熱き砂浜の戦い5
向こうの言う通りでライバルとなりそうなのはきっとバーナード・エリザペアになる。
そんな予感を感じながらリュードは砂浜にうつ伏せになってスタートを待った。
スタートの合図がかかると体を反転させながら勢いよく立ち上がって強く砂を蹴る。
リュードの前や横に並び立つものはおらず、砂にまみれるスライディングもすることなく余裕で旗を取ることができた。
予選は勝ち抜くことができた。
決勝戦のために集められた4人の中には当然のようにバーナードもいる。
「君なら勝ち上がってくると思ったよ」
入念にストレッチをするバーナード。
何組か本気で挑んでいるなと分かるペアもあるのだがその中でもバーナード・エリザペアは本気度もトップであるように感じる。
もちろんゆるーく競技を楽しんでいるペアも多い。
「きっと普通に走れば君の方が早いのだろうな」
決勝戦での走る距離は予選の時よりも長い。
相手の方が足が速いと認めてしまえばそれはやる前から敗北宣言しているようなものではないか。
自信満々に負けを認めるような発言をしたバーナードの顔をまじまじと見てしまう。
それに気づいたバーナードは白い歯を見せて笑う。
「しかしだな、砂浜には魔物が潜んでいるのさ。
もちろん、本当の魔物ではないぞ?」
バーナードの言葉の真意が分からない。
自分の方が遅いと言っているのにそれでもなお余裕のある態度に見えるバーナードに不安を覚えつつもリュードはスタートの体勢をとった。
「旗取り男性部門決勝戦を始めます!
よーい……スタートぉ!」
ウェッツォがスタートの合図に手を振り下ろして旗取りの決勝戦が始まった。
まず飛び出したのはリュード。
砂を蹴って4人の中で1歩2歩と前に出る。
スタートダッシュはまずまずだ。
このまま後ろを引き離していければと思ったら声が聞こえた。
「まだまだだな。
君は砂を解っていない」
横に並ぶ者はいない。
旗まで一直線、そう思っていたのに。
全身ムキムキの筋肉で重そうな体をしているバーナードがリュードの前に出た。
スタートの時点ではリュードの方が前にいたのに、バーナードに追い越されてしまった。
リュードが慌てて速度を上げようとしたが踏み込んでも足は砂に大きく食い込むだけでスピードに乗れない。
バーナードと競い合うように旗に飛びかかったものの、最終的にリュードよりも半歩前に出ていたバーナードの手に旗が収まることになった。
リュードの方が足が速い。
それは確かなのに。
それなのにバーナードに追いつかれて、前に出られてしまった。
敗北感。
久々に味わった感覚。
焼けた肌、極限まで絞った筋骨隆々な体、際どいブーメランパンツ。
己の肉体美を見せつけるかのようにポージングを取るスキンヘッドのナイスガイにリュードは負けた。
「はっ、はーん!
それじゃダメだぞ、ボウヤ」
「コイツ……ムカつく!」
旗を掲げるようにポージングをするバーナードに賞賛の声が飛ぶ。
本当に僅差だった。
見ている観客としても面白い戦いだったのでリュードを慰める声もあった。
「砂浜には魔物がいると言ったではないか」
「何という名勝負!
先に飛び出したのはリュードだったが驚異的な追い上げを見せたバーナードが逆転。
そしてそのまま旗を掴み取った!
流石は前回大会覇者!
シューナリュードさんもかなり惜しい戦いでした」
「なぜ……」
「知りたいかい?」
バーナードは落ち込むリュードに手を差し出した。
その手をとってリュードは立ち上がり、体の砂を払う。
「俺のほうが足は速いはずなのにどうしてバーナードさんに追い越されたのか分かりません」
「ふっ、簡単なことさ。
君は砂の上を走ることを分かっていないのさ。
地上と同じ感覚で同じように走るだけではダメなのさ。
ガムシャラに足に力を加えてしまうとむしろ速さに乗れなくなる。
特にここの砂は沈みやすいからね」
経験の差。
砂の上を走ることを甘く見ていた。
勝てるだろうとたかをくくってしまった。
スタートダッシュが決まって勝てると思った。
途中でも加速できると余力を残すのではなく最初から全力で走るべきだった。
慢心した。
「リューちゃん……」
反省するリュードにルフォンはかける言葉が見つからない。
「ルフォン、気をつけろ。
砂の上を走るのはいつもの感覚と違うし、あの2人はそれに慣れてる。
気を引き締めて走るんだ!」
「うん、分かった!」
例えお遊びのイベントでも勝敗が関わってくると本気になってきてしまう。
慢心して手を抜いてしまったくせに負けてしまって無茶苦茶悔しいリュード。
なんだかんだで争い事に負けたくないのが魔人的な性格の一面だ。
「ここで勝って私たちの優勝を確実にさせてもらうよ」
「負けないよ!」
ルフォンとエリザの間に火花が散るのが見える。
ルフォンも魔人族であり、負けず嫌いなところがある。
さっきは息止め対決で負けてしまった。
今度こそ負けられない。
幸か不幸かルフォンとエリザも別の組で予選となった。
注目株の2人は周りの大きな声援を受けながら走りどちらも見事に予選を勝ち抜いた。
「それでは旗取り女性部門の決勝戦、よーい、ドーン!」
「なっ、速い!」
リュードの戦いを見ていたし砂の上での戦い方は何かが違うのはルフォンにも分かった。
けれど何が違うのか正確には分からないし今から見つけて修正している暇もない。
ならやれることは1つだけ。
ルフォンは最初からトップスピードで走った。
砂に足を取られて思うようにスピードが出ないけどひたすら旗だけを見て足を動かした。
最初のダッシュではリュードもバーナードより速かった。
しかしその後追いつかれてしまった。
追いつかれなきゃいい。
相手の走り方がうまくて加速できるとしてもその前に速さに乗って、距離を作ってしまえばいい。
「おーっと、ルフォン速い!
スタートダッシュを決めて2位以下の参加者を突き放す!」
純粋にスピードを比べると実はリュードよりもルフォンの方が速い。
それなのにやはり砂場での走行は難しいのかエリザが少しずつ距離を詰める。
「はあぁぁぁぁ!」
けれども最初に作った差は大きかった。
エリザは差を詰め切ることができずに旗はルフォンが飛びついてゲットした。
「なんとなんと、旗取りは前回大会覇者であるエリザを下して息止め対決のリベンジとばかりにルフォンが勝利したー!
これでバーナード・エリザペアとシューナリュード・ルフォンペアが一勝ずつとなりました。
次の男女ペアで勝者が決まるのかー!」
展開的には勝ったり負けたりで熱く、司会のウェッツォの声にも熱が入る。
「やったよリューちゃん!」
「やったなルフォン!」
これで勝負はイーブンとなった。
「……どうした?」
「んっ、なんでもない」
リュードに駆け寄ってきたルフォンはいつものように頭を差し出してくるでもなくリュードの顔をじっと見つめた。
てっきり撫でるものだと思っていたリュードは不思議そうな顔をする。
照れ臭そうにリュードから顔を背けるルフォン。
何か別のことでもしてほしかったのだろうか。
旗取りの第3回戦、とでも言えばいいのか。
男性部門、女性部門ときて、次は男女で走るペア部門である。
男女で走るとはなんだろうと思っていた。
説明を聞くとペア部門での旗取りとはなんと足を結んで二人三脚で行うものだった。
慣れない砂の上、やったこともない二人三脚。
バーナード・エリザペアは前回大会でもやったことがあるだろうしこれはかなり不利だと言わざるを得ない。
「大丈夫だよ」
足を縛られているのでルフォンとは自然と密着するような距離になる。
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