第2話 チュートリアル:体の変化
『チュートリアル:起床』
聞いたことのある電子音で目が覚める。覚醒する意識。光を感じるより先に嗅覚が異常を伝える。
「くっっさ! 臭ええ!」
デンデデン♪
『クリア報酬:力+』
あまりの酷い臭いに背中から飛び起きて目を白黒する。ベッドから漂う異臭。シーツが黄ばみ、アニメだと臭いエフェクトがかかるのを容易に想像できる。それとベッドからではなく違うところからも臭ってきた。
『体の老廃物がすべて排出されました』
「くっさ!? 腕くっさ!」
急いで浴室に入ってシャワーを出す。流れる冷水。手でシャワーの温度が変わるのを確め、温かくなってから速攻で浴びた。
「くっさ……くっさ……」
全身も臭いし頭も臭い。それにはいていたボクサーパンツも漏らしたかと思う程に臭い。シャンプーとボディソープで臭いが落ちるといいけど……。
「ふぅ」
バスタオルで髪と体を拭く。再びあのくっさい部屋に戻ってシーツと掛け布団を回収するミッションが憂鬱だ。
そう思っていると、新たなチュートリアルが始まった。
『チュートリアル:筋肉モリモリマッチョマンの変態だ』
どこのコマンドーだよ。シュ○ちゃんで間に合ってるわ。
馬鹿馬鹿しいと思い、歯磨きをしようと洗面台の鏡を見た。
「……わお」
デンデデン♪
『クリア報酬:力+』
鏡に映るのはいつもの高身長モブな俺の姿ではない。割れた腹筋、浮き出る力こぶ、肩メロン。何の冗談かとそこには筋肉野郎がいた。
脳に過るクリア報酬の適用。『至高の肉体』。脳の処理が追いつかない俺は、目がグルグル回って笑っていた。
『至高の肉体:創造主すら知らずの不懐な肉体。骨格、筋肉密度が理想の想像外。世に二人としていない』
「おいおい、
ドアノブを捩じって破壊。冷蔵庫の握りてを変形、どっかのネジも外れた。しまいには皮をむいて食べようとしたリンゴをくしゃみの拍子で握り潰した。
今の俺の体は普通じゃない。
学校。
戸惑いながらもチュートリアルがある非日常を過ごす。世間と周りはいつも通りで変化なし。筋肉質だが着やせする今の俺は目立つ事も無く簡単なチュートリアルをこなしていき報酬を得る。
グラウンドでの授業。
「打てーー」
野球の真似事な授業だ。うちは男女共学だが、この授業とかに関しては男女別。男子は前述のとおりで、女子はテニスの真似事だ。
ベンチの後ろがテニスコートで、男子諸君は仲間の応援どころかそっちのけで女子を注目する。何故なら震度5の揺れを見れるのだから。
「ギャハハハ!」
トイレから戻った俺は、不良女子高生の集団の間隣りを通り過ごそうとしていた。どうせどっかでサボろうとしているのだろうか。
カキ―ン!
「危ない!!」
打たれる球。誰かの大きな声。不良女子に迫る死球。
「え――」
誰もが事件性を疑わない事象に、俺は身を乗り出し前に出て。
「っ」
回転する球を素手で掴み取った。摩擦で煙が少し上がる。
「……大丈夫?」
不特定多数の不良女子高生の安否を気に掛ける。
「え、ああ。うん」
代表が返事したと思い、俺はキャッチャーに投げ入れる。
ドワオ!
風を切る球。受け取ったキャッチャーの大吾を吹き飛ばす。
「……」
静寂が支配するが、俺はやらかしたと思い校庭へと急ごうとした。
「ね、ね、。同じクラスの
呼ばれたので振り返る。
「えーと、朝比奈さん、だっけ……」
「そうだけどぉ、その」
クラスのギャルグループの一人、朝比奈 瀬那さんが声をかけてきた。クラスカースト上位のギャルとは下位の俺は縁が無いが、クラスメイトの名前と顔は覚えている。
目を合わせては逸らす挙動不審な朝比奈さん。俺は頭に?を浮かべる。
「ありがと。キミが居なかったら、アタシにボール当たってた……かも」
「無事でよかったよ」
取り囲むギャル集団が総じてニヤニヤしている。俺は不気味さを感じ取り、そそくさと戻る事にする。
「じゃ、じゃあ俺はこれで」
「あ、おーい!」
脚をグルグル回して逃走。陽キャから逃げる。一瞬後ろを見てギャル集団を見たが、じゃれ合っていて仲が良さそうだ。
「おい~瀬那ぁ~。なに赤くなってだ~? ん~?」
「ええ!?」
「あっは♡ もしかして彼に惚れちゃったとか!」
「だ、誰が誰にって――」
日中、学生生活を過ごしながらチュートリアルをこなしていく。姿かたち、取得する目に見えないクリア報酬の数々。ゲームの様にステータスが上がっているようだが、体感できるのは『至高の肉体』のみ。
そして時間が経ち、今日は土曜日。今週は授業がない土曜日だ。
「っふ、っふ」
課せられるチュートリアル。
『チュートリアル:レッツ筋トレ初級編』
『課題:腕立て伏せ 100/100 上体起こし 100/100 スクワット 98/100』
マットの上でこなしていく三つの課題。いつもの俺なら腕立て数回でダウンするはずが、『至高の肉体』をゲットしてからというもの、何の苦もない。
「はいっ、おしまいっ!」
『スクワット 100/100』
100回と同時にジャンプして空中で一回転。着地と同時にファンファーレが鳴る。
デンデデン♪
『クリア報酬:体力+ 力+ 技+』
「せめてステータス的な表示を見せてくれよ……。わからんわ」
文句を言いながら風呂場へ移動。シャワーで汗を流してからラフなジャージを着る。
休日だというのに予定はない。友達の大吾は俺のせいで病院。正直すまんかった。チュートリアルをこなせばいいが、そのチュートリアルも今は出ていない。さて、どうしたものか。
「……いい天気だなぁ」
暖かい日の光が窓から射す。こんな日は街に繰り出して、散歩がてら喫茶店のスタダにでも行こうかな。
「……? ……お、揺れてる」
不意に地面から徐々に大きくなる揺れを感じた。最近、こういった比較的小さい地震が発生していて、ネットや番組で大地震の予兆と言われている。まぁ眉唾物だが。
「……おさまった」
しだいに揺れが収まった。
ポン!
メッセージが届いたようだ。またチュートリアルだろう。
『チュートリアル:ダンジョンを攻略しよう 初級編』
「ダンジョン?」
俺の疑問と共に、後ろから聞き慣れない音がした。
「なんだよ、これ……」
部屋の中心に人一人が通れそうな、曇りガラス? 渦巻? うごめく壁? がそこにはあった。
『ゲートの中に入って攻略しよう』
「入んのかよ……わお」
指先をゲートなるものに触れる。濡れた感覚、広がる波紋。
歩みを進めて手から入っていく。高鳴る胸の鼓動。恐怖心からじゃない、これは好奇心だ。そして更なる一歩を踏み込む。
「わ~おぉ」
思わず声が出た。ゲーマーならダンジョンと言えばレンガ造りの迷宮とか、はたまた大草原の真っただ中だったりするだろう。俺もそう思っていた。でも違った。
緩やかなパイプオルガンが響きそうな内装。城のエントランスホールを思わせる造りで、中央には階段があり絨毯が敷き詰めている。
割れた灯、崩れている装飾、ボロボロの赤い絨毯。何年経ったのだろう。かつては豪華絢爛だったであろうここは、今では埃にまみれ、空いた天井から月の光が愁いを帯びて射していた。
そう思える。
「……よし」
高鳴る鼓動を胸に、俺は歩き出す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます