熱き砂浜の戦い1
敗北感。
久々に味わった感覚。
焼けた肌、極限まで絞った筋骨隆々な体、際どいブーメランパンツ。
己の肉体美を見せつけるかのようにポージングを取るスキンヘッドのナイスガイにリュードは負けた。
「はっ、はーん!
それじゃダメだぞ、ボウヤ」
「コイツ……ムカつく!」
どうしてこうなったのか、遡ること1日前。
港湾都市であるデタルトスはもちろん大きな港を構えた都市なのであるがその横には大きなビーチがあった。
観光地でもあり、もちろん泳いで遊ぶこともできた。
海を見てみたいというエミナとヤノチの要望を受けて、どうせ見に行くなら港から眺めるよりもビーチで遊ぼうとなったのだ。
ルフォンだけ少し難色を示したのだがリュードが水着になるというのを聞いて行くことにした。
男女逆転の考えではないかという気もするけど行く気になってくれたのだから何も言わない。
ということでまずは水着を買いに行った。
今後着ることはまずない。
とは思いつつも安物になると水で透けてしまうものもあると聞いた。
そうしたプレイでもしたいなら話は別だが公衆の面前で濡れ透けを晒すつもりはない。
しっかりした品質のものを買う必要がある。
もうすでによく分からない噂話が広まっているのに恥部まで見せてはいけないのだ。
間違いがないように大きくて評判の良い店を選ぶ。
いっても男物の種類は多くなく、ブーメランタイプのものも選べるわけがないので選択肢はさほど多くない。
対して女性物は結構力を入れているようで種類もあって選べる選択肢が多かった。
店員も混じって4人でワイワイと水着を選ぶ。
リュードたちは早々と水着を選んでしまったのでその間に他のアイテムを見ていた。
魔物の皮で作ったビーチボールやパラソルなんてものもあったし、海があり波があればサーフィンもあった。
海中用の銛や槍もあったり、シュノーケリングの道具みたいなものまであった。
プラスチックみたいな物はなくても魔物の素材を上手く使って似たような製品は生み出されている。
男の店員に聞きながらリュードとダカンも買い物をする。
更衣室的なところは混み合うと聞いたので縦長の更衣室代わりになるテントをだったり、水着の上からそのまま羽織れるローブだったりを購入した。
「長いですね、アニキ」
「そういうな、女性の買い物なんてそんなもんだから」
ダカンはいつからかリュードのことをアニキと呼んでいた。
いつから呼んでいたのかはっきり分からないし呼ばれているうちに慣れてきた。
一通り買い物を終えてもまだ女性陣は水着選びを続けていた。
海で遊ぶ機会なんてこの先いつ訪れるか分からないので本気で水着を選んでいた。
ダカンはゲンナリとした顔をしているけれどリュードは前世での記憶がある。
女性付き合いが豊富な方ではない、というかあまりなかったのだが女性がそういうところもあるという認識はダカンよりも出来ていた。
まだ時間がかかりそう。
そう思ったリュードたちは適当にお昼を買ってきてようやく買い物が終わった。
まだ日は高いので海に行くかは悩みどころであったのだがなんだかんだ楽しみなってきたみんなの意見で次の日に行くことになった。
「これが……海」
チラチラ見えていたなんて野暮なことは言わない。
「わぁー! すごいですね!」
みんな感動したように海を見ている。
リュードも海は見たことあるのでなんてことはないと思っていたのに、いざ久々に海を見るとちょっと感動した。
人はそこそこの人数がいて海の家的なものもある。
どこまでも広がる海は日を反射してキラキラと輝き水平線がどこまでも伸びている。
着替え用のテントと休憩用の小さめのテントを立ててまずはリュードたちが着替え、それからルフォンたち女子が着替える。
3人いっぺんに着替えるにはちょっとテントは小さい気がするけど先に誰が水着になるかで揉めるより3人いっぺんに着替えた方がいいのでキャイキャイと3人で着替える。
「お待たせ!」
「どう、ですか?」
「似合ってるかな?」
ルフォンとエミナが恥ずかしそうにリュードに尋ねる。
「……2人とも可愛いよ」
リュードが照れて視線を逸らす。
ほんの一瞬前まで直視できないことないだろうと思っていたのに、実際に目の当たりにそんなこと言っていられなかった。
エミナは明るい色をしたワンピースタイプの水着。
体型に自信がなくてあまり大きく露出することが躊躇われたので服っぽく服面積の大きいこのタイプの水着を選んだ。
ヤノチはビキニタイプの水着で腰にパレオを巻いている。
没落していたとはいっても貴族の娘なので上品さがあった。
こちらはダカンに意見に求めていてダカンは恥ずかしさでデレデレとしながらまともに言葉が出てこなくなっている。
「ちゃんと、見て?」
そしてルフォンは黒のビキニ。
照れ隠しに顔を背けたリュードの腕に手を回して顔を見上げる。
ルフォンもルフォンで恥ずかしく、頬がほんのりと赤い。
せっかく勇気を出したのだから見てほしい、そんな思いでリュードに近づいたルフォンなのだが近づかれると逆に見れなくなってしまう。
これまでのルフォンの印象は可愛いとかそういったものだった。
「ごめん……もうちょっとだけ待って」
「どうして?」
「その、綺麗……だから」
可愛くもある。
けれどルフォンはいつもに比べて綺麗だった。
普段とは違う格好なだけなのにルフォンはなぜだか艶っぽくいつもとは違って見えた。
知ってるけど知らないルフォンにドキドキする。
「へへっ、ありがとう、リューちゃん」
チラッと視線を落としたら嬉しそうに笑うルフォンがいて、リュードは空を見上げた。
耳まで赤くなったリュードは心の中で神様に感謝していた。
「えいっ!」
「あっ!」
「えへへっ、ルフォンちゃんだけずるいですよ!」
リュードの逆の腕にエミナが抱きつく。
「私はどうですか?」
「エ、エミナも可愛いぞ」
「見てないじゃないですかー」
「いや、さっき見たから……」
こんな動揺をするリュードは珍しい。
2人は顔を赤くして空中に視線を彷徨わせるリュードにクスリと笑った。
「おいっ、あれってまさか……」
「女の方見てたから気づかなかったけどまさか、あの?」
「あぁ……うわぁ、本当に可愛い子連れてんだ、ハーレム王」
そんな時聞き捨てならない言葉が聞こえてきた。
ルフォンたちは顔の良さから周りの注目を集めていた。
2人に挟まれるリュードも見られていたわけだがとうとう気付く人も出てきてしまった。
方や女の子を無理矢理パーティーに引き込む変態だったり、方や女の子が自ら付いてくるハーレムパーティーの長だったりと日々人の噂は愉快に変化していた。
リュードを見てヒソヒソと会話する2人はリュードのことをハーレム王と呼ばれる存在だと聞いていた。
原型もないにもあったものではない。
リュードの顔がさらに赤くなる。
静まると思っていた噂は変に面白おかしくなってしまったがために未だに形を変えながら広まっていた。
「みなさん、何してるんですか?
海、行きましょうよ!」
「もう1人増えたぞ……」
「いいなぁ、俺もなりてえよ、ハーレム王」
あいつら殴ってやろうかと思っていたところにヤノチから声をかけられてリュードたちはそそくさとその場を離れて海に向かった。
何もしてないから周りの目が気になって噂話に耳を傾けてしまう。
周りの声なんて遊び始めれば気にならなくなる。
「ルフォンちゃーん、おいでよー!」
エミナは初めての海でもバシャッと入っていき、ルフォンに手を振っている。
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