熱き砂浜の戦い6
「私たちならどんな相手でも勝てるよ」
リュードを見上げるルフォンの瞳には確かな自信があふれている。
さっきは不慣れな足場に慣れず一敗を喫してしまったがリュードが敵わない相手ではない。
もう少し近づけば唇が触れ合ってしまいなぐらいの距離でルフォンの目を見つめているとなんだかリュードも自身が湧いてくる。
バーナードの自信満々な態度のせいで変に弱気になっていたかもしれない。
「……そうだな。
よし、スタートダッシュでルフォンみたいに逃げ切ってやろうか。
走り出しは結んである足から、それでオッケーか?」
「うん!
目にもの見せてあげようね」
まずは予選を勝ち抜くことからだ。
例によってバーナード・エリザペアとは別の組になった。
男女ペアでの難しさは単に二人三脚なだけなことではない。
ビーチフラッグよろしく、スタートの体勢は旗とは逆を向いてうつ伏せに砂浜に寝転んだ状態から始まる。
1人なら体を反転させることに問題はない。
しかし足を縛られた2人では反対を向くことも意外と難しいのだ。
様々なペアがワタワタと方向転換する中、リュードはかなり力技で反転してみせた。
立ち上がった瞬間に縛っていない足を軸にしてグルリと回転して前を向く。
ルフォンは前に飛び上がるようにして、リュードはそんなルフォンを引き寄せて勢いをつけて一気に反転した。
おかけでスタートダッシュが決まり、余裕で予選は勝ち残った。
「さすがだな、息もピッタリじゃないか」
足を縛られているのにいつも通りのように歩くバーナード・エリザペア。
バーナードがエリザの腰に手を回して歩く姿は普段からそうしているようだ。
「その距離感、初々しいな」
リュードとルフォンはお互いの肌が触れ合わないようにしている。
足は縛られているのでしょうがないけど上半身はちょっとだけ距離を空けている。
ある意味で互いを思い合っていると取れる距離感にバーナードは甘酸っぱい初々しさを感じていた。
「そうね。
私たちも最初はあんな感じだった……あら」
言われてみればそう感じるとエリザがクスリと笑う。
そんな様子を見て挑発されたと感じたルフォンはギュッとリュードの腕に手を回した。
自分たちだって触れ合えるのだぞとアピールするのだが顔が赤くなっているのが丸わかりである。
若い2人の近すぎない恥じらいを持った関係性。
昔の自分たちを見てるような気分になってバーナードとエリザは微笑ましくなった。
「スタート前から両者の間には激しく火花が散っております!
それでは旗取り最後の戦い、バーナード・エリザペアが勝つのか、シューナリュード・ルフォンペアが勝つのか。
それともまた別のペアが勝つのか目が離せません!
最後に旗を持っていたペアが勝者となります。
位置について……よーい、スタートぉ!」
都合4回目でも砂浜の上を走ることは難しい。
未だに慣れたとは言えない。
だから出来ることを全力でする。
最初から全身全霊での猛ダッシュ。
バーナード・エリザペアは足を出すタイミングを合わせるのに掛け声を使っていたけれどリュードとルフォンにはそんなものもなかった。
勝ちに向かって集中力の高まった2人は自然と息が合い、足が合った。
「速い、速ーい!
シューナリュード・ルフォンペア速い!
まるで普段から足を縛って生活しているかのような息の合い具合!
バーナード・エリザペアも負けじと食い下がるが……差が縮まない!」
「ルフォン」
「ううん、リューちゃん、2人で」
視線も交わさない短い会話。
2人は一際強く砂を蹴ると一直線に旗に飛びついた。
「取ったぁーーーー!
シューナリュード・ルフォンペアなんと2人で旗を取り高くそれを掲げましたー!
旗取りペア部門の勝者はシューナリュード・ルフォンペアだーーーー!」
歓声。
1番難しい走りだったのに1番早く走れた。
「へへっ、やったね。
次も勝ってこのまま優勝しちゃおうね」
「ああ、このまま優勝だな!」
今自分たちはノっている。
どんな競技が待ち受けていようとも勝てる。
足の縛りを外してもらったけれどそれでパッと離れるのも逆に恥ずかしくなって近いようなそんな距離を2人は保つ。
「名残惜しくも最後の競技となってしまいました。
この大会ラストを飾ります競技、それはスナハマラベック!
知らない人にとってはちょっとだけルールが聞き慣れないかもしれません。
簡単に申しますとこのラベックというボールを砂浜に落としてはならない、そのような競技となっております」
簡単にウェッツォがルールの説明をする。
なんだかこれは1番競技っぽいなと思っていたら、このラベックという競技よくよく聞くと要するにビーチバレーのようなものであった。
ボールを持ったりせずに体のどこかで跳ね上げて地面につけないようにしながら、漁用網で区切られた相手のスペースにボールを落とすという競技。
聞けば聞くほどバレーなのだが名前はラベック。
これはボールの名前から来ていて、そのボールの名前は素材となった魔物の名前から来ている。
今は別にその魔物で作られたものだけではないのだけれど元々そんな魔物の皮で作ったボールで遊んでいたことが発祥らしい。
用意されたコートは2つで戦いは勝ち上がりトーナメント方式。
この時点で勝ち目がないと棄権してしまったペアもあり計16ペアでの戦いになることになった。
ラベックの試合が始まるが1回戦目は16組のペアトーナメント表ではリュードたちの逆側の山からやっていくことになるのでリュードたちはお休みとなった。
リュードはともかくルフォンが口頭での1回だけの説明でちゃんと競技を理解できているか分からないので助かった。
1番他のペアで理解できているであろうバーナード・エリザペアは試合をしているのでそちらを見に行くことにした。
この2人は前回大会にも出ているしラベックがどんな競技か知っている。
相手ペアもラベックを知っているのか全く動けていないわけじゃないが慣れてもいないのか動きがグダグダ。
とてもじゃないがバーナード・エリザペアには敵わない。
それでも基本的な動きは見ることができたのでルフォンも基本ルールは理解できた。
そのまま危なげなくバーナード・エリザペアは勝ち抜き、リュードたちも呼ばれて試合の番となった。
相手ペアはエンジョイ勢の初心者。
非常にちょうど良い相手である。
リュードがいるのでまず負けることはない相手なのでリュードはルフォンのフォローを上手くしながら色々と練習を兼ねてやらせてみる。
運動神経もいいし、勘もいい。
みるみる間にラベックに慣れていき、ルフォンは上手くなっていく。
感じ的にはトスを上げるよりアタックが上手い。
リュードが上げてルフォンが決めるの流れが出来つつあった。
2回戦目はそうした流れを確立する様に動いていき、ルフォンも優秀なアタッカーとなった。
トスを受けるのも動体視力がいいので上手く、2回戦目は失点も少なく勝つことができた。
「ここまで来ると運命まで感じるな……」
ピクピクと筋肉を動かしてバーナードは感慨深そうな表情を浮かべる。
明らかに他とはレベルの違う戦いにこの2人が勝ち上がってくることは分かっていた。
「スナハマラベックはこれまでやってきた全てが高い基準で要求される競技……。
君たちならここまできてもなんら不思議ではない。
しかし優勝するのは私たちだ。
……ここで負けるわけにはいかない!」
バーナードが全身に力を込めると筋肉が盛り上がり、体が一回り大きくなったように感じられた。
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