熱き砂浜の戦い3
スナハマバトルの申し込みを済ませて次の日。
同じ砂浜に来てみると一夜にして特設ステージが作られていた。
およそ30組の男女がスナハマバトルのために集まっていた。
「それではー、第7回スナハマバトル、開催いたしまーす!」
ワーッと観客たちから歓声が上がる。
第7回とは思いの外続いているイベント。
多少は歴史あると言ってもいいぐらいの回数は重ねていて驚く。
「司会はこのウェッツォが務めさせていただきます。
解説はこの人、今大会のスポンサーでもあります、ギダンダ商会のバイオプラ会長です!」
「よろしくね」
アフロヘアーが特徴的なウェッツォに、緩そうなおじいちゃん解説員バイオプラ。
ウェッツォが簡単に大会の経緯なんかを説明したり、他のスポンサーを紹介したりする。
「優勝はそれぞれの競技で得られるポイントの総合得点で決まります。
それではまず1つ目の競技にまいりましょー!
1つ目は……ドキドキ!旗を倒すな、砂山崩しーーーー!
ルールは簡単です。砂を集めて作った砂山に旗が刺してあるので、その旗を倒さないように砂をかき出していってください。
刺してある旗を倒したペアは残念ながら脱落となってしまいます!」
1つの山に3組のペアが参加して競技を行う。
ここでおよそ10組が脱落することになるなかなか厳しい戦い。
「君たちはスナハマバトル初めてかい?」
「はい、そうです」
「ふっふっふっ、このスナハマバトルは仁義なき戦い……君たちに世の中の厳しさというものを教えてあげるよ」
早速安っぽい挑発をいただき、スナハマバトルが始まった。
競技なだけあって想像していた小さい砂山ではなく、人の大きさほどもある砂山に旗が刺してある。
最初は大丈夫だろうとみんな大きく砂山を削っていく。
「調子に乗ってもう旗を倒してしまったところもありましたが、他のところは大体順調。
もうどの山も慎重にやらなきゃ行けなくなってきましたね」
「そうですね。
この勝負崩さないことも大事だけどいかに次の人に倒させるかも大事になる。
攻めなきゃ結局、自分にまた順番が回ってくることになるからね」
大きかった砂山はだいぶ貧相になった。
旗を支えるにはかなり不安な山。
ヘタをすると旗の重みで自壊してもおかしくなさそうである。
「リューちゃん慎重に、だよ!」
「ああ、分かってる」
回り回ってきてリュードの番。
優しく触れただけでも山の上の方からサラサラと砂が落ちてくる。
もうこれなら次はあるかないかぐらい。
日和って余地を残し過ぎてしまうと次の順番では無理かもしれない。
崩さず、かつギリギリのラインを狙う。
ゆっくりと手を砂に差し込んで、大胆に、そして慎重に砂を掻き出す。
「ウソだろ……」
「オーッと! なんとなんと、第二組の山は何というバランスなのか!
これはもう旗が立っているのもキセキではないのかーー!」
旗が傾き、やってしまったかと思ったが、それ以上旗が倒れてくることはなかった。
挑発をしてきた次の順番のペアが驚愕する。
少し斜めになった旗を倒さずにどうやって山を崩したらいいのか、リュードでさえも分からない。
山を崩すどころか触れただけでも崩壊してしまいそう。
どうするべきなのか悩んでいたけれど審判の人に促されてペアの男の方がゆっくりと手を伸ばす。
「見てろよ、これが世の中の厳しさ……あっ」
世の中は厳しかった。
男が触れた瞬間砂山は崩れ落ちて旗は力なく倒れ落ちた。
「ここで第二組の勝敗が決しましたー!」
「やったー!」
「よしっ!」
リュードとルフォンがハイタッチをする。
山を崩してしまった挑発男は恋人なのかパートナーに蹴られていた。
やったリュードでさえ驚くバランスで回してしまったのだ、男のせいではないのであんまり怒らないでやってほしいものだ。
リュードたちが終わったのはほとんど最後の方だったのですぐに次の競技にいった。
「続きましての競技はこのデタルトス名物ヒュポクウォの大盛りの早食い対決だぁ!」
いつのまにかステージ上にはテーブルと器が並べられている。
「このヒュポクウォは食べた人がこんな声を出してしまったことが名前の由来とされています。
ペアのどちらかお一人に挑戦していただき、ヒュポクウォを早く食べてもらうだけ。
ひじょーにシンプルな対決です!」
「……ルフォン、俺が行く」
どんな奴が食べたのだ。
そう思っていたのだが並べられた器の中を見てそうも言っていられなさそうな雰囲気を感じた。
器の中には既に料理が盛られている。
なんの料理なのかまだよく分からないけど見た目にして普通でないことが見て取れる。
漂ってくる匂いからも分かる。
アレ絶対辛いヤツだ。
真っ赤な見た目に刺激的な匂い。
これはただの早食いではなく激辛料理の早食いである。
あんなものをルフォンに食べさせるわけにいかない。
激辛料理なんて食べたことのないルフォンはアレがどんな料理であるのか分かっていない。
むしろ見知らぬ料理だから食べてみたいとすら思っている。
リュード自身は辛い料理が得意ではない。
甘いものの方が好きなのである。
料理が並べられたテーブルに向かうリュードは覚悟を決めた男の顔をしていた。
「食べるだけ、なのですが1つだけルールがあります。
食べ終えたらパートナーへ一言お願いします。
それでは参りましょう。
ようい……ドーン!」
一斉にヒュポクウォを食べ始める。
フォークで持ち上げてみるとヒュポクウォは麺料理だった。
赤いスープがよく絡み、ツンとくる匂いが鼻にくる。
「うぶっ!」
「ひゃんだこれ!」
我先にと食べ始めた参加者から悲鳴が上がる。
流石にヒュポクウォなんて声は出していないけど辛さが苦手な人はヒュッぐらいの音は出していた。
悲鳴こそ上げなかったものの一口食べてリュードも内心悶絶した。
一瞬美味いと思った。
本当に刹那の旨味ですぐに口の中が辛さの暴力に襲われた。
一気に汗が吹き出してきて、魔法も使ってないのに炎を口から吐き出せそうな気分になる。
「この早食い対決に出たのはほとんどが男性の方です。
その中でも男気で食べ進めている方がなんと2名もいらっしゃいます!
前回大会の覇者、パートナーのエリザのためにヒュポクウォを食らう、バーナードぉー!
そしてそれに負けじとヒュポクウォに食らいつくのは1回戦の砂山崩しで神かがったバランスを見せた若い挑戦者のシューナリュードだー!
パートナーのルフォンは今大会のヴィーナス候補の1人でもあります!」
ヴィーナス候補とはなんぞや。
浮かんだ疑問も辛さが消しとばしてしまう。
目に入りそうな汗を拭って他の参加者を見る。
少し離れた席に座る日焼けをしたボディービルダーのようなムキムキスキンヘッドの男性と目があった。
他の人がグッタリと食べる手を止める中でこの男性だけがヒュポクウォを食べ続けている。
あれがバーナードだとリュードにはすぐに分かった。
そしてバーナードにもリュードのことがすぐに分かった。
「2人の男によるデッドヒート!
先に食べ終えるのはどちらになるのかー!」
旨味は早い段階で分からなくなったのに辛味だけはいつまでも舌を刺し、どれだけ食べても消えてくれない。
「ルフォン、俺はお前の料理の方が好きだ!」
器の汁まで飲み干してリュードがパートナーのルフォンに思いを伝える。
「先に食べ終えたのはシューナリュード!
パートナーの料理がいいと熱いメッセージをいただきました」
「エリザ、負けちまった、すまねぇ!」
「ここでバーナードもヒュポクウォを食べ終えたぁー!」
リュードがヒュポクウォを食べ終えてから遅れてバーナードも汁を飲み干して器を叩きつけるようにテーブルに置いた。
結局この料理を食べられたのはリュードとバーナードの2人だけで後はリタイアすることになった。
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