託された思い6

 スケルトンが見つけたのか落とした槍もあったのだがリュードの武器は剣。


 まずは軽く様子を見る。

 お手本のように真っ直ぐ剣を振り下ろしてガイデンの出方を伺う。


 金属の衝突する音。ガイデンが盾でリュードの攻撃を防ぐ。


 華美すぎない装飾の施された盾からは魔力を感じる。

 魔道具ではなさそうだが確かな人が作った逸品であることは間違いないだろう。


 衝撃を吸収する様に左半身を引いた勢いを活かして右半身を前に出し、リュードの首に剣を突き出す。


 力比べとは違う、本気の刃。当たれば怪我どころじゃ済まない。

 身を捩らせてガイデンの剣をかわすと一度飛び退いて距離を取る。


 偶然なのか村に盾を使って戦う人はいなかった。

 当然魔物で盾を使うものもいない。


 基本の戦い方は変わらないだろうがちゃんとした対処の仕方というものをリュードは知らない。


 もう一度距離を詰めて攻撃を仕掛ける。

 隙ができないように攻撃をたたみかけるがガイデンは盾を巧みに使ってリュードの攻撃を受ける。


 剣よりも安定した防御。


 まだ様子見段階とはいっても突き崩すのは難しそうだ。


 少しギアを上げる。


 剣などと違って盾ならば大きく視界を塞ぐ。


 攻撃して盾を上げさせる。その隙にリュードは素早く後ろに回り込んで剣を振る。


「甘い!」


 ガイデンは容易くリュードの剣を防いで反撃する。

 熟練した盾持ちが防御に大きく比重を置くとこれほど厄介だとは思いもしなかった。


 村の面々は基本攻めることをよしとするので防御寄りで待ちの戦法はなかなかリュードも攻めきれない。


 しっかりと防ぐことで相手の隙を狙っているのは分かっているからリュードも冷静に攻撃を続ける。


 変化のない切り合い。先に動いたのはガイデンだった。


 受け流すように剣を盾で受けて体ごと盾でリュードを突き上げる。

 シールドバッシュ。盾を使っての体当たりである。


 上体を起こされるようにしながら2歩後退するリュード。

 当然の如く追撃するガイデンは突きに近い剣の振りでリュードの胴体を切り付ける。


「クッ……!」


 力任せにガイデンの剣を弾くがわずかに反応が遅れて脇腹が浅く切り付けられた。


「まだまだ……なに!」


 ダメージを受けたら前に出ろ、傷付いたら反撃しろ。

 きっと攻撃に成功した相手は油断している。


 竜人族のオヤジの1人が言っていた教え。


 とんでもないことを言うものだと思ったがあながち外れていない時もある。


 浅くても傷は傷。鋭い痛みが脇腹に走るがリュードはあえて前に出る。

 攻撃のためにガイデンの体が開いている。


 盾を間に差し込もうとしたがもう遅い。

 リュードの剣が盾の縁に当たり大きな音を立てる。


 ここで予想外だったのがガイデンがスケルトンだったということである。

 生身よりも非力、そしてはるかに軽い体はその勢いのまま吹き飛んでしまった。


 互いが互いに想定していた動きとは全く異なっていた。


 動き出すのが早かったのはリュード。

 吹き飛ばされるなんて想像もしていなかったガイデンとパワーがあって人を吹き飛ばしたことがあるリュードで経験の差が変なところで出た。


 リュードの追撃。

 何とか防いだように見えてリュードの思惑通りの攻撃になった。


 再び盾の縁に当たった追撃はガイデンの手から盾を奪った。

 飛んでいった盾がスケルトンに当たって何体か砕けてしまったが今はそんなこと気にしていられない。


「もらったぁーー!」


 そのまま剣を返してガイデンを袈裟斬りにする。


「さすがだな……敵わなかった」


 崩れ落ちながらガイデンがリュードを称賛する。


「何を言うんですか。あれを本気のあなただなんて俺は思いませんよ」


 床に転がるガイデンの頭蓋を見るリュードの目に勝利の喜びはなかった。


「ごめんな、ガイデン。僕の力不足で」


 ゼムトが申し訳なさそうに頭を掻く。

 他のスケルトンが脆くて力が弱いのにガイデンはスケルトンにしては強い力を持っていたのはゼムトが魔力を注いで強化していたからである。


 それでも強化は足りず、生前のような力強さには到底及ばなかった。


 スケルトンとして対峙してすら強敵だった。

 生きている頃はどれほど強い人だったのだろうか。


 この勝負はリュードの勝ちだけれど本物の勝負とは程遠いものだと考えざるを得ない。


「確かに今は全盛期には及ばない非力なものだった。


 しかし私は本気だった。よもすれば君を殺すほどに。


 だから悔いはない。


 武人として死ねる……これでよかった。


 君にはお願いばかりして申し訳ないが最後の最後に1つ。

 私の使っていた盾は我が家に伝わる家宝なのだ。遺品として持ち帰り、私の子孫に渡してほしい。


 私には……息子が…………いた……ので」


「ガイデン?」


「あー……どうやら逝っちゃったようだね……お疲れ様、ガイデン」


 いきなりの別れ。もはやただの骨となったガイデンの遺骨をゼムトはスケルトンに集めさせる。


「これ、ガイデンのお願いだけどいいかな?」


 スケルトンがリュードにガイデンの盾を差し出す。

 ここまで来て断るわけもない。盾を受け取る。


「じゃあ……準備いいかい?」


 1度リュードとルフォンが顔を見合わせる。

 ルフォンがうなずき、リュードもうなずき返す。


「ああ」


「行くよー。


 翼なき者の願い、空をかけ雲を泳ぐ力を与えろ」


 ゼムトの杖の先に魔力が集まる。


「浮遊」


 ゼムトの魔力がリュードとルフォンを包み込む。

 体が軽くなり、やがて浮き始め、つま先が船から離れる。


 高いところから落ち続けているような独特の浮遊感。


「後は君たちの意思次第で飛んでいけるよ」


「分かった」


 もっと上に浮くように意識するとゆっくりと上に上がっていく。


 難しく慣れが必要そうだが練習している時間もない。


 離れるといけないのでルフォンの手を掴み、一緒に高く上がる。


「こっちも約束を果たすけど心の準備はいいか?」


「もちろんさ」


 船全体を覆っていた魔力がなくなるのをリュードは感じた。


 船を保護していた魔法が解かれたのだ。


「大いなる破壊、再生の初めの一歩、不死鳥が創造へ導く、炎の翼よ全てを燃やし尽くせ


 炎翼大鳳」


 魔法とは難しい。


 元々を辿っていくとドラゴンが操る物が今の魔法の源流に当たり、単に火や水などを魔力で作り出して使うものであった。


 そこからどう他の生き物に魔法が渡っていったのか、研究や調査がなされても解明はされていない。


 しかし時間は流れ、魔法はより使いやすく改良がなされ、その中で簡略化されたところや複雑化されたところもある。


 魔法に慣れて卓越するとイメージだけで魔法が使える無詠唱の域に達する。

 これがドラゴンが魔法を扱う領域に近く、戦争前の魔法最盛期にはこの領域に達していた人も多くいた。


 今では魔力が薄れて同じ魔法でも難易度が上がり、しっかりと魔力を扱う必要が出てきた。


 そこでまた出てきたのが詠唱である。


 魔法を扱うのに本来詠唱は必要ないのだが魔力を練って集める時間を作り、詠唱に関係付ける形で魔法のイメージを強く持つ。

 こうすることで魔法の発動をより容易にしようとした。


 魔法の名前も名前というより属性と形を表したようなものが多い。

 強い魔法ほど長いのでリュードは単純に漢字を当ててさらに簡略化した。


 この世界の言葉なのでみんな違和感なく使っているみたいけど『燃え盛る大きな翼を持つ火炎の鳥が燃やし尽くす』ぐらいの魔法名になっている。


 どんな魔法か分かり易いけどちょっとダサい。


 もっとシンプルにまとまっているものもあるが強力な魔法ほど、そして時代を追うごとに長々となってきた。


 どれもこれも魔力が少なくなった影響である。

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