第32話 チュートリアル:ダンジョン突入
場所は移ってビーチ。日も傾き、夕暮れの光を海が反射している。
ヤマトサークルの戦闘服を借りて着こんでこれからダンジョンに入り、攻略者の本分を全うする事になる。
ダンジョンに入るという事は、未知に挑むということ。中はどうなっているのか、環境は? モンスターの原生情報は? 寒いの? 暑いの? あげたらキリがない。
俺が挑んだダンジョン、『機仙の仙山』。快適な環境だったから良かったものの、今にして思えば何の警戒も無し入ったのはいささか警戒心が無さ過ぎた。
結構な数のサークルが集結し、代表者は集会所へ。メンバーはタブレットに映る作戦会議を視聴する形をとった。
目標は以下の通りだ。
一、拉致された人たちの救出、及びダンジョンボスの討伐。
二、ダンジョンの現地調査。
三、ゲート周辺の精密調査。
他にもいろいろと言われていたが、おおまかは三つだ。
一はもちろん最優先事項。俺たち攻略者がいかに迅速に救出するかが問われる。ダンジョンの出口は最初は一つ、ボスを倒すと二つになる。
一つはゲートの事だ。
二つ目はボス討伐時に出現する出口専用ゲート。ボスの早期討伐がなされ、かつ救助者の位置がボス出口に近かったらそこから出る方針だ。
そして今回のダンジョンは、攻略すると数時間程でで閉じるゲートと確認された。どういった調査をしてそんな事分かったのか……。いやはや、国連の仕事は早い。
一応成功報酬や、貢献報酬なんて物もあったりする。各サークルリーダーまたは代表者にそれ用のカードが支給される。原理はわからないが、そのカードに行動履歴が事細かに記録される。それを国連が回収、確認してから報酬が渡される仕組みだ。
「いよいよだな、大吾」
「ああ……。蕾を絶対に助ける」
瞳に強い意志が宿っている。大吾の調子は絶好調のようだ。
「萌、気をつけてね」
「うん。瀬那も危ないと思ったら下がって」
瀬那に上目使いで心配された。特徴的な胸部に戦闘服が合っていない。そこだけ窮屈そうだ。
「花房。お前の力は周知だが、油断するなよ」
「そっちこそ。モンスターに背負い投げかましてやれ」
腕を組む月野。ガタイが良いので頼りになりそうだ。
「……」
順繰りにみんなの目を見て会釈した。
「今回は初心者ダンジョンなんて目じゃない。ガチの本場だ」
ハキハキと意気込んだ声。
「……俺たちは毛の生えただけの攻略者候補、学生だ。まわりは現役の攻略者で俺たちはアウェー。だが、俺たちだって気合いでは負けてない!」
瀬那が頷く。
月野が拳を握る。
「蕾を……。捕らわれた人たちを救出する!」
大吾が拳を前に出した。
「当然だな」
月野も拳を合わした。
「モンスターをコテンパンにして絶対助ける!」
勢いよく拳を前に出し、合わせた瀬那。
「はぁ。こんなクサイ気合いの入れ方あるか?」
なぜ急に少年漫画みたいな事をしだしたのか、俺は困り果てた顔を三人に向けた。
「でもまっ」
笑顔で拳を合わせる。
「このノリは嫌いじゃない」
三人のニヤけた顔が目に映る。
「絶対に生きて帰ってくるぞ……!」
――オウ!!
俺たちの気合いは十分だ。
後は号令を待つだけだが、正面の大吾が俺の後ろを見て固まっている。
怪訝な顔をして振り向くと、目を力強く><にした西田メンバーが歩いて来るではないか。
「ど、どうしたんですか……いったい」
「お前らぁ……!」
そんなワンピースの麦わらァみたいな発音で言わんでも。
「勝手な事しすぎってクソ怒られたぁ~」
原因は明らかに俺たちが関与しているから、何とも言えない。西田メンバーが目を
><になっても俺らは言葉が詰まる。
って言うか普段から勝手な行動しまくってるからアカンのでは? それが今回の俺たちで大目玉って訳か。
「あの、なんかすみません」
「謝るな。俺も男だ。一度受けた頼みは断わらない。まぁお前たちの存在もあるし最前線って訳じゃいかないが、大船に乗ったつもりでいてもいい」
「はい。がんばります!」
瀬那が発言し、月野も頷いた。
西田メンバーは頼れるアニキャラなのかもしれない。姿も声も、型月作品の槍英霊に似てるし。
「じゃあ移動するか」
「「「はい!」」」
三人が声が揃った。
「花房くん。お前も頑張れよ」
「はい。西田メンバーもお気を付けて」
あいよ~、と言って背中を向けて歩き出した。それに連れられて三人も歩き出したが、一人ひとり、俺の顔を見て頷き、エールを送ってくれた。
「……。……」
なぜ。なぜ俺だけ置いて行かれたか。その理由は所持スキルによるものだ。
強制というか、義務だがヤマトサークルの集合場所でいろいろ質疑応答された。その中で、どんなスキルを持っているかも伝えるんだが、俺のスキルが引っ掛かった。
そう。ドラえもん御用達の次元ポケットが引っ掛かった。
なんと次元ポケット所持者は世界中で十人もいないらしく、希少。ヤマトサークルのにも居るには居るらしいが、今はサークルリーダーと共に日本にいないらしく、そこでちょうど俺が登場した。
「青春ッスね~」
「うお!?」
背後から不意の気配。驚いて振り向くと、西田メンバーの部下、三井さんが居た。いつの間に……。
「俺もおっぱいの大きなお友達が欲しかったなぁ」
なに言ってるんだこの人。
「三井さん。ちょうど西田メンバーがみんなを連れて行きました。微力ながら、俺も調査メンバーとして力になります。よろしくお願いします」
「頭も下げて礼儀正しいこと。まぁ俺らは攻略者でも戦闘向きじゃないから、気楽に行こう」
「はい」
俺は調査メンバーに抜擢。次元ポケットマンとして同行する。
「じゃあ俺らも行こか、勇次郎」
「俺、勇次郎じゃないです……。花房 萌です」
三井さんに連れられると、先ほどの攻略者息まく空気ではなく、にこやかな雰囲気。どこか楽観している空気が漂う場所に来た。
「はい集合! 今回の調査に同行する、学生の花房くんス」
「花房 萌です。次元ポケットマンとして微力ですが、皆さんの調査に同行させていただきます。よろしくお願いします」
「ちなみに彼は例のバーサーカーにして範馬勇次郎。戦闘もこなせるタフガイっス。……はい質問は後でお願いします。国連の指示で調査する――」
小難しい説明を淡々と話す三井さん。流石というか、調査班は三井さんが言っている事を理解している様子。俺はさっぱり。
とりあえず次元ポケットで物を回収。モンスターが襲ってきたら腕の立つ調査班と共に撃退。と言ったところか。
そしていよいよダンジョン突入の時。
「いよいよッスね勇次郎」
「……そうスね」
大量の装備を拵える三井さん。全部調査用の器具だ。俺もいろいろと持たされている。次元ポケットに入れれば楽なのは明白だが、次元ポケットはあくまで回収品仮倉庫。圧迫させるのはダメらしい。
ちなみに勇次郎と調査班みんなに言われ続け、もうどうでもよくなった。
「攻略班が入って十分と六分。そろそろ合図がある筈だ……。お!」
三井さんに支給されたカードの一部が発光。それと同時に俺のメッセージ画面が表示された。
『チュートリアル:ダンジョンをクリアしよう』
『ダンジョン:泡沫の
新たなチュートリアルが発生。そろそろ来ると予想していた通りだ。
「よし! 気合い入れて行くッス!」
三井さんの後を調査班が続き、俺も三井さんの隣で頬を叩いて気合いを入れた。
荒れた砂浜を歩き、ゲートに近づくにつれ海水に足元から膝あたりまで浸かる。
ゲートに触れる。濡れた感覚、広がる波紋。
「わ~お」
ダンジョン内。そこはどこまでも広い鍾乳洞。道になっている所もあれば崖になっている所もある危険な場所。
青白い幻想的な風景は、無数にある薄く光るヒカリゴケの影響。空気も澄んでいて、人間が生命活動するには十分な環境だ。
しばらく道沿いに集団で歩くと開けた場所に到着。ここで荷物をおろして三井さんが声を大きくして口を開いた。
「当然わかっていると思うけど、調査より救助が何よりも優先! 痕跡があれば真っ先に報告するように!」
三井さんが声を張って喋っているのに対し、調査班は耳を傾きながらテキパキと装置を組み立てたり何かを展開している。慣れ加減が凄い。
「ふぅ。俺たちはこっち行こか」
「え? 皆さんちゃんと聞いてない気が……」
「俺らはプロなの。ちゃんとわかってるし、俺も一応定例文を言っただけッス」
おお~。なんかカッコいいかも。
「先には攻略班がどんどん進んでいるはずッス。ここはみんなに任せて、俺らは少し進んで調査ッス」
「はい」
少し奥まったところまで歩くと、三井さんが止まる。どうやらヒカリゴケが群生しているここを調査するようだ。
「足元気を付けて。滑りやすくなってるス」
俺の頷きを見ると膝を付き、ヒカリゴケを採取し始めた。
なるべく傷つけない様な繊細な取り方。専用のケースに入れて蓋をすると、俺に差し出してきた。
「これよろしく」
「はい。よっと」
手をかざすと電子の穴が開く。普段は名称よろしくポケットの中に展開していたから、久しぶりに見た気がする。
「……」
「……? あの、何か?」
三井さんが次元ポケットを見て固まっている。
「俺の知ってる次元ポケットより広い口だなぁって」
「そうなんですか? 俺は他の次元ポケットを知らないんで……ん?」
視界の端に異物が見えた。それを追う様に見ると、魚人型モンスターが三体向かってくるではないか。
「モンスター! 次元ポケット開けておくんで、速攻で倒してきます!」
三井さんに翻してモンスターに駆ける。まだ距離があるが先手必勝だ。
「……手の平だけに展開できるんじゃないの? 次元ポケットって空間に展開できるものだっけ……。しかも使用者めっちゃ離れてるのにまだここにある。……勇次郎何者ッスか」
俺は知らず知らずのうちにやらかしていた。
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