実戦訓練1

「授業の一環だからな。

 中には魔物のコントロールするために何人か人もいるし私も後ろから付いていく。


 実戦訓練は危険を伴うので危険だと思えばいつでもリタイアできる。

 危ないと判断したらこちらから介入して強制的に終了することもあり得るからな」


 キスズが簡単に実戦訓練の説明をする。


 実戦訓練に事前に申し込み、予想通りリュードたちが1番に挑戦できることになった。


 人を集めることに苦労するかもしれないなんて思っていたのだが合格や優秀点が多いことを周りの人も見ていたのか意外に一緒に挑まないかという誘いがあったりもした。

 エミナがベストな人選なので他と組むことはないが人集めでそんなに悩む必要がなかった。


 悪くない人材もいたのでエミナと会っていなきゃ誰と組むのかを悩んでいただろう。


「き、気持ち悪くなってきました」


 ちゃんと準備もしてきたので余裕の面持ちのリュードとルフォンに対してエミナは自分の武器である杖を抱きしめるようにして青い顔をしている。


「だいじょーぶだいじょーぶ」


「そんな緊張するなって」


「うう、2人はどうしてそんな余裕何ですか?」


 そりゃあ魔物よりももっと強いの知ってるからさ、とは言わない。


「経験の差かな?」


「何ですか、それ?」


 多少気がほぐれればと冗談めかしてリュードが言うとエミナが弱々しく微笑む。


「それじゃあ時間だ。準備はいいか?」


「はい」


「実戦訓練、開始だ」


「それじゃあ行こうか」


 ダンジョンの入り口は草原のど真ん中。

 ポツンとある岩山にある。


 不自然な岩山は草原に元々あったものではない。

 ダンジョンの入り口として現れたものでダンジョンができたから地面から迫り出したのか、ダンジョンの一部としてできたのかは不明である。


 最初に見つけた人の名前を付けてオイチャのダンジョンと呼ばれているこのダンジョンはダンジョンの中の至る所に光を放つ魔光石という鉱石があって灯りの必要がない。


 リュードを先頭にエミナ、ルフォンと続く。

 リュードが前を、ルフォンが後方の警戒を担当する。


 ダンジョン内部の道は簡易的な看板で塞がれていてルートが決まっている。

 これは何回かに分けて実戦訓練をできるようにするためで別のルートは通ってはいけない。


 中は洞窟型でデコボコした道が続いていて下に潜っていく形になる。

 平坦な部分と緩やかに下っていく部分があって階段などがあるダンジョンとは違い明確な階層分けされてはいない。


 それでもなんとなく階層は区別されていて上に近い順に上層、中層、下層と大きく分けられていて、下にいくほど魔物も強くなる。


「可愛いですね、アレ」


「うん」


 まず初めにあったのはホーンラビット。

 簡単に言えば角の生えたウサギである。


 かなり大人しい魔物で大抵狩りの対象になるぐらいで積極的に魔物として討伐されるものでもない。


 この世界では魔力を持たない生物はいないので魔物ではない動物ではないけれどほとんどただの動物と言ってよい魔物である。


 危険度だけでみるとなんでことはなく怪我をする可能性もほとんどない相手になる

 しかし今はちょっとばかり厄介な相手だとリュードは思った。


 つぶらな瞳に攻撃がためらわれる。

 そんなことも若干はあるかもしれないがそんなことではない。


 もちろんみんな冒険者を目指している身で相手の見た目に惑わされて手心を加えることなんてない。


「これぐらい任せてください。えいっ!


 あれっ? えいっ!」


 エミナが自信満々に前に出て火の魔法でホーンラビットを攻撃する。


「えいっ、えいっ! くぅ……すばしっこい」


 敵意がなく追い詰められた時以外に反撃してくれることもない。

 逃げの一手を取る小さい魔物。


 森の中で静かに狩りをするにはよい相手でも開けた洞窟ですでに見つかっている状態で倒さなきゃいけないなら厄介な相手と化す。


 エミナの魔法は軽く避けられてしまって全然かすりもしない。


「くっ、見ててください。今やっつけますので……あっ」


 もう一度魔法を放つエミナ。

 ブスリとナイフが刺さってホーンラビットが絶命する。


 リュードの投げたナイフでエミナの魔法に合わせてホーンラビットの逃げ先を予想して投げたのである。


「もう落ち込むなって」


 攻撃を当てられなかった挙句囮に使われたエミナは落ち込んでしまった。

 簡単だと思っていたのに魔法が当たらなかったのが1番ショックだった。


 ああいった時は追いかけて剣を振り回すよりも遠距離武器でしっかり狙って倒すのがスマートなやり方になる。

 今回は狩りをするつもりはなく弓矢なんて持ってきていないので魔物解体用のナイフで確実に仕留める必要があった。


 ルフォンにでも追いかけてもらおうと思っていたけどエミナがやる気満々で魔法を放ったので利用させてもらった。

 当てて倒してくれるなら当然それが1番だった。


 当たる気配がちょっと感じられず魔力をここであまり消耗もさせられない。

 致し方なくリュードが手を出した。


 見られている以上評価にも関わるのだからここで何回もトライさせてあげるわけにもいかない。


「もういいです」


 拗ねたように言うエミナ。

 どうしたらよかったと言うのか。


「ほら、次もいるしやる気出していくぞ」


 次はゴブリン。

 わらわらと集団でいるイメージもあった魔物だが5匹しかいない。


 数の上ではリュードたちより多くてもそれぐらいなら物の数ではない。

 冒険者学校の教師たちがコントロールして5匹だけなのだがこれじゃ1人でも余裕である。


 村があった森にはいない魔物なので実はリュードも初めてみる。

 ある意味で有名な魔物。


 見た目は聞き及んでいた通り不細工な顔をしている。

 武器は石器時代のような石のナイフや槍。調達した方法が気になる。


 ダンジョンで生まれた時に最初から持っていることが考えられる。

 しかしながらそもそもダンジョンでどうやって魔物が誕生するのか謎である。


「それじゃあパーティーっぽく戦おうか。

 俺が引きつけるからルフォンとエミナで攻撃頼むぞ」


「うん!」


「分かりました!」


 連携しなくても、いや、リュード1人でもゴブリンに遅れをとることはない。

 1薙ぎ力を込めて剣を振ればゴブリンを3匹ほど持っていける自信がある。


 相当手加減しなきゃいけない。

 でもこの先何が待ち受けるのか分からないのでとりあえず出来るだけ早い内に団体行動が出来ることをアピールしておく。


 リュードが前に出て駆け出してルフォンがそれに続く。

 それに気づいたゴブリンだったがもう遅い。


 手始めに手近な1匹を切り捨てる。


 実際に戦った感触で分かる。

 このまま続々切り捨てていけば簡単に終わる。


 グッと切り倒したい気持ちを抑えてゴブリンの槍を防ぐ。


 続くルフォンがゴブリンの喉を突き、もう1匹を切り倒す。


「今度こそ!」


 最後にエミナが魔法で2匹まとめてゴブリンを焼き払う。


「イェーイ、らくしょー」


 ルフォンとエミナがハイタッチする。


 ダンジョン産の魔物の死体は魔力なって霧散して消える。

 死んだことが分かりやすくていい。


 ちょっとの間残っていたので死んでいないのかと思ったけれどちゃんとゴブリンの死体は魔力となって消えた。


 運が良ければ魔物の魔石や素材の一部が落ちることもある。

 今回は何もなく死体が綺麗さっぱり消えてしまった。


 オオカミのような魔物ウルフや虫型の魔物、もうちょっと多いゴブリンなど何回も戦いを繰り返して下へ下へと向かう。


「ふう、そろそろ昼かな?」


 ダンジョンの中は時間がわからない。

 時計なんて便利なものもあるにはあるがまだまだ高級品になっているのでリュードたちは持っていない。


 休憩や食事をとるのも大切な行為であるのでやらないと減点にもなる。

 時間がわからない以上己の感覚で時間をはかるしかない。


 体も動かしてお腹も空いてきたので休憩がてら昼を取ることにする。

 大きく時間が外れているということはないと思う。

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