熱き砂浜の戦い2
恐る恐るといった感じでルフォンが打ち寄せる波に足をつけた。
ちょっとビクッとして波が来る範囲から逃げる。
そんなことを数回繰り返してようやくルフォンは海の中へと進んでいった。
エミナはそれを不思議そうな顔をして見ている。
何を隠そうルフォンはカナヅチであるのだ。
村の近くにも川はあったので大人が泳ぎを教えて、簡単に泳ぐ練習をする。
みんな身体能力もいいのですぐに泳げるようになる中ルフォンだけはいつまで経っても一向に泳げるようにならなかった。
村では重くて直ぐに水に沈む黒重鉄からとって、泳げない人のことを揶揄して“こっくー”なんて呼んだりしていた。
こっくーこっくーと言われるのがイヤでルフォンは必死に泳ぐ練習をしていたのだが上手くならずいつしか泳ぐ練習もやめてしまった。
つまりはこっそり練習していたのではない限り今もルフォンは泳げないのである。
水嫌いまでいかなくてもルフォンは水に対してやや苦手意識を持っている。
顔を洗うとかお風呂は平気なのだが海になると流石にまだ怖さがあるみたいだ。
真面目な顔をして迫ってくるルフォンはエミナのところまで行くことができた。
「来たよ!」
「う、うん!」
エミナの手をとってホッと一安心したルフォンはニパッと笑う。
2人のいる地点での海の高さはせいぜい膝の高さであった。
ビーチは一大観光産業なので徹底的に近くの魔物は排除されている。
今もボートで巡回しているし一応それなりの距離まで泳ぐ事はできる。
しかし今日はあまり本格的に泳ぐつもりはない。
ルフォンもなんだかんだ海に慣れてきたし、みんなで遊び始める。
水をかけあったりビーチボールで遊んだり、ちょっと魔法を使ったりして砂で城を作ったりと童心に帰って遊ぶ。
「海って楽しいね!」
最初のイヤイヤな態度は何処へやら、ルフォンは楽しそうにニコニコしていた。
浅いところ限定とはいってもルフォンの海に対する警戒心はだいぶ薄れてきていた。
みんなで遊んでいて時間を忘れていたけれどもうお昼も過ぎていたので海の家的なところにお昼を買いに来ていた。
結構人が並んでいたのでリュードたちとエミナたちで分かれて買い物することになった。
並ぶのは面倒だけれどこうした時間も醍醐味だと思うことにした。
こんな風に2人きりで会話するのも久しぶり。
たわいない会話をして折角の時間を楽しもうとする。
けれどもルフォンはやはり美人である。
並んでいると周りの男たちの視線がチラチラとルフォンに向いていることに気づいてしまった。
ちょっとだけ大胆めな水着だし普段は隠している尻尾も見えている。
リュードも周りにいる男と同じ立場ならルフォンを見てしまうだろう。
何かされたわけではないので文句をつけるわけにもいかない。
若干モヤモヤした不快感を感じつつもルフォンは周りの視線に気づいておらず、こちらはこちらで女性の視線がリュードに向けられていることに気づいていた。
互いが互いに気づいていることに気づいていない。
言うわけにもいかないのでそれぞれそんなことを顔にも出さないで会話を続ける。
リュードとルフォンがペアなのは見て分かるので声をかけてくる猛者は流石にいなかったのが幸いだった。
「ねえリューちゃん、あれ見て!」
突然何かを発見したルフォンがグッと腕絡ませて体を寄せてきた。
腕に当たる柔らかな感触にドキッとなったリュードだが慌ててルフォンが指差した方を見て顔を見られないようにする。
「スナハマバトル?」
ルフォンが指差したのは海の家に貼られた一枚のポスター。
真ん中にデカデカとスナハマバトルと書かれている。
何かしらの物騒なイベントなのかと思って良く内容を読んでみる。
どうやら血を見る系の激しいバトルではなくて平和的な競技系のものでバトルする内容のイベントであった。
「私これに出たい!」
「これに?」
珍しいこともあるものだ。
あんまりこのようなイベントに興味を示す方じゃないと思っていた。
まさかルフォンが出たいと言うなんて。
「…………ははぁ」
何がルフォンをそんなに惹きつけたのか、よーくポスターを見てみる。
「香辛料1年分……」
スナハマバトルは単なるイベントなだけではなくて優勝者にはちゃんと賞品が出た。
それは香辛料1年分。
すぐにピンときた。
「これが目当てだな?」
「へへ、バレた?」
ルフォンの趣味は昔から変わらず料理である。
旅の道中の料理番はルフォンが進んでやっている。
村では手に入る調味料や香辛料は限られていたのでこうして旅に出て珍しい調味料や香辛料を集めるのもルフォンの趣味の一部であった。
そんなルフォンにとって香辛料1年分とはかなり魅力的な響き。
普段はしないようなイベントにも参加しちゃうほど魅力的なのである。
香辛料1年分もただありふれた香辛料だけではない。
船での交易が盛んな港湾都市らしく輸入物の珍しい香辛料もいくつかある。
リュードでは名前も知らない香辛料も沢山ある。
これは競争率も高そうだとリュードは思った。
ルフォンは単純に香辛料としてみているけれどこの世界の香辛料はまだ高いものの部類に入るものが多い。
1年分の量ともなると結構なものになる。
決して軽いものではないけれど1年分の香辛料を売ればかなりの金額になる。
そのままデタルトスで売っても良い値段になるだろうし、ちょっと頑張って海から離れた大都市に持ち込めばさらに金額は高く売れる。
分かるものにとっては単純な金一封よりも価値があるものになる。
「ね、一緒に出よ?」
「一緒に?」
そしてこのスナハマバトル、参加者の要件は男女のペアであること。
「お願い、リューちゃん」
下から潤んだ瞳に見上げられては断れない。
申し込みは今日まででスナハマバトルの開催は明日。
「後で申し込みに行こうか」
折角ルフォンがこうしたイベントにやる気になっているのだから行くしかない。
負けても失うものもなく、勝ったら道中のご飯がおいしくなる。
やるだけやってみよう。
そのまま腕を組んで歩くことになり、周りの殺気のこもった視線を受けながらリュードたちは昼食を買っていった。
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