才無き男は魔法陣と踊る

泡華 音狐丸

1ー1


貫徹、実習、お昼直前、そしてわかりきった内容をだらだらとしゃべる教授(58歳)

チェックメイトである。


「リミサ。どこにでもあるような我が町だが、とある点を活かし、人類全体の敵である魔族連合と張り合う事が出来ている。さて、それは何だろうね?」


女子受けを狙ってるのか知らないが、禿おやじのウィンク顔がとどめの一撃だった。最後の一線が決壊し、完全に授業を聞き飛ばすことを決意した少年は、そっと顔を伏せる。


「そうだね。【転生者】と【魔法産業】だ。」

コツコツと教授が黒板に文字を書く音が教室へ響く。教室にはざっと60人ほどいるが、他多数が少年と同じことをしているか授業に集中しているのであろう、しゃべり声は聞こえない。


「まず前者の【転生者】だが、これは言うまでもなくみんな知っているだろう?何せあの方々の活躍は日々新聞やら掲示板やらに乗っているわけだからな。異世界に干渉し、死者の魂をこちらで用意した器へと移し替える。これが転生の儀だ。初めは使者を人形に付与させ、兵士として扱うための実験から起きた事故だったが、今では王都から期待されるほどの儀となった。なぜなら転生者は多くの場合、一般的な兵と比べ大きな戦力を持っている事が基本だ。この国が魔族連合との最前線に一番近い町であるにも限らず普通に暮らせているのは転生者様たちの活躍のおかげだろう。」


その後も転生の儀の発展の歴史や具体的な転生者の名前があげられていく中、一部の真面目な生徒は教授の言葉に耳を傾け、ペンを熱心に動かしている。


「そして後者の【魔法産業】。これに関してはリミサが特別発展しているというわけではないが‥転生者様による実験により、魔法についての謎を一部解き明かすことが出来たのが大きかった。」


そう話すと、教授は右手をパチン!と鳴らす。すると、拳大の水の玉を生み出される。


「そもそもこの魔法という技術は初代国王が偶然見つけ出して以降、扱い方が分かってもなぜそのような現象が発生するのかわからないという時期が続いていた。しかし、あるブレイクスルーが発生する。それこそ転生者様たちによる大規模実験だ。」


そこで教授は、何かをイメージするように目を閉じる。すると、手のひら大だったはずの水の球は、人の頭をすっぽりと覆いかぶせてしまうほどの大きさへと巨大化した。


「授業時間も終わりに近いため、詳しい実験内容は次回の授業へ回すが、実験の結果だけを簡潔に述べるとするならば、【魔法とは、世界とのズレにより発生する現象である。】という事だ。そして、この発見を元に改良を繰り返していった結果、ズレる方向をうまくいじることが出来れば、発生する事象をコントロールすることが出来るようになった。また、発見と同時に生命力、もとい魔力が火、水、風、土の世界を構成する四つの元素へ騙しやすいという事実が発覚した。これら二つの結果から生み出されたのが、君たち生徒諸君がこの学園で学んでいく【円環魔法】というわけだ。」


教授の言葉が頭に入ってくる。


【円環魔法】。


世界を歪め、自分自身の都合のいい結果を引きずりだす現象


先ほどの教授が行った現象も円環魔法であり、自分自身の魔力を手のひらの上で固定させ、「そのエネルギーの塊は実際には水の塊だ」と世界に誤認させることで水の塊を生み出したのだ


「…仕組みがわかったとはいうけども、ね。」


あくまで魔力が4元素のエネルギーと近いというだけで全く同じというわけでは無い。真の意味で1から100まで魔法の仕組みを理解したわけではいないのだ。だが、円環魔法が世間一般の魔術師に広まってから9年がたった今でも、外部の介入があった場合以外で円環魔法に失敗した例は報告されていない。


そして、魔法というシステムには小さな欠点がある。


術者がどれだけ努力して使える種類を増やしても、魔法の威力や一度に扱える魔力には人それぞれの上限が存在し、それを超える事は出来ない。


全ては生まれ持った「才能」に左右されるという、他愛ない【欠点】


けれど、それが少年に深く突き刺さる。その欠点が彼の夢を砕いていく。


「過去には魔法陣を使う陣形魔法等が存在したが、それは円環魔法の存在により効率が悪いと否定され‥‥」

チャイムが鳴り響く中、円環魔法の可能性とやらについて延々と語り続ける教授にため息をつき、くせっ毛が目立つ緋色髪の少年__アルス・マグナルは目を閉じた。

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