10話.[間に合わないよ]

「私、本当は分かっていますよ、千文さんは紗弥さんの方がよかったということを」

「本人から後出しで聞いたときは変なことを言ったけど、もうそういうのはないよ。私はちゃんと京陽だけを見る、だから不安にならないでよ」


 私こそ言ってはいけないことを言った、紗弥のそれを受け入れるつもりなら彼女に対してちゃんとしなければならなかったのに、それをしなかったのにだ。

 あんなことを言われても紗弥だって困ってしまうだろう。


「それにはっきり言った京陽を姉はもう気に入ってるからね、いまさらなしにされてもこっちが困るから」

「……いいんですか? いまならまだ間に合いますが」

「間に合わないよ、あ、ううん、そんなことをする必要がないの」


 短時間で言葉選びに何度も失敗している、これでは京陽を不安にさせるだけだ。

 私は拒まずに受け入れた、紗弥からのそれはないものとして行動した。

 ならこれからもそうやって行動するだけだ、昨日は……馬鹿なことをしたけど。


「私は千文さんとこのままの関係でいたいです」

「うん」

「……昨日紗弥さんからはっきり言われたときに胸がきゅっと痛くなりました」

「私は後悔している、どうかしていたよ」


 中途半端なことをしない、そうやって過ごしてきていたのに初めて大きな失敗をしてしまった。

 申し訳ない、逃げたい、だけどそれはできない、不安にさせたくないから。

 いますぐにでも少しぐらいは回復させられる手段があればいいんだけど、残念ながら私の能力では……。


「好きなんですっ」

「うん」

「……でも、ずるいことをしたのも確かなんです、だからどうすればいいのかって悩んでいて……」

「それなら一緒にいてよ、そうすることで傷つけた京陽になにかができると思う」

「傷つけた……ですか?」


 本人がそこにいなくてもよくないことを言った、しかも関係が変わったばかりでそれだから余計に問題になる。

 多分、この感じだと紗弥はそのことを吐いたりはしなかったんだろうな、私も私で言ってはいないからこういう反応になる。


「ごめん、紗弥に言ってくれていたら私だってって言っちゃったんだよ……」

「ああ、だから昨日急に紗弥さんがあんなことを……」

「だからずるいのは私も同じなんだ、ちゃんと言わずにチャンスだけ貰おうとしたんだから」


 結局これも自分を守るためにしているにすぎない。


「でも、あなたは受け入れてくれました、それが本当に嬉しいんです」

「そう……なの?」

「はい、引っかかることはあってもちゃんとぶつけたことを後悔しているわけではありません。私はあなたが好きです、私はあなたといたいんです」

「分かった」


 それならこっちも自分が言ったことを守るために行動する。

 今度こそ中途半端な感じにはしない、だから京陽にはそのままでいてほしかった。

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