【短編633文字】不幸の味 『2分で星新一のようなショートを読んでみませんか?』
ツネワタ
第1話
とある国に才能豊かな秀でた王がいた。
王は病気に苦しむ者たちのため、国に医師団を招いて医療を発展させた。
王は貧困に苦しむ者たちのため、労働環境を整えて彼らに仕事を与えた。
しかし――。
信頼厚き彼の王を妬んだ悪しき神が民にこう啓示を出した。
『奴を苦しめ、苛ませた者に甘美な夢を魅せてやろう』
神は知っていた。人間の欲深さを。
『死んだ妻に会いたいか? 失くした子を抱きしめたいか?』
神は知っていた。人間の弱さを。
『ならば彼の王に苦虐を与えよ』
神の誑かしに人々は理性と欲の挟間で悩み続ける。
「医療を発展させてくれたのは王だ。それでも病気で妻を失くしたのは俺だ」
「貧しい者に仕事を与えたのは王だ。仕事中の事故で子を失くしたのは私だ」
民たちは悩み苦しみ続ける。
考えあぐねたせいで病気がちの人が増えた。
外に出る事が少なくなったせいで労働が滞った。
しかし、最も責任を感じていたのは王自身だった。
もっと良い薬を作れていれば。
事故のない環境を整備出来ていれば。
奇しくも神の望みは叶いつつあった。
ある日、民たちの姿に心を痛めた王は自ら刃で左薬指を切り落とした。
「すまない。皆が苦しまぬように、私が自らに苦しみを与える事にしたのだ」
神の誘惑から目を覚ました家臣たちはその場で跪く。
「どうか王よ…… 愚かな我々をお赦し下さい。」
そんな彼らの元へ近づく王は傷口に止血のための蜜を塗り、左手の甲を突き出した。
家臣たちは一人ずつ手の甲に口付けをし、赦しを得た。
それ以来、人の不幸に蜜の味が残るようになった。
【短編633文字】不幸の味 『2分で星新一のようなショートを読んでみませんか?』 ツネワタ @tsunewata0816
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