第17話 緑の国の第四王女
ジュエガルド統一に乗り出した、赤の国のルビー。
その魔の手は、緑の国に伸びていた。
我らがユウトは、妖精体のフィーナと共に、緑の国を目指す。
「てりゃー!」
ユウトは周りを取り囲む、魔石獣の最後の一体を斬り殺す。
「はあ、はあ。」
ユウトの疲労も、そろそろ限界だった。
緑の国の龍脈から漏れ出た、緑の魔素。
青の国の王女であるフィーナには、この緑の魔素を浄化する術はない。
そしてユウトは緑の加護を受けていない。
つまり倒した魔石獣の魔素を、経験値に替える事が出来なかった。
そのため、緑の魔素から体力を回復させる事も出来ない。
「み、見えてきたわよ。」
フィーナの言葉に、ユウトは顔をあげる。
森を抜けた開けた場所に出ると、緑の城が見えてきた。
街の近くまで来れば、魔石獣も寄りつかないだろう。
ユウトは軽く深呼吸をして、呼吸を整える。
不思議と体力が回復してくる。
これは退魔の腕輪にはめられた、青い宝玉のおかげなのだが、ユウトはよく分かっていない。
ユウトは妖精体のフィーナを左肩に乗せて、緑の城を目指す。
緑の城の城門前広場で、ひとりの少女が何かと戦っていた。
少女は腕を振り上げると、素早く振り下ろす。
真空波のようなものを飛ばしているようだ。
たまに何もない空中から、炎が少女目がけて撃ち出される。
この炎の打ち手こそ、少女の敵なのだろう。
少女は緑髪の長いツインテールをなびかせている。
ノースリーブのシャツにネクタイ姿。
二の腕までくるような手袋をはめている。
下半身もミニスカートなくせに、膝上までくるブーツを履いている。
少女の服装は緑を基調にしていて、サイバーな感じだった。
フィーナのファンタジーな服装とは、一線を画していた。
「あの子が緑の国の王女、エメラルド・ジュエラル・ミクルーカなんだけど、何してるんだろ。」
フィーナは少女の事を説明するが、ここで緑系の風魔法、かまいたちを撃ちまくってる意味が、分からなかった。
「何かと戦ってるんじゃないか?」
と言ってユウトは駆け出す。
「あれは!」
ミクルーカに近づき、フィーナ達にも詳細が分かってくる。
ミクルーカの周りを、妖精体のルビーが飛び回っていた。
それを真空波で撃ち落とそうとするのだが、妖精体のルビーは、ことごとくかわす。
そしてルビーは、反撃とばかりに炎を放つ。
「あぶなーい!」
ミクルーカとルビーの横から割り込む形で、ユウトは炎を叩き斬る。
突然現れた助っ人に、ミクルーカは呆気にとられ、ルビーはニヤける。
「ルビー、ここで何をしている。
山吹先輩はどこだ!」
ユウトはミクルーカを無視して、ルビーをにらむ。
あのおっとりとした、気立てのいい山吹先輩。
それをこんな戦闘に巻き込んだのは、こいつだ。
ルビーを見ていると、そんな怒りがこみ上げてくる。
「ああ、ケーワイの事?
ふふふ、どこでしょうね?」
とルビーは、ユウトをからかう。
「貴様ぁ!」
ユウトは刀で斬りかかるが、ルビーは軽くかわす。
そして刀の届かない上空へと逃げる。
「あなたに、ケーワイの何が分かるのかしらね。」
「何?」
激昂するユウトを、ルビーは滑稽に見下ろす。
「誰も分かろうとしなかったよね、ケーワイの事。」
ルビーはユウトをにらむ。
ルビーの言葉に、ユウトは返す言葉がなかった。
分かろうとしなかったとは、どう言う意味だろうか。
山吹先輩は、何か悩んでいたのだろうか。
そんなそぶりは、微塵も感じなかった。
いつもにこやかで、憧れの先輩だった。
「ちょっと!
私もあんたには、文句あるんだからね!」
ユウトを言い負かせて、悦に入るルビー。
そんなルビーに、フィーナは少しムカっとくる。
「青の国では遅れをとったけど、これからは、そうはいかないんだからね!」
とフィーナは、青系の氷魔法、アイスロックを放つ。
「おっと。」
ルビーは軽くかわす。
「今日のところは、引いてあげるわ。
この国が落ちるのも、時間の問題だしね。」
ルビーはそのまま飛び去った。
「もう、なんなのよ、あいつぅ!」
ユウトを落ち込ませて立ち去ったルビーに、フィーナは腹がたつ。
そしてユウトの為に、何も出来なかった自分に対しても。
「まあ、しょうがないわね、ここは気持ちを切り替えましょう。」
フィーナは自分に言い聞かせると、ミクルーカの方に視線を向ける。
「私達が来たから、もう安心よ。って、ミクルーカ?」
フィーナが振り向くと、ミクルーカは右手をかかげている。
そしてかかげた右手を振り下ろし、緑系の風魔法かまいたちを発動。
「わ、危ない!」
フィーナは軽くかわすが、ユウトは背後からまともにくらう。
「いて。」
ユウトは後ろから強く押されるような感覚で、前のめりに倒れる。
「ちょっと、何してくれてんのよ!」
ユウトがやられて、フィーナは怒る。
「黙れ侵略者!」
ミクルーカはフィーナ目がけて、かまいたちを乱れ撃つ。
「や、やめてミクルーカ、私よ私!」
「うるさい!この国は私が守るのぉ!」
地面に倒れたユウトは、なんか真空波が飛びかってるので、そのまま地面に伏して頭をかかえる。
「だから、私だって。」
フィーナは妖精体の姿から、人間体の姿に戻る。
「え、レスフィーナさん?」
突然現れたフィーナの姿に、ミクルーカは攻撃をやめる。
「もう、私だって言ってるのに。」
「ご、ごめんなさい。
私てっきり、新手の侵略者だと思って。」
ミクルーカは平謝り。
ミクルーカは、妖精変化を知らなかった。
緑の国の第四王女であるミクルーカは、浄化の腕輪を持っていなかった。
この国の浄化の腕輪は、ミクルーカの三人の姉達の分しか無かった。
ちなみに、第二王女は緑の国の魔石集めに出かけている。
第一王女と第三王女は、それぞれ別の異世界に行っている。
ルビーの侵攻を防ぐのは、第四王女のミクルーカしかいなかった。
真空波の嵐がおさまったようなので、ユウトは立ち上がる。
ユウトを見て、ミクルーカはドキッとする。
「ああ、紹介するわね、彼が青の国のナイト、ユウトよ。」
フィーナはユウトに戸惑うミクルーカを見て、ユウトを紹介する。
「き、如月悠人です。よろしくお願いします。」
突然の紹介に、ユウトは少したじろぐ。
「ユウト様。」
ミクルーカはユウトを見つめて、つぶやく。
「で、こっちが緑の国の王女、エメラルド・ジュエラル・ミクルーカね。」
ミクルーカからの返しがないので、フィーナが代わりに紹介する。
「エメラルド、じゅえ?って長いから、エーメでいいかな?」
フィーナからの紹介を受けて、ユウトはそう提言する。
「エーメだなんて、そんな。」
ミクルーカは顔を赤らめ、両手で頬を覆う。
「もう、面倒くさい呼びかたするな。
普通にミクルーカでいいでしょ。」
とフィーナは、ユウトの胸に肘鉄をくらわす。
「じゃ、じゃあ、ミクさんでいいかな?」
「さん付けなのは気になるけど、まあいいでしょう。」
とフィーナは納得する。
「それじゃあ、改めて。よろしくね、ミクさん。」
ユウトはにっこりと右手を差し出す。
「はい。ユウト様。」
ミクルーカも差し出されたユウトの右手を、握り返す。
「ところで、あの、その、ユウト様。」
ミクルーカはユウトの手を握ったまま、ユウトに尋ねる。
「レスフィーナさんとは、どう言ったご関係なのですか。」
ああそれ、前にも聞かれたな、とユウトは思った。
「そうですね、ひと言で言ったら、下僕の関係かな?」
ユウトは前にも答えたのと、同じ答えを返す。
「げ、げぼ、」
ミクルーカは固まってしまう。
「ちょっとぉ、変な事言わないでよ。」
とフィーナは小声で耳打ちする。
「じゃあ、何て言えばいいのさ。」
ユウトも小声で返す。
「そ、そこは普通に、美しいフィーナ様を護る最強の盾、でいーと思うよ。」
「それ、下僕とどこが違うの。」
「全然違うでしょ。」
「レスフィーナさん!」
目の前で繰り広げられる茶番劇に、ミクルーカはキレる。
「ユウト様をなんだと思ってるんですか!」
「ええー、」
何故かキレてるミクルーカに、フィーナは若干引き気味。
明確な答えを示さないフィーナに、ミクルーカの怒りのボルテージも跳ね上がる。
「ユウト様は、私が守ります。
レスフィーナさんの好き勝手には、させません!」
ミクルーカはユウトの手を握ったまま、城内へと向かう。
次回予告
あ、どうもこんにちは。ユウト様愛護団体名誉会長、エメラルド・ジュエラル・ミクルーカです。
もうレスフィーナさんったら、信じられませんですわ。
自国のナイトを、レスフィーナさんの下僕にするだなんて。
一国の王女として、あるまじき行為ですわ。
こうなったら、ユウト様はこの私が守るしか、ありませんですわ。
幸いユウト様には、緑の属性もありますから。
緑の洗礼で上書きすれば、ユウト様は私のとりこですわ。
あーら、聞き捨てならないわね。
あら、青の国のおばさま。何の用ですか。
誰がおばさんよ。私もまだまだ若いわよ。
そのセリフがすでに、おばさまだと思いますがね。
おばさまは私とユウト様、若いふたりを祝福してれば、それでいいのです。
ミクルーカさん、フィーナとユウト君の仲を、甘く見ない方がいいわよ。
それは、どう言う意味かしら。
次回、ジュエガルド混戦記激闘編、緑の洗礼。
お楽しみに。
あーん、おばさまに言われちゃったぁ。ユウト様ー。
※まだ次回の内容は、何も考えていません。実際の内容とは異なる場合もあります。
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