第四章 嫉妬の抱擁
第21話 チュートリアル:あいつ、彼女いるってよ
「だっは~~~」
食堂。時間は午後の長針が少し動いたあたり。
昼食を机に置いて、空いたスペースに顔をうずめた。
「おいおい
「実際疲れてんだよ~。眠い……」
スマブラの後、ダンジョンに入ったのが夜の九時。そして出てきたのは朝の七時。
二、三時間でクリアする気構えでいたのに、まさか朝方までかかるとは思わなかった。慢心もいいところだ。
正直仮病使って授業をサボろうかとも思ったが、良心に苛まれ普通に登校したしだいだ。
ちなみに仙界で負った怪我は君主の力で再生した。ヤバすぎて草も生えない。
「俺たちにスマブラボコボコにされたからって練習しすぎじゃね?」
「違うって。アレだよアレ、……スーパーロボットと戦ってたの」
間違った事は言っていない。実際そうだし。
「ロボット? ああ、身体が闘争を求めているのか……。こりゃアーマードコアの新作が出るな」
大吾がなんか言っているが無視して昼食に手を着ける。ちなみに大吾の昼食はカツカレーだ。
一口、二口、咀嚼して飲み込んだ。
「おっつー二人ともー」
瀬那だ。いつもの明るい雰囲気で俺の隣に座ってきた。サンドイッチが入ったバケットを机に置き、紙パックジュースを片手に持っている。
「おう瀬那さん。昨日のカラオケはどうだったよ」
「メッチャ盛り上がったしー! 私歌うまいって褒められたぁ!」
にっしっし。と笑っている。そうとう嬉しかったようだ。俺は歌はそんなに上手くはないので羨ましい限りだが。こんど機会があれば三人でカラオケに行こうと思う。
「そっちはゲーム大会やってたんでしょ?」
「総勢八人対戦の大乱闘だ。こっちもスゲー盛り上がったけど、萌ちゃんが何故か一番最初に落ちるんだよなぁ」
「お前らが一斉に俺を襲ったからだろうが!」
昨日のことを思い出して少しムカムカした。あらかじめ決めていたかのような連携で俺の魔王がフルボッコ。ボコられて思わずコントローラー握り潰しそうになったが、大吾と月野をなんとか道連れにして一矢報いた。
「楽しそうー! 場所は萌の部屋?」
「もち!」
当然だと大吾が口走った。
「あむ」
咀嚼しているなか、俺はふと疑問が浮かんだ。
「あのさ、別にいいんだけどさ、なんで俺の部屋に集まんの? たまには大吾の部屋とかでも問題ないだろ?」
「はあ? 問題あるわ」
なぜだと俺は怪訝な顔をする。
「俺寮だぞ。ルームメイトもいるし」
「え、ルームメイト? って言っても俺の部屋くらいの広さじゃないのか」
「無いってあんな広さ! 俺と瀬那含むだいたいの生徒は二人部屋の寮だ」
マジか。
「階で分けられてるけど、その寮も生徒だけじゃなくて、事情がある成人の攻略者も住んでる。萌ちゃんは遅れて帰ってきたから空いてる部屋無くて、仕方なくあのマンションを割り当てられてる」
「羨ましいよねーマジで」
まさかの事実。俺の部屋は寮の一つだと勝手に思っていたが、寮ですらなかった。
「わーお」
「ンク。わーおじゃねーよ。今日も放課後スマブラな。みっちり――」
大吾のスマホからコールが鳴る。ポケットから取り出そうとしている。
「珍しいな着信なんて」
「ああ、彼女からだ」
「あそう」
手で会釈して席を立ち、静かな場所に行った。
「はむ……あむ……」
「ちゅ~」
俺はご飯を口に運び、瀬那はジュースを飲む。
「……。……」
「ちゅ~~」
「……」
ちょっと待て。ちょっと待てちょ~っと待て。今俺普通にスルーしたよな。
「今さ、大吾の奴……彼女とか言った?」
「ちゅ~。うん言った」
「……その驚かない反応、瀬那知ってた系?」
「はあ!? 逆に知らなかったの!?」
「ちょ声デカいって!」
瀬那を宥めて辺りを見渡すが、特に反応はなさそうだ。
「萌、大吾の親友なのに知らないとか何してんのよ!」
「親友でも知らない事だってあるわ! 特に今ナウ! あのヘラヘラした大吾に彼女だと……!? ありえん!」
いや、いやいや! 陰キャ陽キャ隔てなく接している大吾ならワンチャンある……のか? 少なくとも俺より可能性はある! イケメンな大吾ならあり得る!
「ふざけるなよ大吾……。戦い方だけじゃなく声もキャプテンアメリカに似てるからって調子乗りやがって……彼女が居るからって調子乗りやがって……!」
「うわぁ、男の嫉妬だ。別に調子乗って無さそうだけど」
「彼女いない歴=年齢の俺からすれば、彼女がいるだけで調子に乗ってると思えるんだよ!」
悔しい! 悔しい! なんて俺は惨めなんだ!
「ふ~ん。萌って彼女いた事ないんだぁ」
瀬那がストローをつんつんして不衛生な事しているが今の俺には関係ない。
「ふぃ~メシ食おメシ~」
大吾が席に戻ってきた。俺はすかさず睨みながら言葉をかける。
「どうやら死にたいらしいな……」
「何があったんだよいったい!?」
相変わらずツッコミが速い。
「萌は梶に彼女居るって知らなかったんだって」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「やはり死にたいらしいな」
おどけた顔が余計に腹が立つ。
「フ……。俺は名実共に男になったと言う訳さ。そう、漢に」
「っく!」
これが、これが彼女持ちの男の余裕なのか! 大吾が遥か高みに居る様に見える。男おとことうるさいから、脱チェリーも既に至ったのだろうか……。
「電話の内容当てよっか。ズバリ週末にデートでしょ!」
「お、やっぱり分かるか」
さすがは黒ギャルパリピの瀬那さんだ。リア充の動向は把握済みらしい。そして俺は嫉妬を募らせる。
「大吾、死ね」
「もうただの暴言じゃん……」
口では辛辣だが、内心おめでとうと祝っていた。
「ふぅ」
『チュートリアル:帰宅しよう』
『チュートリアルクリア』
『クリア報酬:速さ+』
放課後。自分の部屋につき、玄関のカギを閉めた。
季節はすっかり夏。エアコンもつけるし、ボディソープもメンソールが入った物を使う。太陽燦々で暑いが清々しくもある季節だ。
そして夏休みもやって来るのだが、その前に、立ちはだかる強敵がいる。
そう、期末試験だ。
正直ゲームなんてやる暇あったら勉強しろと思うが全くその通り。スマブラをひるがえし勉強会を三人でやる方向で話は進んだが、今日は外せない用事があると言って帰ってきた。
その理由が扉を開けた先で待っていた。
「おかえりー大哥(アニキ)☆」
リャンリャンだ。
「お、おうただいま」
今のリャンリャンはマッシブな黄龍仙の姿ではなく、非常に人間に近い素体の様な状態だ。顔はディスプレイに映っていたリャンリャンだが、身長は二メートルほどあり俺より高い。
そして細目イケメンというね……。
「あのさ、そのだーぐーってどゆ意味?」
「まぁアニキ的な? 敬ってるんだヨ☆」
敬ってんならタブレットから目を離して俺に挨拶しろよ。
「ちゃんと大人しくしてただろうな」
「もちろん!」
ダンジョンから帰ってきたら素体の状態で居たから驚いたものだ。股間が無機質でツルツルだったし。
外に出られては騒ぎになると思い、自宅待機を下したが、ちゃんと守ってくれているようだ。
「情報社会って凄いねぇ。ネットサーフィン最高☆」
さすがAIといったところか。馴染むのが速い。
「はぁ」
いろいろと考えなくてはならない。
リャンリャンは俺の家臣となったわけだが、ちゃんと居るべき場所がある。それは俺の部屋ではないが、あそこはまだ手付かずであまりにも暇すぎるから俺の部屋に居させている。駄々こねてうるさかったし……。
「リャンリャンの居た仙界はどうだか知らないけど、現代を生きる人は服を着てる」
「うん」
「いつまでも素体な姿はまずいから、とりあえず服でも買うかぁ」
顔はマジで人と遜色ないけど、首から下は高性能アンドロイドみたいになっている。一応黄色人種な見た目だが、凝らして見ると違和感を禁じ得ない。だから先に服だ。
「あ、もう買ったから」
「……え」
「大哥のカード……名義はお父様かな。カードで買った☆」
「お前勝手にカード使うんじゃねえよ!?」
「アイヤー、すまないネ☆」
全然思って無さそう。
「クッソマジかぁ。まぁ買ったものはしかたない。買う予定だったし……。で? どんなの買った?」
「これ☆」
リャンリャンの隣に立ってタブレットを覗き込む。
「!?!?」
戦慄。そこには目が飛び出るほどの金額が提示されていた。
「じゅ、二十万……だと……」
「正確には二十万とんで五千二百円だ☆ 送料無料☆」
「送料無料☆ じゃねえよ!?」
普通にユニクロとかしまむらで買うかと思ったがヤバい。マジでヤバい! 中華風礼服だと? 確かにカンフー映画っぽくてリャンリャンらしいが、まだ別の問題がある。
「三着も買ってんじゃねえよ!? 一着は分かるけど残りは普通の服でいいだろ!」
「服だけじゃないヨ、靴とか諸々買った☆」
「うわああああ!!」
ベッドにダイブして少し泣いた。近い未来、俺は両親の激情を受けるだろう。
めっちゃ怒られるだろうなぁ……。
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