第2話 真夜中の魔獣討伐

 春の訪れを感じるこの季節。

 しかしその夜中は、まだ肌寒い。

 そんな真夜中の公園で、戦闘は続く。


 ユーケイと呼ばれる男と、ケーワイと呼ばれる女性が、連携を取りあって大型の四足獣と戦う。

 ネコ科の猛獣を思わせるこの四足獣は、象くらいの大きさがあり、両手の甲から、刃物の様な物が突き出している。

 それは指先の鋭い爪とは別で、その刃物は指の数と同じく、四本生えている。

 そして前足の肘の部分には、角の様な突起物が突き出ている。

 上顎の犬歯は鋭く長く、大きく口を開けても、下顎の下部にはみ出るくらいだ。

 上顎と下顎の蝶番の辺りからも角らしき物が生え、その角はある程度顔の横に伸びたあと、前方に向けて湾曲する。

 その角は、口の半分くらいの位置まで伸びている。

 そして四足獣の額には、大きな魔石がはめ込まれている。


「結構強いな、こいつ。」

 ユーケイは少し根を上げる。

 ユーケイは今まで、魔石獣をすれ違いざまの一閃で倒してきた。

 それは刀の届く範囲に、魔石があったから可能だった。

 しかしこの魔石獣の魔石は、刀の届かない位置にある。

 ジャンプして斬りかかるのは、危険すぎる。

 ならば魔石獣の脚を攻めて、ひざまずかせ、魔石を刀の届く範囲に降ろすしかない。


 そのつもりでふたりで連携してるのだが、この魔石獣は結構しぶとい。

 ユーケイの方が、先に根を上げそうだ。


「ならば、私が特大魔法で攻めるわ。」

 ケーワイは、新たな戦法を提案する。

「魔法?そんなのがあるの?」

 それはユーケイには初耳だった。

「ええ。だからしばらく、あいつの注意を引きつけて!」

 ケーワイはそう言うと、バク転を繰り返して後方へと距離をとる。

 そして距離を取ったその先で、両手で印を結び、精神を集中する。


「ほら、こっちだ!」

 ケーワイの意を察したユーケイは、魔石獣がケーワイに背を向けるように、魔石獣の後ろに回り込んで斬りかかる。

 魔石獣の攻撃は、前足での薙ぎ払いが基本的だった。

 距離を取ると、口から火炎弾をはくか、突進しての噛みつき攻撃。

 つまり、近距離で張り付いて戦う方が、ユーケイにはやりやすかった。


 精神を集中したケーワイは、目を閉じたまま右手を目の高さにかかげる。

「大気の精霊達よ。

 今こそ我と供に、聖なる炎で悪しき魂を焼き払え!」

 ケーワイは、目を見開く。と同時に叫ぶ。

「レッドムーン!」

 そして目の高さにかかげた右手を握りしめながら、腰より後ろにもっていく。

 その勢いで、右脚も後ろに下がる。

「ファイナルバースト…」

 ケーワイの右拳が光りだす。

 それを見てユーケイは、魔石獣の右前足の甲に、刀をつばの部分まで突き立てる。

「インフェルノ!」

 ケーワイは右拳を前方に突き出す!


 ケーワイの右拳から、巨大な火炎弾が放たれる。

「ユウト君、避けて!」

 ケーワイの叫び声と同時に、火炎弾は魔石獣に命中。

 魔石獣を焼き尽くす。

「ぐぎゃああ!」

 魔石獣が悲鳴をあげる中、上空からユーケイが落ちてきて、刀を一閃。


 ユーケイはケーワイの攻撃と同時に、上空高くジャンプしていた。

 そして新たな刀を取り出して、上空から攻撃。


「ぐぎゃああ!」

 魔石獣は断末魔の悲鳴をあげて、息絶える。

「やったね、ユウト君。」

 ケーワイは駆け寄ってきて、ふたりはハイタッチ。

「だから今は、ユーケイって呼んでくれって。」

 本名を連呼されるユーケイは、少し困惑ぎみ。

「だって、その顔を見てたら、ね。」

 ケーワイは、クスクスと笑い出す。


 いつもは顔面にタオルを巻いて顔を隠すユーケイがだ、今は素顔を晒したままだ。


「えー、そっちの素顔も見せてよ。あんた誰なの?」

「ユウト君が分かったら、見せてあげる。」


 そんなふたりのやりとりを見ながら、ふたりの妖精は途方に暮れる。

「これは困ったわね。」

「ええ、これは困ったわ。」


「何やってんの?

 早く食べないの?」

 いつもは倒した魔石獣から魔石を取り出し、その魔素を食べる妖精達。

 その行動を取らない妖精に、ユーケイは疑問に思う。


「うん、魔獣封印はね、パートナーが倒してくれた妖精にしか出来ないのよ。」

 サーファはユーケイの疑問に答える。

「それが何か問題でも?」

 この魔石獣に止めをさしたのは、ユーケイである。

 だからユーケイのパートナーであるサーファが、魔獣封印をするべきだと、ユーケイは思う。

「でも今回は、ケーワイの魔法が魔石獣を弱らせてくれた。」

 ここでルビーが口を挟む。

「でも、止めをさしたのは、ユウト君よ。」

 ケーワイも口を挟む。


「そんな単純な話しじゃないから、共闘はエヌジーなのよ。」

 とルビーはため息をつく。

「ま、やってみるしかないわね。

 このまま放っておく訳にもいかないし。」

 そう言ってサーファは、倒れた魔石獣へと両手をかざす。

 魔石獣の周囲に、魔法陣が浮かび上がる。

 サーファが何かを唱えると、魔石獣は魔石だけを残して姿を消した。

 魔法陣は魔石に集束するように消えていく。

 跡には、魔石だけが転がっている。


「問題は、この魔石よ。」

 サーファは残った魔石を拾い上げる。

「大きさ、質。どれも申し分ないわ。」

 そう言って、サーファは表情をくもらせる。

「でも、やっぱり魔素は、入り混じってる。」

 サーファのその言葉に呼応するかの様に、魔石からは煙らしき魔素が漏れ出す。

 サーファは思わず魔石を手から落としてしまう。


 地面に落ちた衝撃で、魔素はさらに漏れ出す。

 青い煙と、赤い煙。

 側から見たユーケイとケーワイには、そう見えた。


「やるしかないわね、混色封印。」

 それを見て、サーファがつぶやく。

「混色封印?この場所で?出来る訳ないじゃない!」

 だけどルビーは反対する。

「このままだったら、魔獣が復活するわよ。

 それもさらに凶暴になって。それでもいいの?」

 サーファは強い口調でルビーを諭す。

「そうね、やるしかなさそうね、混色封印。」


 サーファとルビーは、魔素が魔獣化しだす魔石に向かい、両手をかざす。

 魔石を中心に、青と赤の魔方陣が浮かぶ。

 サーファとルビーは顔を見合わせ、うなずく。

 そして同時に何かを唱える。

 二つの魔方陣は、魔石に向かって集束していく。

 寸分違わず集束していく二つの魔方陣は、小さくなるにつれ、上下に揺らぎ始める。

 それはある水平な平面を中心に、上下対称の魔方陣を形作る。

 そして完全に集束しきる直前、魔獣化し出した魔石が悲鳴をあげる。

 その悲鳴が、上下対称だった魔方陣の形を崩す。


 魔石は砕け散り、かなり眩しい閃光を放つ。

「やっぱり無理だったのよー!」

 叫ぶルビー。

「こうなったら、自分の魔素だけでも、回収するのよ!」

 そんなルビーに向かって、サーファも叫ぶ。

「わ、分かったわ。全部は無理かもしれないけれど、」


「いっただっきまー…」


 激しい閃光が消えた時、この公園から四人の姿が消えた。

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