大人になるために4
ゆっくりと古くて動きの悪くなった人形のように振り返るルフォン。
そこにはニッコリと笑ってタオルを渡したサキュルラストが立っていた。
「なんでいるのかな?」
よほどよだれを垂らしながら寝ていたことに動揺していたんだな。
2人がいることにやっとルフォンは気づいたのであった。
ドランダラスといいサキュルラストといい、お偉いさんってのは仕事もあるし腰が重いイメージがあったけどどいつもこいつもフットワークが軽い。
悪いことじゃないんだけどリュード達に対しては別にフットワークの軽さを発揮しなくてもいいのに。
比較的嫌な顔を見せることが少ないルフォンが珍しく嫌そうな顔をしている。
リュードから見るとなかなか新鮮な顔をしている。
だらしない寝顔もそうだし今日はサキュルラストのせいで希少なルフォンの表情が見れるな。
「朝食でございます」
ルフォンが2人を警戒するようにすすすとリュードの横にくっついて牽制していると執事が朝食を運んできた。
手のひらだけでなく腕にまで皿を乗せる巧みなバランスで素早く料理を運んでくる。
サキュルラストたちはもう食事は済ませているのか運ばれてきたのはリュードとルフォンの分である2人分の量。
執事が素早く何往復もして部屋にあるテーブルの上に朝食が並べられていく。
「どうぞお召し上がりくださいませ」
「私は食べ……るけど」
迷いが生じたルフォン。
敵の提供してきたもの食べるわけにはという思いと長めに寝たために空腹なことが頭の中でぶつかり合う。
見た目にもニオイにも良い。
思わずお腹が鳴るほど執事が持ってきた朝食は魅力的に見えた。
普段から料理をするルフォンにとって料理にはなんの罪もないことは分かっている。
せっかく作ってくれた料理を食べないで残すことはとても失礼だし料理が可哀想である。
鳴ったお腹の音を誤魔化すようにルフォンは席についた。
リュードも席に着くととりあえずサキュルラストとレストも席につく。
「んっ! 美味しい!」
ルフォンが一口料理を口に運ぶ。
ニオイの時点では相当期待度が高かった料理は味にうるさいルフォンをも唸らせた。
リュードも料理を食べると口に入れてすぐに美味い。
比較的なんでも美味いと言うリュードだけどこれは本当に美味い。
「お口に合いましたようで何よりでございます。
よければおかわりもお作り致すことできますのでお申し付けください」
「これ、すっごく美味しいです!
おじいさんが作ったの?」
「はい。
私料理が趣味でございまして。
宿にある食材ではありますが作ったのは私でございます」
てっきり宿が作ってくれたものを持ってくれただけと思っていたがこの目の前の料理はこの執事が作ってくれたものだった。
褒められて執事が嬉しそうに目を細める。
食べながら話でも聞こうと思っていたのに食事が美味しすぎる。
お腹も空いていたしまずは食べることを優先する。
「これどうやって作るの?」
堪えきれずにルフォンが出された料理の作り方を聞く。
「そちらはですね……」
執事は嫌な顔もせずにルフォンの質問に答えて作り方を教えてくれる。
次々とルフォンから質問が飛ぶが執事は1つ1つ丁寧に答える。
最終的にはほとんどの料理について1つは質問していた。
ルフォンは目を輝かせて執事の説明に耳を傾けている。
ルフォンの料理の腕前が執事に劣っているとは思わないけれどこの執事の料理はかなり美味しく、また趣味というだけあって知識もすごかった。
スラスラと答える執事の説明にルフォンは目から鱗な気分だった。
食べ終わった後はさっと片付けまでしてくれる。
こんなできた執事ならリュードも欲しいぐらいの人である。
寝起きの気分の悪さを帳消しにしてくれるような朝食タイムだった。
ルフォンはルフォンで片付け終わった後も執事を捕まえて質問をしていた。
スナハマバトルで貰った香辛料の中にはルフォンの知識の中にないものあった。
道中書店などによって調べたりするけれどマニアックな香辛料を扱う本はあまり多くなくて使い道がわからない香辛料もまだいくつもある。
執事の知識量を見込んで香辛料について質問してみると執事はなんとルフォンの疑問に答えてくれる。
かなり深い趣味のようでここまで来ると本職の料理人も顔が真っ青になりそうだ。
美味しいご飯と知識量によってルフォンの機嫌も治ったしリュードもなんとかフラットな状態まで持ってこれた。
不当侵入はとりあえず許してやることにした。
「それで用事はなんだ?」
本当の胸の内はサキュルラストのお願いを聞くつもりはなかった。
面倒ごとは避けたいので朝起きたらさっさと町を出ていくつもりすらあった。
もうこうなったら話だけでも聞かせてもらおう。
こっそり逃げることは無理だし。
くだらない用件でも満腹の今なら多少余裕を持って受け流せる。
むしろくだらない、すぐに終わりそうな話ならその方がいい。
イスよりも楽な体勢になりたくてベッドの上に座る。
「私たちを助けてほしいんです」
「助けるってなんだ?
ずいぶんと抽象的やすぎないか。
誰から、何を、どう、助けるのかちゃんと話してくれ」
そもそもサキュルラストは大領主という非常に強い立場にある。
一介の冒険者たるリュードとは比べ物にならない。
出来ることを比べてみてもただの冒険者に助けられることなんてほとんどないだろう。
「…………私は……先祖返りという特殊な体質なのです」
「ラスト……それは!」
「いいの、お姉ちゃん。
お願いするならちゃんと話さなきゃいけない。
それに話しても大丈夫だって、そんな気がする。
もし困ってもそれは私の責任だから」
ひどく買い被られたものだ。
人の秘密をベラベラ喋るような人ではリュードはないけれど会ってすぐに秘密を打ち明けられるような人では決してないだろう。
先祖返り。リュードたちも良く聞き覚えがある、関係のない言葉ではない。
なぜならリュードたちも先祖返りであるからである。
「それで?」
リュードは少しだけ真面目な顔つきでサキュルラストの目を見る。
先祖返りだから何があるのか気になってきたのだ。
それにどうやら先祖返りなことは秘密らしく、それを打ち明けてくれたのだから多少真面目に聞かないとバチが当たる。
まあでも先祖返りは素晴らしいことではあるけれど必ずしも歓迎されることでもない。
より先祖に近い特徴や能力を持っている先祖返りはその持つ力も先祖に近く、強いことが一般的である。
つまり先祖返りであるということは周りの同胞よりも頭1つ抜きん出た存在であると断言してもよいぐらいである。
そうした能力を持っていることは種族全体で見た時にはプラスの出来事であるのだが同世代の中で見るとどうしても浮いてしまう。
リュードやルフォンなんかは能力だけでなく見た目にも特徴が強く出てしまった。
能力も努力したものを除いてみても他の子よりも高いと言えた。
戦闘大好き、鍛えるの大好き民族でみんな努力を怠らなかった竜人族や人狼族だからまだ良かった。
それでも若干浮いていた。
リュードは先祖返りに加えて前世の記憶があることもあったけどルフォンなんかはリュードがいなかったら今でも内向的で引きこもりな少女になっていた可能性もある。
だから先祖返りを秘密とすることも分からない話ではない。
サキュルラストからは抑えていても分かる強い魔力をリュードは感じていた。
才能があると単に思っていたがそれは先祖返りの影響もあって強い魔力を持って生まれてきたのだろう。
ただ、先祖返りで強者であるというなら余計に何を助けるのか。
先祖返りを秘密にしていることと関係があるとリュードは予想した。
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