父の出した条件1
「2人きりなっちゃったね」
「そうだな」
ロセアと別れた残念さはあるものの2人でも寂しさはない。
本来は1人の予定だったはずの旅なのに今は隣にルフォンがいる。
1人で歩いていたことを想像すればもう1人いる、しかもルフォンというなら寂しさを感じることもない。
「まずは……ツミノブ、だっけ?」
「そ。面倒だけど約束だからな」
リュードの父ヴェルデガーはリュードが旅に出るに当たり約束、というか条件を出した。
今は村長から貰ったお金がたんまりあるので金銭面での心配は少ないがお金は無限にあるものじゃない。
そのうち無くなってしまうので自分で稼ぐ必要も出てくるのでそのための方法として、どこでも仕事ができる冒険者になろうと思っていた。
冒険者になるには特別な資格や能力は必要ない。
誰でもなれる職業とも言える。
しかし誰でもなれるからと言って楽な仕事ではない。
中には雑用のような仕事もあるがメインの仕事は戦うこと。
主に相手は魔物で怪我をするリスクや死ぬ可能性も十分ある。
知っているのと知らないのでは大きく生存率が変わる職業でもあり、質や量を上げたい冒険者ギルドで冒険者を育成するための学校を設けている。
ツミノブはそうした冒険者学校があり、ヴェルデガーはその冒険者学校を卒業して冒険者になることを条件に出した。
こうして旅に出ている今は確認のしようもないけれど約束はちゃんと守る。
知識を得ることは悪いことではないし冒険者学校を卒業するとそのまま冒険者の身分を得られる。
さらに成績優秀で卒業できれば1番下でなく下から1つ上でのスタートになるのでどうせなら優等生を狙う。
成績優秀なら早期卒業も出来るのでそう言ったところも頑張る理由になる。
ヴェルデガーから推薦状も受け取っているし冒険者学校の知り合いに手紙も出しているとのことで、後は事前にもらった入学金を握りしめてツミノブに向かうだけである。
幸いツミノブはさほど遠いところではない。
行商もリュードたちの行き先を意識してルートを組んでくれていた。
ひとまず目的地も定まり、ただ目的地に向かうのだが2人での旅は楽ではない。
意外と夜が大変であった。
夜の火の番を2人で交代でやらなきゃいけない。
魔物も知恵があるので大人数の相手よりも勝てそうな少人数の相手を狙う。
しかも真っ昼間だけではなく闇夜に紛れて襲撃してくることもあるので気を抜くことができない。
黒重鉄を掘りに行った時や行商のメンバーがいた時は何人かいたのでさほど苦にもならなかったのに2人で交代交代夜を明かすのはキツい作業である。
することもなく気を張りながら焚き火を見つめる。
精神的に消耗もする。
「旅って大変だね……」
少しゲンナリした様子のルフォンがつぶやいた。
大人数の時には感じなかった大変さを噛み締めている。
特にルフォンは女の子でその点男どもに優遇されてきたところがあったけれど2人だとそうもいかない。
対策はあるにはあったりするけれど今はまだ旅の大変さを味わってもらうとしよう。
ツミノブまでの途中は小さな村があるのみだったが民宿のような宿が一応はあったし、食料などの補給もできたので歩みは止まることなく進んでいた。
ルフォンにとってはお風呂がないことが苦痛らしく時折お風呂入りたいと呟くこともあった。
リュードも正直なところお風呂に入りたいけれど道中の村にそんなものあるわけもなく。
ルフォンは大きな町に期待しているようだけどリュードはそんなに甘くないことも分かっている。
その点でツミノブはルフォンの期待に応えそうな規模の大きい都市である。
だからこそ冒険者学校もあるわけだしさらなる都市の大きさにルフォンも興奮している。
身を隠すクロークの下で激しく尻尾が振られていてお尻のところがふわふわしている。
これでまだ入ってもいないのである。
ツミノブはしっかりと城壁で囲まれた都市で中に入るための検問がある。
サクサク進んでいるので長蛇とは言えないものの常に人が来て一定の長さの列ができ続けている。
「お、あの子可愛くね?」
「確かに、お前声でもかけてこいよ」
「なんで俺が。それに見てみろよ、横に連れが……獣人が一緒にいるぜ」
「チッ、むかつく顔してんな。あいつ角あるくせに」
リュードたちの少し前に並んでいる奴らの会話が聞こえてきた。
これまでも物珍しそうに見てくる視線は感じていたけれどこう露骨にいじってくるやからは初めてだった。
リュードに聞こえているならルフォンにも聞こえている。
尻尾の振りが治まってルフォンの機嫌が悪くなる。
「ルフォン、気にするな」
「だって……」
「これからもこういうことは山ほどある。
いちいち目くじら立ててたら身が持たないぞ」
「むう……リューちゃんは気にならないの?」
気にならないというとウソになる。
あんな風に聞こえる音量で人のことをやいのやいの行ってくる連中なんて一人一人ぶん殴ってやりたいぐらいだ。
しかしルフォンに言った通り角を隠していきでもしない限りは容姿を揶揄してくるやつはいるだろう。
そんな奴らを一々相手にしていては時間がもったいない。
それに真人族の領域で問題を起こせば魔人族のリュードにとっては良い結果になることはない。
殴りかかれば悪いのはこちらだからしょうがないとして、仮に殴りかかられても公平な判断なんて望めずリュードが悪いことにされてしまうのは火を見るより明らかだ。
ムカついてもいらぬ波風は立てないのがいい。
「気にならないわけじゃないが弱い奴らに突っかかっていくこともないだろ」
声を潜めて冗談めかして言う。聞こえると因縁をつけられるかもしれないし、この方が冗談っぽく聞こえる。
ルフォンがクスリと笑う。
「そうだね、あんなのリューちゃんには敵わないしね」
「ああ、だから気にするな」
その後バカたちの興味は他に移ったのかリュードたちのことは忘れられた。
検問の列も進んでいきリュードたちの番になった。
「通行の目的は?」
鎧を装備した衛兵がリュードたちに尋ねる。
「冒険者学校に入学しに来ました」
そう言って推薦状を衛兵に渡す。
軽く内容を読んで確認する。
「よし、通れ」
推薦状をリュードに返し、中に入れと顎をしゃくる。
検問といっても全員が全員身分を証明できるものを持っているわけではない世界ではない。
よほど怪しくない限りはそのまま通してしまうのが基本である。
今回は推薦状もあるし特に怪しいところもないのですんなり通してくれた。
「ありがとうございます」
このような検査をするところには袖の下、いわゆる賄賂を要求してくるところもある。
その点だけ考えればここはちゃんとしているほうかもしれない。
「わあ~」
最初に寄った町なんかはまだ牧歌的な緩やかさもあったけれどツミノブはしっかりと騒がしさがあって都会的な感じがあった。
門の中すぐということもあってか人が多くごった返している。
「まずは冒険者学校に行かないとな」
冒険者学校への入学はいつでも可能だが授業の開始タイミングがある。
およそ二節ごとに学校が始まり、始まったときにいなくても構わないが授業の進度には遅れることになる。
始まる日付は状況によってさまざまだが今の時節に冒険者学校が始まってしまうのでできるだけ早めに入学手続きを済ませてしまった方が良い。
もし過ぎていて、だいぶ日数が経っていてしまったら入学するか、次を待つか考えなければいけない。
二節待つのはリュードとしても避けたい。
「ねえリューちゃんあれ食べたい!」
内心ちょっとだけ焦るリュードに対してルフォンは暢気なものだった。
というものの、親の目はなくお金に余裕がある。
お昼として食べ歩きなんかしながら冒険者学校を探す。
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