第2話

「さむっ」

 外に出ると地面にはうっすらと雪が積もっていた。普段雪の降るような地域ではないので、こんな事態に不謹慎かもしれないが少し気分が上がる。

 ブーツの足跡を真新しい雪につけながら歩く。道中、不自然に途切れた足跡も散見された。

 歩いているうちに年を越したのだろう。いや、越せなかったのか。

 ――2974年。

 日本時間で年越しのタイミングに、突如人間が消失する現象が日本各地で起こった。ちょうど人間が時空間技術を我が物にし始めた頃だ。

 すぐに各国がその現象を解明しようと調査を行なったが、未だそのメカニズムは解明されていない。

 原因についても『旧年中に悪い行いをした』『年始に立てた目標を達成していない』『年越し時に蕎麦を食べていなかったから』と諸説あるが、はっきりとわかってはいなかった。

「父さんも母さんも隣のおばちゃんもいない。歩いてる人もいないし、こんだけ静かなら、もしかして俺以外全員失敗したんじゃないか?」

 俺は辺りを見回す。車道に止まったライトの点いている車には誰も乗っておらず、無意味になった信号機が点灯を繰り返している。耳を澄ましても物音ひとつしない。自分が雪を踏む音が聞こえた。

 まるで世界に一人きりになったみたいだ。

「さむいな」

 現象の解明はならずとも、時間は着実に進んでいく。

 2974年以来、毎年何人かが年越しを境に消失するようになった。けれどあくまで数人単位だ。ここまでの規模は初めてだろう。

 けれど、人間はしぶとい。

 年越しを失敗した者への対策は、起こり始めから数年でかなり充実していた。

 運転手が突然消失した際も高性能オートブレーキの開発により事故は無くなり、電気や水道・ガスなどのライフラインも一時的にではあるが無人稼働できる。また身内や友人が無事に年を越せたかを確認できるアプリケーションも開発された。

 ちなみに俺の家族や友人は誰一人として年を越せていないようだった。

「あれどこだったっけ。ああ、これかも」

 静けさを少しでも紛らわすべく大きめに声を出しながら、俺はリュックサックから小学校で使っていた社会の教科書を取り出してぱらぱらと捲った。そして、目当てのページを発見する。

 見出しには『年こしできなかった人のたすけ方』とあった。

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