魔人族の国2

 赤獅子人族の男性は自分に興味がなさそうなルフォンではなく、ルフォンがポーッと見上げる至極迷惑そうな顔をするリュードの方に目をつけた。


「お前、その女性をかけて俺と決闘しろ!」


「……なんだって?」


 強い者が偉い。

 強い者こそ子をなしていくべきである。


 未だにそんな価値観も顔を覗かせることがあるほど根強い。

 1人の女性を巡って決闘をする。

 そんなことも昔はあったと聞いたことがある。


 真人族じゃそんなことまず見られない。

 それなりに価値観も変わってきた今では女性にも選択する権利があるので女性をかけて決闘なんてすることはない。


 そもそも昔でも女性の合意は要したのに断られたから決闘するなんて有り得ない話だ。


 全くないかと言えばゼロではないが決闘するなんてことは田舎の若者が殴り合いをするぐらいのレベルのもので神聖な真正面からの戦いという意味合いは薄い。

 まして王族の者がこんな白昼堂々と往来の真ん中でやっていいことではない。


「き、聞こえなかったのか!」


「いや、そうじゃないけど、いいのな?


 その言葉今ならまだ聞かなかったことにしてやるぞ?」


「ふん、怖気付いたのか。


 俺は言った言葉を引っ込めたりしない!」


 ここで引いたり断ったりしてはリュードの名誉に傷がつく。

 臆病者のそしりを受け、あっという間に町中の噂になる。


 ルフォンは物じゃない。

 だからこんな決闘受けたくはない。


 でもこんな町中で名誉を失えば取り戻すのは難しく、ルフォンを物扱いしたコイツを許すわけにはいかない。


 名誉なんてドブに捨てても構わないのだけどここで引いてしまったらリュードを負けと見なしてルフォンを引き渡せというかもしれない。

 またはリュードが決闘から逃げたらルフォンに対する今後の声かけもかわすことが難しくなる。


「分かった……ルフォンは渡せないから受けてたとう」


 冷静を装いながらリュードは色々やらかしてくれたこの赤獅子人族の男性に怒っていた。

 ルフォンをかけて決闘だなんてとんでもない話だ。


 例え王族で今後獣人族の国に入ることができなくなったとしても骨の1本や2本は覚悟してもらう。


 (どうしてこうなったー!)


 対して赤獅子人族の男性レヴィアンは焦っていた。

 子供の頃から頭に血が上りやすい性格ですと表されてきた。


 1度間を置いて頭を冷静にしてから発言しなさいと何度も言われてきた。


 一目惚れをしてしまった。

 強さや見た目も完璧でその笑顔(リュードに向けたもの)に胸が熱くなり、恋というものを知った。


 レヴィアン自身は花になんて興味がない男で食べ物でも貰った方が嬉しいので、周りにあった店からとりあえず肉を買ってきた。

 そして花束のように差し出して勢いで告白した。


 受けてくれるなら本気で愛するつもりだった。


 しかしとりつく島もなく断られてショックで一気に頭に血が上ってしまった。

 それでも頭の片隅に残った冷静が兄の言葉を思い出させた。


「女性にそのような尊大な態度ばかりとっているとモテないぞ」


 ルフォンに対して何か言葉を出すのは押しとどめたのだけど引き止めてしまった。

 焦ったレヴィアンはターゲットをルフォンからルフォンと腕を組むリュードの方に変えた。


 俺と戦えよなんて声をかけられていたのをレヴィアンも聞いていた。

 だからなのか咄嗟に口を出た言葉が決闘しろだった。


 一般人の決闘なんかと違って王族が決闘するなんてそんなに軽いものではない。

 道のど真ん中でやらしてしまったレヴィアンはかなり動揺していた。


 堂々としているように見えて実は足が震えている。

 決闘という強い言葉を使ってしまった以上は撤回もできなかった。


 よくよく見るとリュードはレヴィアンよりも強いことが本能的に分かる。

 周りの人からするとレヴィアンもリュードも格上なので強いことが分かってもどちらの方が上かまでは判断できない。


 レヴィアンだけが自分よりリュードの方が上だと分かっていたのであった。


「勝負の決着は……そうだな、どちらかが死んだらにしようか。


 いいな?」


 よくない。

 コイツヤバイ!とレヴィアンが思う。


 自分が王族であることは聞こえているはずなのに命をかけるなんて異常思考すぎる。

 よほど女性が大切なのか、それともイカれているかだ。


「ま、待て!」


 ルフォンから腕を離し、剣に手をかけるリュードに本気で命の危険を感じたレヴィアン。

 なんとかこの場を乗り越えなきゃいけない。


 せめて周りの目がないところにいかなければと頭の中で必死に考えた。


「なんだ?」


「こ、ここでは周りの人に危害が及ぶ可能性がある。


 別の広い場所に移らないか?」


 面白い見せ物だとリュードとレヴィアンの周りには丸く人が集まってきてしまっている。

 派手な魔法とかを使うつもりはないけれどレヴィアンの実力が分からないので周りの人に危険が及ばない可能性を排除しきることはできない。


 レヴィアンの言葉にも一理ある。


「分かった。


 ただ俺はこの町が初めてだから良い場所なんて知らないぞ」


「俺がいい場所を知っている。


 ついてこい」


 リュードは当然この町に来るのは初めてなので広い場所なんて知らない。

 怖気付いていることをバレないように背筋を伸ばして歩くレヴィアンにリュードは付いていく。


 おかしなことをしたら後ろからバッサリと切るつもりで。


 どこへいくとも言っていない。

 付いてくるなとも言っていない。


 当然のように見に来ていた人たちも付いてくるがレヴィアンは変わらず歩き続けていく。

 向かっているのは町の中心部方向。


 町の中心にある城が大きく見えてくる。

 というかお城の方に近づいて行っている気がする。


「王子様!」


 そうして歩いていると何人かの獣人族らしい人たちがレヴィアンのところに駆けてくる。

 まさか仲間を呼ぶために連れてきたのか。


 いつでも剣を抜けるようにリュードは警戒する。


「ようやく見つけましたぞ!


 勝手にまた我々を撒いてどうするのですか!」


「どうしていつもそうなんですか!」


 様子を伺っているとレヴィアンが叱責される。

 駆け寄ってきた人たちは汗をかき息を切らせている。


 何か緊急事態でもあったのかと思ったけれどこの赤獅子人族の男性はヤンチャな性格をしていることが分かった。

 口々にレヴィアンに文句を言う獣人族の人たちはレヴィアンの護衛であった。


 王族が1人の護衛も付けないのはおかしいと薄々感じていた。

 護衛があれもこれもレヴィアンをたしなめて止めるので煩わしくてこっそりと護衛を撒いていたのだ。


 もし護衛を撒いておらず大人しくしていればこんなことにはならなかった。


「す……すまん」


 素直に謝るレヴィアン。

 護衛たちの言うことは最もで今後しばらくは護衛を撒くことはやめようと心に誓った。


「それで、こちらの方々は?」


 護衛の1人が嫌そうな顔をしてレヴィアンに問いかける。

 リュードを先頭にしてゾロゾロと人を引き連れている。


 歩いている最中もなんだなんだと人は増えていき、結構な行列ができていた。

 また何をやったのだと怪訝そうな視線をレヴィアンに向けると気まずそうに頭を掻く。


「その先頭の男女は俺が用があるのだけどその後ろの列は……物見客みたいなものだ……」


 ハハハと乾いた笑いで誤魔化そうとするレヴィアン。

 何も誤魔化せていない。


「はぁ……また何をやらかしたのですか……」


 面白い者が観れると思って付いてきていた人たちは護衛たちが声をかけて解散させた。

 ぶつぶつと文句を言いながらも他国の王子というお偉いさんの言うことに逆らうわけにもいかなくて、みなゆっくりと帰っていった。

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