祖父譲りの正義感5
誘拐された人たちは精神的にも肉体的にも弱ってしまっていたので急いだのだが時間がかかってしまった。
デタルトスに着いた時荷馬車に多くの女性子供を乗せて、縄で繋がれた男たちを引き連れたリュードたちは大いに目立っていた。
異常な集団を見て飛んできた町の衛兵にアリアセンが事情を話す。
さすがに騎士団の副団長ともなると話が通るのが早い。
あっという間に兵士が集まってきて男たちを連行していき、村の人たちを保護した。
事後の説明はアリアセンに任せてリュードたちはその場を離れる。
アリアセンは何か言いたげだったけれど説明に追われて引き止められずリュードたちは隠れるように宿を探しに行った。
目立ちすぎ。面倒なことは避けたいので後で話を聞きたいというならいいけどみんなが見ている中で大人しく最後まで付き合う気にはなれない。
宿を取り荷物を置いたら次は飯。
大人数をいきなり抱えることになったのでどうしても食料問題があった。
若くて元気なリュードたちは節制して、子供たちに多く食料を分け与えたのでどうしてもお腹がすいてしまっていた。
港湾都市なので魚が上手いと食べに来たのに店を吟味する余裕もなくとりあえずで食事をとった。
あえて魚料理は食べず肉料理を中心に食べてお腹を満たした。
「ちかれたー」
ヤノチがベッドに倒れ込む。
肉体的疲労と言うよりも精神的疲労が大きい。
さすがのリュードやルフォンも気疲れしてしまった。
まあ護衛的な動きも経験することが出来たし良かったと前向きに考えてもみる。
「とりあえず今日明日は休んでそれから活動しようか」
「はーい」
ーーーーー
次の日はまず店を探した。
美味しい魚料理の店。
宿の受付で軽い気持ちで聞いたのに大論争が巻き起こり、最終的に15店舗ほど簡単な地図とともにお勧めいただいた。
途中途中で他にもいろいろ書き込まれているのでまるで道の駅に置いてあるオススメスポットの地図みたいになった。
焼き、揚げ、煮る、様々な料理を堪能した。
生で出しているところもあったのだがみんなに難色を示されてしまったのでリュードは生魚のお店は断念した。
基本的に海に近いところでないと生魚を食べる文化はない。
トキュネスもカシタコウも海に接しない内陸国なので魚を食べないことはなくても生魚は食べない。
リュードたちがいた村も海から遠かった。
川はあったけれど泥臭くて生では食べることはなかった。
お醤油のようなものがあるか分からないし生魚は行けたら1人で行くことにした。
そうしてのんびりとした後宿に戻った。
「さてと今後の方針だけど」
と言ったけど目標はない。
神様からされたお願いはあるけれどそれなりに時間があるし大分北まで行くことになるので急いで行くのは惜しい。
「エミナたちはどうするんだ?」
「どうするってなんですか?」
「そもそもお前たちが俺たちに付いてきたのも活動する拠点を見つけるためだったじゃないか」
建前はそうだった。
「そういえば、そうでしたね……」
ハッとした顔をするエミナ。
本来はトキュネスかカシタコウで活動するつもりだったのにそのどちらでも活動することが難しいので他国で活動することにした。
たまたま他に行くつもりだったリュードたちがいたので同行させてもらっていた。
というのがエミナたちの今の状態である。
エミナの仲間を見つけなきゃいけないと思っていたけれどヤノチとダカンという仲間が出来た。
もっと仲間がいてもよいけど、どこかに腰を据えて活動するにも十分なパーティーだと思う。
一緒に旅がしたいというならそれを拒む理由もまたない。
結局どうしたいかはエミナたち次第、ということなのだ。
多少海で遊んだり魚料理をまだ堪能したいのですぐに出ていくつもりはない。
その間にリュードも次にどこに行くのか決めるつもりなのでそれまでにどうするのかエミナたちにも決めて欲しかった。
「3人でよく話し合って決めておいてくれ」
ヘランドならトキュネスやカシタコウからも近く、魔物の活動も活発なので冒険者にとっても良い活動拠点になる。
まだトキュネスやカシタコウでの話が伝わってくる可能性もあるけれど最終的に国に戻って活動するつもりがある3人のことを考えると、離れすぎてもまた良くないだろう。
「この国の冒険者の感じを見るためにしばらくここで依頼をやっていこうか」
まだ冒険者ギルドの雰囲気とか分からないことの方が多い。
国によっても雰囲気が異なってくるので合わないとなったら別の国に行けるのも冒険者という職業だ。
縦に長い国で今のところエミナやヤノチの噂が聞こえてきてはいないけれどそういったところも広まっているようなら考慮しなきゃいけない。
首都のザガーの方でもいいし冒険者の拠点は何も大都市だけとは限らない。
選択肢が多いのはいいことだけど多すぎてもまた困りものである。
「魔物の討伐系依頼は多いな」
魔物の活動が活発なだけあって魔物に関する依頼が冒険者ギルドには多く張り出されていた。
酒場もレストランもやっているギルドでレストラン味が強い。
出入りしている冒険者の数も多い。
国が変わると魔物も変わる。
ここは特に海が近いので他では見られない魔物の討伐依頼がある。
他にも交易船に帯同しての護衛依頼や魚取りの手伝い依頼なんてのもある。
海系の依頼はリュードたちが受けることはないのだが危険が伴うためか海系の依頼は高めに依頼料が設定されていた。
「おい、どうして私を置いて行った!」
ボーッと依頼を眺めていると後ろから近づいてきた女性に肩を掴まれる。
「んっ? ああ、アリアセン、元気だったか?」
「何を呑気にのたまっているのだ!
私1人に面倒を押し付けて勝手に去っていくとは許せないぞ!」
ざわざわとしていたギルドの中の注目がリュードとアリアセンに集まる。
ざわざわの内容がこれまでの会話から騒ぎ立てる2人がどんな関係かに変わるのはあっという間であった。
「子供もいて私1人では対応しきれなかったのだぞ、お前も手伝うべきだろう!」
怒り心頭のアリアセン。
確かに逃げるようにその場を離れたことは悪いのだが場所か言葉を選んでほしい。
「あいつ子供を女に押し付けて逃げたって?」
「うわっ、やるだけやって逃げたのか、若そうな好青年に見えても最低のゲス野郎だな」
早くも始まる曲解。
誰もそんなこと言っていないのに言葉を繋ぎ合わせて想像力をミックスさせると頭の中で面白いようにストーリーが展開されてしまう。
毎回毎回なぜリュードをピンポイントでターゲットに絞って突っかかってくるのか。
ヒソヒソと聞こえてくる話ではダカンは皆の視界から消え、ルフォンとエミナとヤノチのハーレムパーティーを連れて妊娠した女を捨てたリュードの修羅場ということになり始めている。
どこかに吟遊詩人でもいるのか、人々が噂話に飢えているのか。
「分かったから……ちょっと別の場所に移ろうか」
「ふん、逃さないぞ!」
また逃げようとしているのか、アイツ。
そんな声が聞こえてきて思わず何人か手を出してもいいような気がしてしまう。
アリアセンが絡むとどうにも良くない。
最初に噛みついてきた時からそんな感じがしていたけれど頭に血が上りやすすぎて会話が通じない時がある。
戦い方は優秀だったのにカッとなりやすい性格をしているのだ。
なんとかなだめすかしてアリアセンをギルドから連れ出す。
しばらく活動するつもりだったのにこれでは女を捨てたとして顔を指されることになってしまう。
「……ほんとウソだろ」
せっかく休んで疲れを取ったのにまたドッと疲れた気分になった。
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