貰って簡単に終われるようなものがいい。
1番単純な例としては金になる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます