大人になるために2

「えーい」


「いったぁーい!」


 無表情のルフォンの攻撃。

 レストがサキュルラストにやったようにルフォンがレストのおでこにデコピンをくらわせた。


 声のトーンがマジでちょっと怖い。


「リューちゃんは私の!」


 ルフォンはレストが離れた隙にリュードの腕に自分の腕を絡ませる。

 思わず自分の物発言をしてしまったことにルフォンは顔を赤くするがリュードから離れない。


 リュードは自覚があまりないけどモテる。

 村でも外でもルフォンが側にいるし、女性に対して手が遅い方なので気づかない、気づいてても積極的にはいかないのだけどやはり強くて容姿のいい男性はそれだけで魔人族にとって注目の的なのだ。


 モテるというのは悪いことではない。

 パートナーにとってモテる相手というのは一種のステータスであって、そんな相手を捕まえられることは誇らしいことでもある。


 リュードは魔力も強く、剣なども強い。

 魔人族にありがちなワイルドさにはかけるかもしれないが穏やかで性格もいい。


 当然そんなリュードによってくる女性というのもそれに見合ったような女性が寄ってくる。

 強くて美人。そうした女性でなければリュードにアプローチもかけられない。


 さらにいうと強くて美人な魔人族の女性は結構な確率で個性的な人も多い。


 エミナはリュードの竜人化した姿の方が好きだし真人族という変態……特殊なパターンだった。

 

 テユノやこの2人のような一筋縄ではいかなそうな女性が寄ってきている。

 ルフォンは短い旅の間に改めてリュードがモテることを思い知って危機感を募らせていた。


 リュードの貞操は自分が守らなきゃいけないとルフォンは決意を新たにしていた。


「で、だ。


 この2人は誰なんだ?」


 おでこを押さえる似た者姉妹。


「こちらののたうち回っている方が妹であり、この城の城主、この大領地の領主であらせられます、サキュルラスト様でございます。


 こちらののたうち回っていない方が姉であります、サキュルレスト様でございます」


「くぅ〜お姉ちゃんのデコピン痛いって!」


 額の真ん中が赤くなっているサキュルラスト。

 力があるようには見えないのにサキュルラストが涙目でのたうち回っていたところを見ると結構な威力がある。


 音も低くて軽くぶっ飛んだし、決して軽いものではない。


「あなたが変なことするからよ〜」


 同じく額の真ん中を赤くしているレスト。

 人に変なことをしているという資格がレストにはない。


 まだ少女とも言えるサキュルラストの方がこの大領地の領主であることにリュードは驚いた。

 この国は4つの大きな領地と王の直轄領に分かれていて、それぞれの領地を大領地と呼んでいる。

 大領地もさらに分かれていて、領地となっている。


 今リュードたちがいるところも大領地の1つであり、その中でも大領地の領主がいる大領地の中心地であった。

 さらにその大領地の中心地の町の中心にある城にいる。


 どこかしらに大領地の領主がいると思っていたがまさかこのような少女だったとは思いもしなかった。


「お姉ちゃんのバーカ!」


 このティアローザでも大きな権力を持つ大領地の領主の1人。

 ……これが?


「お騒がせいたしまして誠に申し訳ございません」


「それらいいんですが、次からはこっそりと後ろに立つのはやめてください」


「申し訳ございません。


 ちょっとした戯れにございます」


「次はビックリして切りつけちゃうかもしれません」


「心に刻んでおきます」


 2人の説明をしてくれたのはリュードの後ろに立っている老年の執事だった。

 リュードでもほんの僅かにしか気配が感じられないぐらいでそっとリュードの後ろに立っていたのであった。

 

 ニコリと笑う執事には反省の色は見られない。


 今のところ出会った人たちのキャラが濃すぎて胃もたれを起こしそうだ。


「はぁ……ルフォン、行こうか」


 この国における4大権力者と他国の王子。

 関わっていて良いことなどなさそうなメンツ。


 ため息をついてリュードが部屋を出て行こうとする。


「まっ、待って!」


「…………なんだ?」


 サキュルラストがリュードの服に手を伸ばして引き留める。


 レヴィアンといい、サキュルラストといいよく呼び止められる日だ。

 振り返ってやる義務もないのだが手を振り払うわけにもいかなくてリュードは怪訝そうな表情でサキュルラストを見る。


 止められたから止まったけれど気分は良くない。

 帰れるならさっさと帰りたいのだ。


 いきなり自分の夫になれなんて言い放った相手だしにこやかに接しろという方が無理である。


「頼みがある!」


「嫌だ」


「まだ内容も聞いてないではないかー!」


 見知らぬ男を呼び止めてする頼みなんて絶対に面倒事でしかない。

 旅に出てからというもの、結構な厄介事に首を突っ込んできている。


 今だって厄介事なのにさらに厄介事舞い込まさせてたまるかってんだ。

 ようやく2人でのんびりと旅することにも慣れてきたのにまた問題を抱えるのはめんどくさい。


「頼み事ならそこの赤獅子の王子にでもするんだな」


「えっ、俺?」


「こんな短絡的で単細胞なヤツではダメなのだ!」


「え、たん……」


「扱いやすくていいだろ」


「そうかもしれんがそれだけじゃダメなの!」


 関係のないところでレヴィアンが傷ついてゆく。

 まるでこの場にいないかのような忌憚なきまっすぐな意見がレヴィアンの胸を刺す。


「もうヤメテ……」


 王族が故にあまり悪く言われることの少なく育ってきたレヴィアンは自分の悪い意見に慣れていない。

 リュードとサキュルラストの会話によってレヴィアンは横でダウン寸前になっていた。


「俺たちも旅してきて疲れているんだ。


 そろそろ帰してくれないか?」


 実際は泊まる宿すら見つけていない。

 それを言うと面倒そうなので言わない。


 けれどとりあえず早く解放してほしい。


「むう……分かった。


 使いをやるのでまた私のところに来て話を聞いてほしい」


「時間があったらな」


 行かない時の常套句。

 行くとも言わないし行かないとも明言しない。


「休息は英雄にも必要なものだ。


 疲れているとイラついたりして正常に話を聞けなくなるし次は優しい態度で頼むぞ」


 確かにレヴィアンのせいでイラついてはいた。

 それが態度に出ていないとは言い切れない。


 次がないことを祈っているけれど次があるならば多少優しくはしてやろうと思った。

 出会い方と最初の言い方がまずかっただけで夫にしてもよいと思ってくれるほど何かを認めてくれたのだから。


「それじゃあ、また今度会おう」


 決闘騒ぎがなぜかよく分からない終わりを迎えてリュードたちは城を後にした。


 お腹も空いたけど時間を相当食われてしまったのでまず宿探しをすることにした。

 いつも泊まるような価格帯の宿は時間が遅くなってしまったせいなのか部屋が埋まってしまっていて取ることができなかった。


 それにすこーしだけイラついたし、精神的にも疲れていた。

 早く休みたかったし宿を決めて食事も取りたかった。


 同じ価格帯の宿を探したりするのは時間がかかるし、値段を下げた安宿に泊まるのは今日ばかりは嫌だった。

 思い切って少し高めの宿を探してみると空いている部屋があったのでそこに泊まることにした。


 食事も宿の人に勧められるままに近くのちょっとお高めのところで食べて、その日は柔らかなベッドの上でゆっくりと休んだ。


 ーーーーー


「おはよ〜」


 寝返りを打つ。


「おはよう」


 体勢を横に向けるのを諦めて仰向けになって天井を見つめる。

 気持ちの良い微睡が薄れていき、意識がハッキリとしてくる。


 約束が違うではないかとリュードは思った。

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