第2話 【3分で読める1250文字】

 長い。

 永い。


 眠りについた。


 すると、誰かが何かを啜る音が聞こえてきた。そのあとに漂ってくる少し苦みのある暖かな香り。

 ブラックコーヒーだろうか? 

 他にも様々な匂いがある。


 シナモン・チャイティー・温かいサイダー。

 焼きたてのマフィンやクッキーを包み紙からカサカサと出して齧る音。 

 誰かがハーブティーのお替りの合図を送る。



 ジャンブは気が付くとビストロテーブルに生まれ変わっていた。



 自身を形成する材質もただの鉄ではなくクロムメッキになっている。


 記憶もボンヤリとだが覚えていた。

 今の彼はペルデンテの言う『たまに前の記憶が残ってる奴』なのだろう。

 そういえば彼女はどうなったんだ? 


 僅かしか話してはいないにしろ気になった。

 周りを見回してみる。

 

 エスプレッソメーカーと泡立て器。


 コーヒーミル。香辛料やトッピング。


 ホイップクリームが詰まった銀のスプレー缶。


 キャラメルおよびチョコレートソースの空パック。


 砕いたトフィーを振りかける容器。


 使い終わったフィルターに残った豆のカスをバリスタが軽く叩いて取り出す音がした。



 どうやらここは『カフェ』らしい。



「やあ、気が付いたかい? 新人さん」

「……あぁ、俺はジャンブ。君は?」



 間隔をあけて何席も並べられた錬鉄製の椅子―― その内の一つがジャンブに話しかけてきた。

『アミスター』と名乗った彼は自身に取り付けられているフカフカのパッドを自慢してくるとジャンブに幾つか質問を投げかけてくる。


 他者と話すのが随分と好きなのか、この椅子は初対面のビストロテーブルなどに対して、小面倒な話をすんなりやり終える手腕に至っては、実に感嘆措く能わざるものが見られる。実に楽し気なのだ。


「君はなんで自分の名前を持ってるの? ねえ、ねえ? たぶん生まれ変わったばかりだよね?」

「いや…… 前の記憶が少し残ってるんだ」


「うっそ! そんなの初めて見たぁ…… 前世は何をしていたの?」

「車だったんだが、処理場で溶かされたんだ」


「そっか…… それは苦しかっただろうね。ごめんね不躾な事聞いちゃって」


 それからアミスターにいくつか質問をし、分かったのはこの店が『トリア』という名前である事。

 店主は『ジガンテ』という男であり、元冒険者だったという事。

 現在ジャンブたちは『王国』に居るという事。


「いまこの国は隣の『帝国』と戦争中なんだ」

「あぁ、何となく前世で聞いたことがあるような気がする。ハッキリはしないが」


 アミスターはジャンブにこの世界の情勢を大まかに話してくれた。


『王国』の地にはまだ見ぬ新エネルギーが隠されているのだという。

『帝国』はそれを狙っているのだとか。


 お互いの国は優秀な兵を各地から集めて殺し殺されの日々を楽しんでいるのだそうだ。


「有名なのは魔術師(テンタシオン)と吟遊詩人(シュピールマン)の二人かな」

「吟遊詩人? 戦争賛歌や批判歌でも語って御国を皮肉ってるのか?」


「さあ。でも誰もが知ってるほど有名だから、もしかしたら物凄く強いのかもよ」

「腕の立つ吟遊詩人か。なんともヘンテコだな」


「ハハハハハ。間違いない」



 それから半年が経った。

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