【短編687文字】ある朝起きたら 『3分で星新一のようなショートを読んでみませんか?』
ツネワタ
第1話
ある朝起きたら、僕の枕元には『大切に温めてください。あなたが産まれます』と書かれた一枚の手紙と共に西瓜ほどの大きさの卵が置かれていた。
誰かの悪戯なのだろうと、卵には取り合わずに僕は勉強を始める。
僕は優秀な人間だった。周りの馬鹿な大人たちよりも余程アタマの出来が良い。
そのあと僕は学校を主席で卒業した。同い年の奴らとは比較にならないほど賢かった。
そのあと僕は国一番の大学に行き、そこも主席で卒業した。
僕には昔から好意を寄せる女性がいた。
彼女も卵を持っていた。
どうやら彼女の話によると『将来大きな成功をする人』は卵を孵らせることが出来るらしい。
同じ境遇の彼女がますます好きになった。
何より彼女の笑顔は素敵だった。
「僕が幸せにして見せます。だからこれからの人生を共に生きてください」
僕の申し出に彼女は笑顔で了承した。
「僕が幸せにするから働かなくて良いよ」
僕の申し出に彼女は笑顔で了承した。
「僕が幸せにしてあげるから他人に一切その笑顔を見せるな」
僕の申し出に彼女は首を横に振った。
そして、とうとう僕は国一番の科学者になり、大金持ちになった。
しかし、彼女は傍らにはいない。隣の国で貧乏な別の男と共に暮らしている。
以前は僕だけのモノだった笑顔はその男に向けられていた。
彼女の卵はまだ孵っていないようだ。
それから数十年が経ち、老いさらばえ、独りで最期を迎える瞬間。
卵が孵った。
中から小さなブリキの人形が出てきた。
これがどうやら僕のようだ。となれば今日が僕の誕生日になる。
しかし―― と思う。
成功とは誕生日のようなモノだ。
乞い願った誕生日が訪れても、歳を一つ食うだけ。
僕は何も変わらないのだ。
【短編687文字】ある朝起きたら 『3分で星新一のようなショートを読んでみませんか?』 ツネワタ @tsunewata0816
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