託された思い7

 リュードの魔力は魔法最盛期時代にあっても最高峰になるほど。


 現代の魔力が多少少なくても使えるようにした詠唱をしっかり唱えて、加減を知らず魔力を注ぎ込んだ。


「わぁー……」


 大翼を広げた鳥の形を成した炎。

 大きな船なのにそれを包み込めるほどの大きさがある。


「ちょっと想定よりも早く燃え尽きちゃいそうだから上に飛ばしちゃうね」


 最早迫りゆく炎の鳥に船の様子は見えない。感情に浸る時間もなくゼムトの最後の姿は見えずグンと体が上に浮き上がる。


 落ちてきた穴に入り、真下には赤い炎しか見えなくなる。


「ありがとね、このまま魔物として海の中で朽ちていくと思ったけど、話を聞いてくれて、頼みを聞いてくれて、思いを連れて行ってくれて……」


 もうリュードたちには届いていない呟き。

 中途半端に燃え残ることも心配していたが杞憂だった。


 閉じる目もないのでただひたすらに迫りくる炎を眺める。


「短い人生だったなぁ」


 人として生きた時間は長くない。まだまだこれからだった。


 あふれてくるような水分は体にはない。あふれてくるのは思い出、感情。

 いろいろな記憶が頭の中を駆け巡る。いろいろな感情が張り裂けんばかりに沸き起こる。


「……やめよう。今は彼らへの感謝を胸に逝こうか」


 炎の翼が船を包み込んだ。


 熱が膨れ上がり、船が燃え始め、魔力の炎が本物のに置き換わりなお燃え続ける。


 魔力によって保っていた炎の形が一気に崩れる。

 炎が膨れるように広がり爆発する。


「うわっ!」


「きゃっ!」


 爆発に押し出され行き場を失った熱風が穴に流れ込んだ。下から吹き上げてくる風がリュードたちを押し上げる。


「な、なんだ!」


 これ以上の崩壊を恐れて穴から少し距離をとった4人は悩んでいた。

 見捨てていくわけにはいかないが無事かもわからないし穴の深さも知れない、近づくことすら危険であるので助けに行くこともできない。


 誰か助けを呼びに行きたくても村から鉱山まで遠い。生きていたとしても助けを呼んで戻ってくるまで持ちはしない。

 結果的に見捨てることと変わらなくなってしまう。


 悩んでいる間にも刻一刻と時間は流れていくが誰もすべき判断をできずにいた。


 そんな時穴からいきなり熱い空気が噴き出してきて、直後何かが飛び出してきた。


 4人全員が武器を構えて警戒する。


「いったーい!」


「ルフォンさん!」


 穴から飛び出してきたのはリュードとルフォン。

 熱風に押し上げられて一気に穴の上まで飛んできたのである。


 穴から飛び出した瞬間にゼムトの魔法が切れて地面に墜落したのである。

 またしてもとっさの判断でリュードが下敷きになってルフォンを守ったが硬い地面では衝撃は吸収しきれずルフォンにもある程度衝撃が来た。


 飛び出してきたのがリュードとルフォンだと気づいた4人が2人に駆け寄る。


「大丈夫か、ルフォンちゃん」


「ルフォンさん、怪我はありませんか?」


 4人の口々から出てくるのはルフォンへの心配。

 未だにルフォンの下敷きになっているリュードはちょっぴりとだけ悲しい気持ちになった。


「まあ、元気そうだな、リュード」


「そりゃどうも」


 ラッツの手を取って立ち上がる。


「リューちゃん、大丈夫?」


「ああ、大丈……伏せろ!」


 心配してくれるのはルフォンだけ。

 ルフォンの頭を撫でようとした瞬間地面がゆれ、ルフォンを抱きかかえるようにして地面に伏せる。


 再び熱風が穴から吹き出し、少し遅れて炎が熱風を追いかけてきた。


「おい……なんだ、下にやばい魔物でもいるのかよ」


 1度目の爆発でもろくなったところが崩れて偶然空気の通り道ができた。

 薄くなっていたところに空気が入り込み爆発するように燃えたのだがリュードは炎が吹きあがってくるより一瞬早く振動を感じ取った。


 幸いにしてけが人はいなかったのでさっさと鉱山を出る。

 十分な量の黒重鉄は取れているし再び爆発する危険性や穴が広がる危険がある。


 下から来る熱気のせいで坑道は暑かった。鉱山を出るとラッツが今回通ったルートと穴について地図に書き込んでいた。


 なんやかんやありはしたが目的は果たしたので村に帰ることになった。

 帰るまでが遠足ではあるが帰りも大きな問題はなく村までたどり着くことができた。


 一応まだ掘っている最中ではあったけれど採掘できた量は出してみると意外に多かった。


 次回からは別のルート開拓など時間がかかりそうではあるがゆっくり掘っていてもしばらくは持ちそうな量が取れていた。


 とりあえず採掘の結果を村長に報告しに行ったのだが穴の中で何があったかについては言わなかった。

 洞窟の下が空間になっていて海に繋がっている可能性があることは伝えたがゼムトたちのことは人に話すような内容ではないと思ったのでリュードが魔法で何とかしたことになった。


 ザックリと言えばウソではないのでいいだろう。

 村長も少し怪しげな態度だったルフォンに気づいていたけれども何も言わなかった。


 とってきた黒重鉄は当然ラッツの父親に渡された。


 扱いが難しい黒重鉄はおいそれと加工できるものでもなく、武器を作るのには時間がかかる。

 行商までも時間があるしリュードは鍛錬と狩りに勤しみ、ルフォンもいろいろと準備をしているようであった。

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