託された思い3
魔力が濃ければそれに応じて多少強くなるスケルトンであるはずなのだけれどここはそんなに魔力が濃くないのか力が弱く動きも鈍い。
横薙ぎに剣を振るだけで3体がバラバラになる程骨も脆く、復活する様子もない。
最初こそ気持ち悪くてやりにくい感じがあったリュードでも簡単に処理できてしまった。
光属性や炎属性が必要なほど強化された相手だったら厄介なところだった。
あっという間にスケルトンを片付け終えてしまった。
甲板にいた以外いるのかいないのかは分からないけど階段から上がってくる様子もないので周りの状況を確認してみることにした。
予想通りの今いる場所は船の上。
思いの外大きい船なのだが表面の綺麗さに反してところどころ壊れていたりもする。
中でもマストが酷く破損していて根本からポッキリと折れて船の上から落ちかけている。
さらにその周りはといえば横には光が届かずその広さが伺えるというもので下は水、臭い的にもおそらく海水。
肝心の上はギリギリ光が届いて見えた。
ゴツゴツとした岩肌で1部が崩れ落ちていてよく見てみると落ちてきた穴らしきものが見えた。
当然だけど船は崩れ落ちた部分、穴の真下に位置している。
人が死に、骨になり、アンデッドになるまで相当な時間がかかるはずなのに船の保存状態はとてもよい。
状況や環境からすればアンデッドがいるからなわけではないけど幽霊船のようにボロボロなっていてもおかしくないはずなのに。
「リューちゃん……後ろ!」
「いつの間に……」
どこか壁に光が届くところがないかとグルグルと船の縁を周り、船首に差し掛かったところでルフォンに服を引っ張られた。
まだスケルトンが残っていた。
下の階から上がってきたのかもしれない。
ただ様子は先ほどのスケルトンとは異なっていて、ローブを着て杖を持ったスケルトンと側に控える高価そうな武器を持ったスケルトンが1体ずつ。
明らかに雰囲気が違う。
「スケルトンメイジか!」
スケルトンメイジ。
理由は解明されていないが魔法の知識を有し魔法を行使することができるスケルトンのことである。
本職の魔法使いには及ばなくても前衛で戦う戦士には十分魔法は脅威となり得るために戦闘の際にはさっさと潰しておきたい魔物である。
気付いた時にはそこにいたスケルトンメイジが杖を持たない骨むき出しの左手をこちらに向けた。
「俺の後ろに」
魔法を警戒してルフォンの前に出るが一向に魔法は発動しない。
それどころかスケルトンメイジと一緒にいるスケルトンも抜き身の剣は持ってはいるのにこちらに襲いかかってこようとしていない。
リュードは気付いた。
そもそも魔法を使う気なら手ではなく補助具である杖を前に出すだろうことに。
ならば魔法も使わないのに手のひらをこちらに向けている意思は何なのか。
「戦う気がない……ということか?」
スケルトンから敵意なんてものを感じはしないのだが取り分け攻撃の意思すら感じさせないこのスケルトンたちにリュードとルフォンは顔を見合わせる。
リュードが剣を下ろすとスケルトンメイジが1度うなづいた、気がした。
「あーあー、聞こえますか」
「リューちゃん、何か変な声聞こえる!」
「大丈夫だ、俺にも聞こえてる」
「あぁ、良かった」
スケルトンメイジが手を振っている。
「今話してる、というか伝えてるのはあんた……なのか?」
耳で聞こえている感覚よりも頭の中に響いてくるみたいに言葉が聞こえてきている感じがする。
「そうだよ。初めまして、初めてのお客さん」
カチカチと音を立てて骨が笑っている。
笑っているように見えているだけなのだが間違っていないと思えるから不思議だ。
「そう警戒しないでおくれ。他のみんなも僕が言い聞かせてるからもう攻撃もしないから」
スケルトンメイジがスッと手振ると後ろのスケルトンたちが一歩下がる。
「…………いいだろう」
「ありがとう。歓迎するよ。こんなところで話すのも何だからどうぞこっちに」
リュードは剣の鞘をカバンから取り出して腰につけて剣を収め、ルフォンもリュードにならってナイフをしまう。
背を向けて階段の方に向かうスケルトンメイジを追いかけるか一瞬悩んだ。
相変わらずルフォンは不安そうだしこのまま切り倒してしまった方がいいなんて考えも浮かぶも、なるようにしかならないかと考え直して付いて行ってみる。
いざとなれば魔人化でもすれば負けはしない。
連れていかれた先はリュードたちが落ちた階のもう1つ下の階にある一室。
隅にベッド、壁際に大きめのデスクと客室のような雰囲気のある部屋になっている。
部屋にはデスクのためのイスが1つに、リュードたち用なのかイス2つが部屋の真ん中に不自然に置かれている。
物が少なく整然と整理された部屋なのに真ん中に元々イスが2つ置いてあったとは考えにくい。
「まあ座っておくれ。そのクッション付きの良いイスはこの船に2つしかないんだ。といってももう座る人もいないからね、イスも座ってもらった方が嬉しいだろうさ」
そう言ってデスクのイスに座るスケルトンメイジ。
確かに座面にクッションを打ち付けてあるイスは贅沢品になるし骨ばった尻で座ればクッションが破損しかねない上に痛くなる心配もないのだからわざわざ良いイスに座ることもない。
ただしリュードはスケルトンが疲れてイスに座りたいと思うかは知らない。
「さぁて、まずは自己紹介といこうか。僕はゼムト。ゼムシュトーム・ヘーランドって名前で、僕の横に控えているのが多分ガイデン・マクフェウス」
「多分……?」
「そっ、多分さ、お嬢さん。あいにく僕は骨で個人を認識できる能力はなくてね」
「俺はシューナリュードでこっちはルフォンだ」
「よろしくね。そうだな……僕の、僕達の身の上話を聞いてもらいたいところだけど長くなるから先に君達がどうしてここにいるのか聞こうかな」
「どうしてと言ったって……」
リュードは簡単にここまでの経緯、特に話すこともないのでサラッと穴が空いて落ちたらここに居た旨の話をした。
「それはまた運がなかったね。
ここは西の山脈、僕らからすれば東の山脈のシコウザン山脈だね。それにしても驚いたな。山脈を越えた先、さらに東にあるルーロニアまでの間の『死の森』に住んでいる人がいるなんてね」
「『死の森』?」
「濃い魔力に覆われ凶悪な魔物が闊歩する不干渉地帯が『死の森』さ。僕達の間では普通の生き物は近寄ることすらできない超危険な森と言われてるんだよ
そもそも大きい山を越えなきゃいけないから行こうと思っても行けるものでもないけどさ」
「へぇ〜……」
知らなかった。
いやまあ確かに強い魔物が多く危険なところかもしれないとは思っていたけど都会ならともかく辺境の村なら魔物に苦しまされることもあるだろうしそんなものなのかとも思っていた。
村の大人達が強いからリュードの村では魔物に苦しんだこともない。
魔力についても薬草の品質が良くなる程度の認識しかない。
これはヤバい。
旅に出る前に思わぬところで常識のズレが見つかった。
これは幸運なのか不幸なのか分からないけれど自分で自分のことをそれなりに常識的だと考えていたのは危険な考えだったことを思い知った。
ベラベラと『死の森にある村』から出てきたと言わない方がいいかもしれない。
『死の森』に普通に住んでいるリュードたちは実は異常者集団になるのかもしれないのだから。
「上に穴からね……じゃあ半分僕達のせいみたいなものかな!」
骨がカラカラ音を立てて笑う。
「それってどういうこと?」
人間臭さ溢れるゼムトに恐怖も薄れてきたのかルフォンの態度もいつも通りになってきている。
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