俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
第一章 幻霊の君
第1話 チュートリアル:なにこれ
『――適合』
「ぅん……」
『チュートリアル:起床しよう』
浅い睡眠を阻害する様に聞き慣れない電子音が頭に響いた。眠たく重い瞼をそっと半目で開けると、ゲームとかに出ているメッセージ画面が目に映った。
「……なにこれ」
寝ぼけている……。ため息をつきながら寝返るが、視界を追随するメッセージ画面。夢かな? と思いながらも目覚まし時計を確認する。
「ッ!?」
ガバッと掛け布団を勢いよくめくりあげ飛び起きる。
デンデデン♪
「やっべ遅刻する!」
小さなファンファーレが頭に響き『チュートリアルクリア』と画面が変わるが、俺は急いで身支度をする。
『クリア報酬:速さ+』
ポン! と軽い音が聞こえてきた。
『チュートリアル:歯磨きシャカシャカ』
洗面台の水で顔を洗い、歯ブラシに歯磨き粉を出す。歯磨きしながら鏡を見てボサボサの髪を整えていると、違和感を覚えた。
(鏡にメッセージ画面映ってないじゃん)シャカシャカ
口をゆすぎ顔を洗う。
デンデデン♪
『クリア報酬:体力+』
『チュートリアル:朝ご飯を食べよう』
「食ってるひまねーわ!」
バタバタと身支度をする中、視界の端の画面に思わずツッコんでしまった。
制服のブレザーに着替え鞄を持つ。リビングにあるちぎりパンを一口サイズにちぎってほおばる。
「あむ、んく」
デンデデン♪
『クリア報酬:力+』
『チュートリアル:部屋を出よう』
「はいはい出るから出るから!」
急いでる俺に催促を促すメッセージ画面。若干キレ気味で靴を履き玄関のドアを開けて外へ。オートロックで扉の鍵が閉まる。
デンデデン♪
『クリア報酬:速さ+』
『チュートリアル:登校』
エレベーターを使っている暇は無いので階段で降りる。今日は体の調子がいいのだろうか。早足で降りる訳でもなく二段飛ばしでもなく、バカなガキんちょだった頃の様に段差をジャンプして降りた。
ちなみにガキんちょの頃これで腕の骨を折った。
「急げ急げ!!」
風を切って夢中で走る。歩行者、歩道に乗り出した自転車を縫う様に走る。やはり今日は調子がいいみたいだ。
「え、早」
「危なっかしいなぁ」
他人の言葉が一瞬聞こえたが俺は気にしない。気にしてられない。だって遅刻寸前ですもの。幸い歩いて行ける距離なのでこのまま走って行けばギリギリ間に合う。はず!
「っは! っは!」
学校に近づくにつれてぽつぽつと生徒の姿が見える。
(いや走れよ! 吞気に歩いてると門が閉まるぞオイ!)
そして見えてきた校門。
「おはようございます」
「おざまーす」
「おはよう。挨拶はちゃんとしろよ」
普通に登校する生徒と、毎日門前に立っている生徒指導の教師がニコニコしている構図が違和感を禁じ得ない。
(なぜに!?)
混乱する最中急ブレーキをかけて門前に止まった。
「おはよう花房。どうしたんだ走って来て」
「ふー、おはよう先生。どうしたって、寝坊して遅れそうだったから」
俺の言葉に先生が方眉を上げる。
「遅れるってお前、予鈴にはまだ時間あるぞ」
「……よ、予鈴?」
親指で校舎の時計を見ろと合図され、俺は更に混乱した。
「え……マジだ」
「おいおい寝ぼけてたんじゃないか? 突っ立ってないで入りなさい」
訳が分からないと口を半開きのまま門をくぐった。
デンデデン♪
『クリア報酬:技+』
『チュートリアル:教室に入ろう』
頭に?を浮かべて廊下を歩く。こうなった可能性というか、おおかた目覚まし時計が狂ったのだろう。俺の有意義な朝を台無しにした時計は直さなくては……。
「ふぅ……」
デンデデン♪
『クリア報酬:体力+』
教室に入るとファンファーレが鳴った。これもわけわからんと半目になる。
「オッハー萌ちゃん。朝から辛気臭い顔してるなぁ~」
「……おはよう大吾。元からこんな顔だ。それと腕、どけろ暑苦しい」
入るなり友人の梶 大吾と接触。首に腕を回されじゃれついてきた。
「つれないねぇ」
「あと
中学からの友人とのいつものやり取りをし、横目で教室を見渡す。
すでにいくつかのグループが集まっていて、いつもと変わらない日常がそこにはあった。鼻から少し大きく息を吸うと、メッセージ画面が現れた。
『チュートリアル:意中の相手と話そう』
「ッ!?」
それとなくメッセージ画面の存在を無視していたのにこのチュートリアル……!
「ん? 止まってどうした? 早う席に行けや」
今まではごく当たり前で比較的簡単やつだったのに、一気に難易度上がりすぎだろ! まて、そもそもこのメッセージ画面はマジで何!? 周りの人間は不思議には思っていないしいつも通り……。もしかして俺だけ……?
「なぁ大吾。チュートリアル画面、見える?」
「……は? チュートリアル画面?」
大吾が何言ってんだこいつと俺を見るが、すぐに納得したように優しい表情で俺に語って来た。
「可哀そうに、これがゲーム脳か……。ご愁傷様です。大丈夫、俺はズッ友だ」
「……」
なんか腹立つなコイツ。サムズアップすな。
大吾は置いといてこのチュートリアルだ。意中の相手に話しかけようだと。
「おはようみんなー」
無理だろこんなの。相手は学校一のマドンナで話しかけた事すらないんだぞ。絵に描いたような美少女で清楚系。雑誌のモデルもやってるカースト上位の存在。
「おはよう梶くん」
「オッハー花田さん」
そんな存在と会話するなんて至難のわ――
「おはよう花房くん」
「!? お、おはよう、花田さん……」
ざではなかったわ。
デンデデン♪
『クリア報酬:速さ+』
机を挟んだ距離だというのにこのお花のいい匂い……。さすが全男子のマドンナだ……!
それからというもの、午前と午後。チュートリアルがあるつつがなくはない時間を過ごす。連投される簡単なチュートリアルをクリアしていき、今日は帰路している。
そして就寝前。ベッドに寝そべり横になる。
『チュートリアル:今日もお疲れ様』
このチュートリアルが。
デンデデン♪
クリアされた。
『クリア報酬:スペシャルギフト』
「?」
今までの報酬と違い、ギフトときた。メッセージ画面が拡張し、プレゼントボックスが表示された。
『このスペシャルギフトは一度開示すると消滅します。ギフトの中はランダムです。 開示しますか? ・はい ・いいえ』
ゲームと同じ感じかと、俺は迷いなく・はいを選択した。
デンデデン♪
『トップシークレット:至高の肉体』
「わお。シークレットか」
思わず嬉しくなった。ゲームアプリでリセマラしまくって、ようやく人権キャラを引けた気持ちになった。
いったいどんな効果なのかとワクテカしていると、メッセージが変わった。
『至高の肉体を適用します。なお、適用の際に激しい痛み及び脳に損傷が伴う可能性有り』
「おい!?」
『適用三秒前』
「ちょまてよ!!」
『二秒』
「アカンて!!」
『一秒』
「やめろ――」
『適用開始』
「ぐあ゛あ゛あ゛あ゛――」
体の内側から破裂するのを覚え、俺は気を失った。
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