第9話 狩人はじめました

無事に生存のための物資を確保する手段を得た私は、意気揚々と次の仕事に取り掛かった。


「レベルアップいくよ~!!」

 貯まった存在因子リソースで【見習い狩人】のレベルアップをポチッとな!


――――――――


『職業修練』      消費存在因子リソース


【無職LV20】       31


【見習い冒険者LV3】   17.3


【見習い狩人LV1】↑   121


【見習い商人LV0】    1200


【???】       2500


――――――――


 上げちゃったZE☆

 覚悟を決めていてもやはり大きなポイントを投入するのはドキドキしちゃうね。


 さてさて、新規スキルはっと。



――――――――


【狩人の直感LV1】


半径(10×S.LV)m範囲のスキル保持者と同程度以下の戦闘力を持つ対象を認識できる。


認識の精度はこのスキルレベルに依存する。


――――――――


 タイミングばっちりすぎるーーー!!! 神!!!

 次の目標は雑草スレイヤーこと私が楽に、且つ美味しく狩れる新しい獲物探しだった。

 この【狩人の直感】はそれを大きく補助してくれるだろう。

 少なくとも、勝てない相手を弾けるだけでもタイムロスは大幅に減るはずだ。



 あまりにぴったり過ぎるので神的なサムシングの作為的な気配を感じるけれど、思い返せば最初から私の意図を汲んでステータスを一部消してくれたり(そもそも無意味に私が嫌がる体格の表記をしていたフシすら在るが)、変なタイミングで通知が来たりと今のこの状況を逐一把握されている感はあった。

 私の種族は『遊戯者プレイヤー』だ。

 神が創り給うた遊戯ゲームの世界に招かれたなら、当然それを観戦されている可能性は十分ある。

 誰だって自分が作ったモノの評価は知りたいだろうし、そもそも私がこの世界に連れてこられた存在意義からして"プレイングを見て楽しむ実況配信"レベルかもしれないのだ。


 実際こうして恩恵を得られているのかも知れないし、むしろ祈ればベストなレスポンスで融通を効かせてくれるかもしれない程度に割り切って受け入れよう。

 致命的なバグに遭遇したら即時対応してください。神運営の今後に期待だ。



 神の手のひらで踊らされてることに納得したところで、それでは早速スキルを使って見たいと思う。

 すでにさっきからなんとなくこのスキル所以の勝てそうな気配っぽいのは感じているけれど、一応はアクティブスキルなのだろう。

 まだしっかりと獲物は把握しきれていない。


 楽に勝てる相手が見つかりますようにという願いを込めつつスキルの発動をイメージする。

 「むぅ~! 【狩人の直感】!」


 フッと、それまでなにかいるかな~程度だった周囲の気配が明確になる。

 正面、右、左、背後そして上に下。

 周囲360度のあちらこちらで、大小様々な何かがその存在を示していた。



「うわぁっ!? 急に情報量多すぎるよっ!!」

 視界外の存在をここまで鮮明に認識したことなどほとんど無かった私は、急激な認識の変化に驚き脳みそがチカチカする感覚を味わった。

 なるほど、これがよくある感知系スキルの情報過多ってやつなのか。


 【無職】のお陰で高まった精神のせいか、頭が軋むほどの負荷を脳に感じながらも結構落ち着いて状況を理解できた。

 鈍い痛みに目を細めつつ、近くにある中で元雑草のヒエラ草の次に最も弱いと感じる物体へと歩いていく。


「キノコか……」

 それが在ると感じた茂みをかき分けると、一本のキノコが生えていた。

 7cmくらいの長さで太さは3、4cmあるかな? 結構立派だ。

 色は傘が青色で模様はなく、まさにアオキノコという呼び名が相応しい風体をしている。


 【初級植物知識】は植物を識別する能力だ。

 キノコはたしか植物ではなく菌類の集合体だったはずなので、このキノコを識別できるかはわからない。

 もしかしたら異世界のキノコは構造的に菌類ではなく植物なのかもしれないが、それを食べて確かめる気にはなれない。キノコは元の地球でさえ毎年死者を出すリスキーなフードなのだ。

 香草であるヒエラ草を獲得した今、食生活に彩りを加えたいところではあるけれど、どうせ美味しく調理するための加熱する術もないし大人しく存在因子リソースへと還ってもらおう。



「戦闘力たったの5か……ゴミめ!」

 そんなものを計測できるヘッドギアはないが、こいつは今や毎秒7連打まで高速化した私のクリック35回、つまり5秒ほどで消滅するようになったヒエラ草の次に強い程度の存在なのだ。

 侵略性宇宙人と銃を持った農家程度の戦力の差があってもおかしくはない。


 突っついた時に毒性のある胞子が拡散されるとかは困るので、まずはその辺で長めの棒を拾い遠巻きに突いてみる。

 ちなみにこの棒はアオキノコよりも強いみたい。男子小学生もニッコリの高性能ロマン武器だ。


 つんつん。

 もはや身体に馴染んだ【破壊の指先デストロイ・フィンガー】でのクリックではないつんつんに少し新鮮味を感じてしまう。

 しばらく待ってからもう何度か突いてみても変化なし。

 熱感知とか……ならさっき見つけた時点でやられてるか。

 よし、いけそうだ。



「それじゃあ新たな出会いを祝して……そぉい!」

 再度近づき、まずは記念すべき雑草スレイヤー卒業の一突きを御見舞する。

 乾坤一擲、新世界への扉を開く一撃を受けアオキノコが大きく揺れた。

 

「そい! そい! そい!」

 ワンパンはできないか、残念だ。まぁわかっていたけれど。

 ヒエラ草ですらまだ一発じゃ倒せないからね。

 慣れ親しんだ感覚でアオキノコを突いていく。ヒエラ草よりも手に伝わる反発が大きく、ちょっとクセになる触感だ。


 そして約14秒後、100連打ほどした時に消滅を知らせる光がアオキノコを包んだ。

「私は雑草スレイヤーを卒業したぞーーー!! これからはキノコスレイヤーだ!!!」

 うーん、まだ人様に胸を張れる二つ名じゃないね。

 でもこの成長は非常に大きい。

 なぜならば。


「うわっ……8存在因子リソースも入った!! キノコうまーーーー!!」

 時給が大幅に上がったからだ。

 ヒエラ草は5秒で狩れるようになったとはいえ、その討伐で得られる存在因子リソースは0.1から多くても0.4。

 それに対しアオキノコ先輩は8もの存在因子リソースを15秒でくれたのだ。

 その効率はおよそ13倍。圧倒的である。


 ネックなのはヒエラ草は探す必要もないくらいそこら中に生えているのに対して、アオキノコはそんなに生息していないっぽいことくらい。

 それでも【狩人の直感】で知覚できる半径10mのエリア内だけでも10本ほどのアオキノコの気配を感じる。

 アオキノコを探てエリア内を移動しつつ他にも狩れそうだと感じる獲物を狙っていけば、すぐに新しい職業も習得できそうな気がするね。



「これだよこれ!! この一気に強くなるインフレ感!! やっぱりクリッカーは最高だぁ!!」

 私の低すぎる身体能力で引っ張られて立ち上がりが遅かったけれど、やっとクリッカーらしくなってきたじゃない。

 今一度この世界に喚んでくれた神様に感謝の祈りを捧げて、新ステージの狩りへと踏み出したのだった。

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