父の出した条件2
冒険者学校はツミノブでも有名な建物なので食べ歩きながら道中何人かに聞いてみてもみんな同じところを快く教えてくれた。
「すいませーん」
学校と行ってもリュードが前の世界で通っていた学校とは違っていてイメージ的には大きな塾ぐらいの物である。
大きな教室がいくつかと体を動かせるトレーニングルームや武器の扱いも許可されている訓練場、生徒専用の食堂なんかがある。
寮のようなものもありお金がない人は寝る場所もある。
お金があるなら近くの宿に泊まることももちろんできる。
「はい、どういったご用件でしょうでしょうか?」
「入学しに来ました」
推薦状を受付に渡す。
しっかりと一読して受付がちらりと2人を見る。
内容を読むとゴールド+クラスからの推薦状。疑うのもおこがましい。
「推薦状に問題はありません。
ではこちらにお名前と入学金をお納めください。
ご希望でしたら代筆も承っております」
授業によっては怪我をする可能性もある。
この冒険者学校では他の国からも人が集まり、身分は関係ないので一人一人に細かな配慮をすることは不可能。
苦情が出てしまっては困るので入学届とともに免責書にもサインする。
村ではみんな一様に教育を受ける。簡単な計算なんかも出来るし、もちろん文字も習う。
なのでリュードもルフォンも普通に文字が書ける。
真人族にはそうではない人も多くいる。
自分の名前すらどんな字で書くのか知らない者だって少なからずいる。
サラサラと名前を書いて入学金の入った袋を受付に渡す。
金額の確認をして空の袋を返してもらう。
「今期の授業が始まるのは明日からです。
必要な物はこちらに書いてあります」
受付は入学届に判を押して必要なものが書かれた紙をリュードに渡した。
「教科書は近くの書店で販売しております。
明日からなのでお早めに買いに行かれた方がいいと思います」
必要な物は武器と何冊かの教科書、必要ならペンとか、そんなに量は多くない。
「泊まるところはどうなさいますか?
寮の方はまた空きがございますが」
「寮か……どうする、ルフォン?」
「どうしたらいいんだろうね?」
「そうですね、寮でなくてもこの辺りの宿は冒険者学校向けに安いところも多いですよ。
寮ですと男女分かれてはいますがそれぞれ雑魚寝のような形になります」
雑魚寝か。正直知らないやつと同じ部屋で寝るのは嫌である。
「雑魚寝はちょっと嫌かな……」
ルフォンもリュードと同じ気持ちのようで眉をひそめている。
特に鼻がいいルフォンはあまり他の人が近くにいることが好きでない。
リュードは特別。もっと近くにいてもいい。
寮か宿か、2人とも同じ気持ちなので答えは決まった。
「どこか宿を探すことにします」
「わかりました。
それではご入学おめでとうございます」
「どうもありがとうございました」
受付に礼を言って冒険者学校を出る。
「次は教科書買いに行くの?」
「うーん……いや、まず宿を探そう」
多くないといっても何冊も本があれば重い。
マジックボックスのカバンはあんまり人前で見せられないから教科書を先に買ってしまうと本を抱えて宿を探すことになる。
先に荷物を置いておける宿を探した方がいい。
授業が始まるのは明日だから時間はそれほど多くない。
受付におすすめの宿でも聞いてみればよかったと思いながら少し歩いてみる。
冒険者学校から遠くなく、かつ高くない宿がいい。
店員も落ち着いていそうな静かに休める宿を探して歩いていたのだが。
『申し訳ございません。もう空いている部屋はございません』
『満室でございます』
良さそうだと思って入ったところ全敗。ことごとく断られてしまった。
聞いてみると今年は冒険者学校に他国から来ている人が多く、寮ではなく宿を取っているらしく埋まってしまっているとのことだった。
他国から来る人には貴族や身分の高い人が多い。
世話係や護衛のような付き人も来るので自然と入学者よりも人数が多くなり宿も余裕がなくなる。
もう授業開始の前日なので良さそうな宿はほとんど空きがない。
しょうがないので先に教科書を買いに行くか。
そう考えていたら、ふいにルフォンがリュードの服を引っ張った。
「リューちゃん、あそこはどう?」
ルフォンを指差した方を見る。
「雰囲気は悪くないけれど宿屋の看板はないぞ?」
「下にあるよ」
「あっ、ほんとだ」
宿屋っぽいけれど宿屋じゃないと最初見た時は思った。
とても印象良く見えたけれどドア上に掛かっているはずの宿屋の看板がないので宿をやっていないように見えた。
しかしよく見るとドア横、地面に上に掛けるタイプの小さな宿屋の看板が置いてあった。
落ちてしまったのか元々そうしていたのかリュードには分からない。
ともあれ、落ちた看板を片付けていないのなら宿はやっているはず。
こういう時のルフォンの勘は鋭いので期待はできる。
「いらっしゃい」
「すいません、宿ってやってますか?」
ドアは開いていて、いらっしゃいという言葉の時点で答えは出ているのと変わらない。
宿をやっているか一応念のために聞いておく。
「宿はやってるし、部屋も空いてるよ。
あーあはは、看板かい? ちょっと前に酔っ払いが壊しちゃってね。
わかりにくくてゴメンね」
対応してくれたのは恰幅の良い中年の女性。性格も良さそう。
掃除をしていたのか手に持ったほうきを置いて部屋の状況を確認しに行く。
掃除の途中だったみたいだけれど必要ないくらい部屋は綺麗だし、手入れも行き届いている。
「えっと、じゃあお部屋2つ……」
「1つ」
「空いてますか……ルフォン?」
「お部屋1つ空いてますか?」
リュードの言葉に被せてルフォンが前に出る。
「はっはっはっ、若いねー。今の空きだと4人部屋になるけど1部屋でいいかい?」
「えっ、あの2……」
「大丈夫です」
まるでリュードがいないかのように会話が進む。
宿のおばちゃんは何かを悟ったような優しい目でルフォンを見て、完全に会話の相手をリュードから変えてしまった。
とりあえず1部屋は確保できたので宿の説明を受ける。
冒険者学校の入学者であることを確認されて、料金は1週間ごとの前払いで少しお安めに。
元がそれなりに安いのでかなりお得な感じがする。
朝夕は希望すれば食事も出してくれる。
食事代も宿泊料に含まれているのでとりあえず希望しておいた。
掃除や布団の交換、消灯時間などのサービスについて聞いて部屋の鍵を受け取った。
「仲が良いのも悪くないけどうちの壁はそんなに厚くないから気をつけな!」
「いでっ」
豪快に笑いながらおばちゃんはリュードの背中を叩いた。
流されるままにリュードはルフォンと4人部屋を2人で使うことになってしまった。
「……あの、ルフォン?」
「…………これからも旅を続けるならこういうことってあると思うの」
『意外とね、外の広いところじゃ男は意識しないものよ』
「それにお金だって二部屋も取ったらもったいないと思うんだ」
『意識させたいなら密室! 同じ部屋の中が絶対よ』
「リューちゃんは私と一緒じゃ……イヤ?」
『なんならベッドにでも潜り込んじゃいなさい。あの子だってベットの中じゃある意味狼よ』
うるんだ瞳で見られてリュードは何も言えなくなる。
確かに間違ったことは言っていないので反論の余地もない。
若い男女が1つ屋根の下でけしからん云々なんて旅の中では言ってられない。
今は言える時だったと思うけれど言える時は完全に過ぎ去ってしまった。
いざ必要に迫られて悩むくらいなら今から経験しておいた方がいいかもしれない。
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