契約交渉2
「まさか、私たち姉妹2人をご所望?」
「違うわ!」
どう考えたらそのような発想になるんだ。
「うぅー、何か欲しいものはあるのか?」
困り果てたサキュルラストが逆に聞き返す。
そんなに困り果てるほどの提案などしてもいないのに。
「欲しいものがあるかと聞かれるとないな」
考えてみると今の状況に不満など特にないのだ。
お金に不自由しておらず、便利な道具も父親のおかげで持っている。
可愛い幼馴染とのんびり旅をして、神様から加護なんか貰ったりしてまだ強くもなれそうな感じまでする。
何となく神様方の注目を集めてしまっている気がしないでもないけど視線を感じるものでもないから気にしないでいれば大丈夫。
強いていえば平和に旅したいぐらいだけど、何か刺激が無くてもそれはそれでつまらず、またリュードも困った人を放ってはおけない性分。
サキュルラストに言ったところでなんとかなるってものでもない。
あって困らないのはやはりお金になる。
サキュルラストが出さそうなものを考えても大領主ならお金ぐらいだと思う。
ただしこんなところで直接のお金が欲しいなんて言うのはマナーとしていかがなものか。
品がない要求になってしまう。
サキュルラストはサキュルラストでも考えていた。
お礼にお金というのは当然サキュルラストでも思いつくものである。
手助けにお金で報いるのはありがちな行為だけど一方でそれだとリュードのことをお金で雇うみたいで、サキュルラストとしても嫌だし失礼に当たるのではと考えた。
互いが互いにお金を口に出すことがはばかられると思って言い出せない。
「……そうだな、じゃあ1つ頼まれてくれないか?」
このままでは埒があかない。
リュードはお金ではないお礼を考えて、いいアイデアが思い浮かんだ。
腰に差した剣をスラリと抜くと執事がピクリと反応する。
サキュルラストを切り付けるような素振りでもあったなら何かしらの行動もあったのだろうが殺気も感じないので警戒しながらも流れに任せた。
リュードの愛剣。
自分で掘り出してきた黒重鉄をふんだんに使った真っ黒な姿をした世界に1つだけの剣。
教わった通りに手入れはしてきたので剣身はいまだに美しい。
けれど綺麗に見えてもガタがきている部分もある可能性もある。
そろそろ一度プロに見てもらい、必要ならメンテナンスをしてもらう必要がある。
クラーケンと戦った時なんかは思いっきり海水に浸かってしまったし不安なところがあった。
「これは黒重鉄っていう金属で出来るんだけどこの黒重鉄を扱っている鍛冶屋なんか探してくれないかな?」
ここは魔人族の国。
真人族では黒重鉄を扱う人が少ないが魔人族の鍛冶屋なら黒重鉄を扱う人がいるかもしれない。
個人で黒重鉄を扱う鍛冶屋を探すのはなかなか骨が折れる。
聞いて回っていくにも黒重鉄を扱えますよなんて宣伝もしないだろうから知っている人も少ない。
運に任せて探していてはいつ見つかるか分かったものではない。
それならだ、人に探してもらえばいいのだ。
我ながら冴えた提案だとリュードは思った。
見つけられなくても探した実績があればお礼として成立するし見つかったら見つかったで武器の手入れが出来る。
大領主なら鍛冶屋ぐらい探すこともわけがない。
お金と言わない解決に自画自賛したい気分。
「えっと、それでいいのですか?」
黒重鉄を扱っている人が少ないとは知らずにサキュルラストが首を傾げる。
鍛冶屋を探すぐらいなんてことはないと考えているのだ。
「分かりました」
「そうねぇ、ヴィッツさん手配頼めるかしら?」
「かしこまりました」
執事の名前はヴィッツだった。
「それで、いつ大人の試練は始めるんだ?」
「んー……そうだね、早ければ早いほどいいから…………今日!」
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