実戦訓練2
周辺の安全を確認して食事をとる。
今回のお昼は宿のおばちゃんに追加料金を払ってお弁当を作ってもらった。
家庭的で長年宿で料理を作り続けてきたおばちゃんの料理はとても美味しかった。
ルフォンも時間がある時におばちゃんに料理について聞いたりしていた。
エミナの分も勝手に頼んだので最初は受け取れないと言われてしまったけれど食べなければ腐るだけなので最後には受け取ってもらえた。
「意外と時間かかるね」
「そうだな、想像していたよりも中は広いみたいだな」
実戦といっても何回か戦って終わりだと思っていた。
戦闘の回数は多く、相手が弱くても何回も戦い、警戒を続けていると疲れてくる。
「エミナちゃんは大丈夫?」
「むぐっ、はい、大丈夫です。
魔力もまだありますし2人の足を引っ張らないように頑張ります」
想像よりもエミナが健闘していた。
ホーンラビットとの戦いで不安があったが魔力量はそれなり多く、しっかりと付いてきていた。
もっと落ち着きが出て冷静に判断が下せるようになれば冒険者としても十分活躍出来るとリュードは評価していた。
「少しいいか?」
離れて見ていたキスズが近づいてきた。
「実は時間的にはもう3組ほどここに入ってきている」
冒険者学校から支給された懐中時計を見てキスズが時間を確認する。
リュードたちがダンジョンに入ってだいぶ時間が経っていて昼過ぎになっていた。
「お前たちはペースが早いから心配していないけど一応仕事だから今一度言っておく。
もし追いつかれてしまったらそこで強制終了で追いついたパーティーが前に行くことになるからな」
まあ、追いつくことはないと思うが、と言い残してキスズはまた離れていった。
独占ではない以上他の冒険者学校生徒のパーティーも時間差で入ってくる。
後発でも前に追いつけるほど優秀なら後発を優先する。
シビアなルールだがダンジョンも限られたものなのでやむを得ない。
「あんまりダラダラしてもいられないな」
キスズの口ぶりからして追いつかれることを心配するほど差が詰まってはいなさそう。
それでも油断大敵なので先に進む。
現在地は大体中層に入ったところ。
戦いに余裕はまだまだあってエミナは魔法使いなので後衛固定だがリュードとルフォンは役割をさまざま変えて戦ってみていた。
チームワークも出てきて敵のレベルが多少上がってもむしろ攻略の速度は上がっており、中層は難なくクリアして下層に入ってきた。
「ふむ、なんだか今日は魔物の死体が消えるのが遅いしドロップ品が1つも無いな」
キスズは疑問を持ったがこういうこともたまにはあるだろうとスルーした。
見逃すべきではなかった小さな違和感を。
「うわぁ……気持ち悪ぅ」
身長の高いリュードでさえ見上げる高さのカマキリの魔物。
特に虫が苦手でなくても細部までハッキリと分かるサイズの巨大な昆虫が目の前にいると良い気分はしない。
「でも多少は戦えそうな相手がやっときたかな?」
リュードが剣を構えた時だった。
「な、なに!?」
「わわっ、地面が揺れてます!」
「これは……地面に伏せて体を小さくするんだ!」
魔物が起こした攻撃の1つかと思ったがカマキリの魔物も動揺している。
それどころかみんなどうしてよいか分からずふらふらとバランスを保とうとしているならリュードは1人冷静に体勢を低くして揺れに逆らわない。
前世の記憶があるリュードだけは地震の最中でも冷静で周りを見ていた。
リュードの言葉に反応してルフォンとエミナも地面に伏せる。
「な、なんだ!?」
突如巨大カマキリが岩に潰された。
天井が崩落したのではない。
まるで切りとられたかのように綺麗な断面で天井の一部が四角く迫り出してきた。
ちょうどその真下にいたカマキリはなすすべもなく床と挟まれて潰されてしまった。
「ダンジョンの再構築……!」
よく構造が変わるダンジョンを除けばダンジョンの内部構造は変化しない。
しかしごく稀にダンジョンの内部構造が大きく変動する現象が起きる。
原因もタイミングも分からないダンジョンの再構築が偶然にも今起こってしまった。
どう変化するのかどれぐらい変化するのか誰にも予想はできない。
過去に再構築に巻き込まれた人にはそのまま見つからない人もいる。
カマキリのように潰されてしまったのか通路ない部屋にでも閉じ込められてしまったのか、死体がないので永遠の謎である。
「ルフォン、エミナ、なんとかこっちに」
「わ、分かった」
「は、はいぃぃぃ……」
地面を這って2人がリュードのところに集まる。
「ちょっと窮屈かもしれないけど我慢しろよ」
2人に覆いかぶさるようにして守るリュード。
「は、はええ!?」
ほんのわずかでも生存率が上がるならなんでもする。
全身に魔力をみなぎらせて竜人化する。
ビリビリと服が破けて2人を覆う面積が広くなる。
「リューちゃん……」
「なななな……」
こんな状況だというのにルフォンは自分を守ろうとしてくれているリュードに頬を赤く染め、エミナはリュードに何が起きたのか分からずパニックに陥っている。
パニックになっているエミナには申し訳ないけれど説明している暇はない。
「マジックシールド!」
魔法で周りにシールドも張って揺れが収まるのを待つ。
「うっ!」
浮遊感。地面が急速に落ちていき、ふわりとした感覚に襲われる。
ギュッと目をつぶって衝撃に備える。
幸いなことにカマキリの二の舞にはならなかった。
揺れが収まって何かが動くような地響きも聞こえなくなる。
しかし第二波を警戒して少し待ってみる。
ひとまずもう再構築は終わったようだ。
リュードは魔法を解いて覆いかぶさるのをやめて立ち上がる。
周りを確認すると広い部屋であった。
リュードたちがいる側から逆側に大きな扉が見える他部屋には何もない。
「こ、こわーい」
ルフォンがリュードに抱きつく。
なんだか言い方が白々しい。
『危機的状況はチャンスよ! こわーいって言って抱きつけば相手も落ちるわ!』
もはやアドバイスなんかではなく呪縛である。
何が良いのか悪いのか、女の子の友達が多くないルフォンはメーリエッヒのアドバイスに振り回されていた。
「ルフォン、大丈夫か?」
「あ、うん、だいじょぶ……」
やってみたはいいものの自分でも分かるほどの白々しさとちゃんと心配してくれるリュードに恥ずかしくなってルフォン顔が真っ赤になる。
やってしまった以上取り返しはつかない。
赤くなった顔を見られたくなくてルフォンはリュードのウロコに顔を埋めて顔を隠した。
「はっ! リュードさんは一体何者なんですか!?」
放心状態から正気に戻ったエミナがリュードの姿を見て後ずさる。
普通人は竜人族なんて見たことないだろうから反応は仕方ないのかもしれないけどちょっとだけショックだ。
「俺が何者か……」
リュードがズイッとエミナの前に行き、膝をついて顔を近づける。
「知ってしまったらもう後戻りはできないがそれでもいいか?」
エミナの顎に手を添え軽く持ち上げて目を合わせる。
「よ、よぐないですぅー!」
「あっ、ごめん! ごめんって、痛い!」
後ずされたことに傷ついたので軽い仕返しのつもりだったのに効果がありすぎてしまった。
まだパニックから抜け出していないエミナはボロボロと大粒の涙を流して泣き出してしまった。
拗ね顔のルフォンに思いっきりケツを蹴られてしまった。
「何やってるのリューちゃん!」
「ごめんなさい……」
つい出来心でしたイタズラで女の子を泣かせてしまった。
村以外の人にこの姿を見せたことがなかったのでそんなに自分の見た目が怖いだなんて思いもしなかった。
その上距離が近く顎クイまでしてみせたことにルフォンはまた怒っていた。
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