旅にも潤いを2

「わぁ〜、ルフォンさんのって綺麗な形してますね〜」


 なんと定番な会話!

 どこかで見たようなありがちな女の子同士の会話。


 ちなみにルフォンの胸は大きめ寄りの普通サイズ。

 直接見たわけではないからなんとも言えないけれど、ルーミオラから産まれたにしては頑張った方だと思う。


 実はリュードやルフォンよりも1つ年上だったエミナは普段はゆったりとしたローブを着込んでいるために分かりにくいが幼児体型。

 結構食事の量は食べているのにどこへ行っているのだろうか。


 そんなこともあってリュードはエミナのことを年下だと思っていたので年齢を聞いて驚いた。

 それでもエミナはリュードとルフォンをさん付けで呼び、リュードは呼び捨てでルフォンはちゃん付けで呼んでいる。


 今更呼び方を変えるのもおかしいのでそのまま呼ぶことになったのである。


「んー……エミナちゃんはもうちょっとだね」


 グサリとルフォンの言葉が刺さる。

 ルフォンなりの優しさだったけれどかえって厳しい言葉になってしまった。


 ルフォンから見てもエミナは起伏に乏しい体に見えていた。


「うぅ……もう諦めているので大丈夫ですよぅ」


 とは口で言っても落ち込むエミナ。


 エミナはルフォンをチラリと見て自分の胸に視線を落とす。

 ルフォンは身長も高くプロポーションがいい。体のバランスが良くてとても綺麗に見える。

 それに引き換え自分はなんとお子ちゃま体型なのかとしみじみと思う。


 年は1つしか違わないのに何の差だろうか。


 服を濡れないように浴槽を入れていた袋に入れて壁にかけておく。


「えいっ」


 ルフォンがシャワーに設置された魔石に魔力を込める。

 魔力コントロールが苦手なルフォンでもこれぐらい朝飯前である。


「ひゃあっ! 冷たいですよ!」


 シャワーの下にいたエミナが思いっきり冷水を浴びる。


「へへっ、もうちょっと待ってね」


 魔力を込めてすぐお湯というわけにはいかない。

 1つの魔石でどうにかしようとしたヴェルデガーだがお湯を出すという魔法を新しく生み出すことはできなかった。


 まずは水を発生させる魔法、そして次にそれを温める魔法と2段回踏む必要がある。

 同時に発動させてすぐに温かいお湯を出そうともだけれど1つの魔石で2つの魔法を同時に発動させ始めるのは難しすぎた。


 なので時間差で魔法が発動するようにして魔石を2つ使わなくてもいいようにした。


 最初は水で出てきてしまうのは仕方のないことなのである。


「あっ、あったかくなってきました!」


 そっと手を入れるとシャワーもちょっとずつ温かいお湯になってきた。


 簡易的なので角度は変えられないし手に取ることもできない。

 シャワーのお湯が出る穴のサイズも大きめで、前の世界のシャワーを知るリュードからするとまだ細かさが足りていない。

 不十分な出来なのでもっと完璧に作りたいものであるとリュードは思っているのだがエミナは感動し始めていた。


 ルフォンを見るとこくりとうなずいたので思い切ってシャワーの中に身を投じる。


「ほわぁあ〜」


 熱すぎず冷たすぎず良い温度。

 魔石で温度はできないのでヴェルデガーはみんなの協力の元、最適な温度を探した。


 個別な希望もあったけれどみんながおおよそ満足する、そんな温度に仕上がっている。


 頭の先から心地よいお湯と共に埃っぽい汚れと疲れが流れ落ちていく。

 体を流したら今度はヴェルデガー特製石けんの登場。


 超がつくこだわり症のヴェルデガーに抜かりはなかったのである。


 2人で洗いっこなんかをしたりして、ようやく入浴タイムである。


「はあぁぁぁぁ〜」


 先に浸かったルフォンが気の抜けた声を出す。


「ほわぁぁぁぁ〜」


 お湯に浸かったことのないエミナもルフォンにならってそっとお湯に浸かると思わず声が出てしまう。


 お風呂はシャワーよりもちょっと熱め。

 こちらは水を入れるなど調整が出来るので高めの設定になっている。


 リュードが材料をもらって自分で作ったゆったりサイズの浴槽は少々狭いけど2人でも入れる。


「お風呂、どう?」


「すっごく気持ちがいいです!」


「ふふ、エミナちゃんがお風呂好きになってくれてよかった」


「それにしてもすごいですね、これ。どうやって作ったんですか?」


 エミナが浴槽の縁を触る。

 見た目は大きな木をくり抜いた形をしているが触ってみてもささくれだったところはなく表面は何か塗ってあるのか滑らかで水は染みていない。


 それに魔法が刻まれた魔石。

 一体どうやって作ったものなのか、魔法使いのエミナにも分からない。


 持ち帰って研究したいぐらいである。


 よくよく見てみると簡単に使っているけど全く知らない技術で作られている。

 のんびり使っている場合ではないのではないかと思うほどに凄いものであった。


「これはねぇ〜、リューちゃんのお父さんが作ったんだ。

 リューちゃんも作るの手伝ってたし、凄いでしょ?」


 肩までお湯に浸かってトロけるような表情のルフォン。


「…………確かに、凄いですね」


 今はそんなこと聞いているタイミングではない。

 まあいっかとエミナも浴槽に沈み込むように浸かって、難しいことを考えるのをやめた。

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