第26話 異次元への入口
リズの小綺麗な学生寮舎
聖セントラル中央魔法学園での日中の授業が終わればリズは寮舎に帰る
寮舎の部屋では
実家でメイドさんや使用人さんが
何から何までお世話してくれていた時と比べると
してくれることは食事の配膳くらいだ
というよりそうしてくれるようにお願いしている
他にも望めばもっとほかの日常生活のことも
さしつかえないレベルでしてくれるし
望めば その食事の配膳も止めさせて自分だけで管理することもできる
買い物をしたり 大きな食堂があるのでそこを利用することもできる
自立型ライフスタイルだ
・・
そのため上流層の貴族家出身の学生であっても
学園都市内では絶対の信頼の安全管理に一任して
かなり自由のきく一般人のような学園生活を送ることも可能だ
この前、明らかに公爵家レベルの貴族の奇麗な女の子が
外では絶対にゾロゾロつけるようなお供も付けずに自由に一人で
学園の構内食堂で学生に大人気の「大盛りジュワとろオムライス」を注文して
満足そうにパクパク食べていたのを見かけて
ちょっとギョッとなったりしたこともあったけど
(・・よくよく考えたら
私も学園では一人も家の使用人さん付けてなかったわ)
体が治ったことをクリスフォード家で力説して
学園ではかなり自由にやりたいようにさせてもらっているリズ
・・・
「・・・、納得はしかねますが
最終的に私どもはお嬢様の望むように尽くすのみでございます
ですがよいですかリズ様
実家の旦那様にはきちんと学園から定期的に手紙の書簡を送るのですよ」
「はい 分かりました」(やったあ)
居座ろうとしていたけど
リズに説得されて学園都市から退散する前の
クリスフォード家使用人さんたちとのやり取りをちょっと思い返す
・・
そういうことで
リズはその食事配膳と少しの身の回りの清掃だけを
最低限やってもらうような生活スタイルにお願いをして
(にぎにぎ・・)
「・・・」
ベッドの上でセミの抜け殻制作をしている
(あれ・・ライフワークが前と変わってない・・)
制作目標の饅頭マンを作れるだけの数はもう超えていたけど
セミの抜け殻たちは合体させようとすると
部屋を縦横無尽に逃げ回って時間がかかるので後回しにしていた
・・・
ただ・・リズは今は他のことにも気にかけていた
習った魔法くらいはなんとか使えるレベルにしたいなと思っていたけど
実際にやってみると思っていた以上に適性のないリズの魔法
お兄様の魔力があってもうまく自分で消費することができない
適性のある属性の魔法がない しっくりこないのだ
行き詰まりを感じていた
物思いにふけりながら一人でセミの抜け殻をまた1つ完成させる
心なしか少し完成度が低い
(ふーむ・・)
「はあ・・うまくいかないなあ・・」
・・・
でもリズには学園で習う魔法の他にも強くやりたいことができていた
それはリズのイヴの力の
「Pコマンド以外の入力コマンド」についての獲得だった
Pコマンドだけあってもイヴの力を活かしたことにはならない
単純なPコマンドを撃つだけなら
オリジンをたしなむ者なら幼稚園児にだってできるのだ
それこそボタン一つ押すだけだしね
全てのコマンドをほぼ自由自在に操ることができて
ようやく初心者っていうのが あのいかれたオリジンゲーマーの世界だった
・・
(まあここではどう見ても魔法とかばっかりで
オリジンの技を持ってるひとは見当たらないんだけど・・)
以前に戦ったオジキが投げ技系統に通じる技は使ってたから
他のオリジン体技を実際に使ったり
私が知らなかっただけで
イヴの技のようなオリジンの高密度エネルギーの波動技とかを使う危ない人も
この世界には実はいて
日々バトルを繰り広げたりするのかなって思っていたけど
全然そんなことはなく
やっぱりこの世界の魔法使いの戦いは
真っ当な魔法によるものが主体であって
その体技を使っていたオジキだって
投げ技以外は違う体術だったようだし普通にこの世界の魔法を使って戦っていた
学園生活も落ち着いてきたし
学園の設備も自由に使えるようになって
この世界の見識を広げるための行動も徐々に始めていってたんだけど
・・
前に魔法学園にある、
大きい蔵書館の閲覧室に行って調べてみた時の事
ちなみに勝手に開いたり喋る本とかはなかったよ
みんな普通の本
それでこの世界で一般的な体術といわれている投げ技の一覧とかも
そんな本たちを借りて調べて見てみたんだけど
(・・・)
系譜に型の近いものもあったけど
どうもそれはオリジンの技とは違うなっていう感じ
そりゃあ体を使う技なんだからどこかしら似ている所はあったりするけど
それは純粋なオリジン特有の高出力の波動をもつ技ではない
バーゼスお父様が以前私に教えてくれていたように
本に記載されているような体術の多くは
魔法の力と同化してしまっていて
(例えばサンダースマッシュという体術の技は
スマッシュという拳などを使って強打する技でも
雷の魔法の力を利用して身体能力や威力を大幅に底上げしている)
それで魔法の力に依存しない純粋な体術というのは
魔法を使った体術とぶつかると出力が低くて打ち負けて
技量がよっぽどでないと使い物にならないという問題があって
伝統を重んじる種族などを除いて
その技量は劣化の一途を辿っているらしい
オジキが使っていた投げ技は
その投げ技自体がそもそも相伝に近い一族の極少数派の体術らしく
学園の書庫には情報がろくになかった
(・・・)
少し蔵書館の棚のある通路で本を開いていた時にふと頭に思い返す
あの時のオジキの技
「「グハハ・・!飛身圧潰し・・!」」
(ずがあああん!)
(うわあ~!)キャー不審者ヨ~ イヤアア~ ワーワー ドタバタ
天井裏に密かに張り付いて潜んでいたでっかいオジキが
天井を破って降ってきて
のどかな蔵書室の風景が台無しになる図が浮かんでくる
でもあの時の空中技の事は
オジキは私にとって馴染みのあったダイビングボディプレス、とは
言ってはいなかった
そういうオジキの技はオリジンの固有の技の名称とは異なっていた
・・・
・・
再び寮の部屋のベッドで物思いに耽る
(もしかしたらオリジンの技はあるけど
この世界では何か別の名前に置き変わってて分からないとか・・)
(オジキは見えない力を持つ者は世界にいるっていってたけど
そもそも力が見えないんじゃ ろくに分からないわよね
表だって世の中に出ることがないのかも)
私以外にそういう人がいないということは
指導書もないっていうことで
自分でノウハウを開発、発掘しないといけないということだ
一応オジキはいたにはいたけどイヴの技は全然ああいう投げ技系統ではないんだ
割と不得意な部類
イヴが得意なのは腕を使うパンチとかビームとかの兵器攻撃とか・・
(イヴの兵装ビームは超文明の兵器装甲だから
この世界には絶対ないよなあ・・)
・・
イヴの技の基本であるPパンチコマンド自体は
もう元から感覚自体は私の中に最初に存在していたようには感じていた
でも他のコマンドは そこに意識はあっても
使える力として会得していなければ
ロックされているというか
意識の中で暗い影のようになってしまってコマンドとして使うことはできなかった
それは前回の大天狗オジキとの戦いで証明されていた
「(・・こじ開ける必要がある)」
・・・
私の中にある そのオリジンの力の片鱗
あの戦いで、あの光のコマンドが連なった先に確かに見えた「イヴ」の姿
「 」
あの銀河の世界の向こう側に揺れていた彼女の髪の後ろ姿
またあそこにいる彼女に会ってみたい・・
それが今のわたしの望みのようなものだった
でもそれにはどうしたらいいのだろうか・・
そのコマンドが必要な技を感覚的に再現して
それを何度かなぞるようにイメージしてみたことはあったけど
そもそも普段の生活ではイヴの力はPコマンドすら満足に発動もしてくれない
発動するとしたらするで
それはここみたいな学園の施設内では危ないのだ
力を使うことはできない
ひとりではいい考えが思い浮かんでこない・・
(はあ・・詰んでるなあ
一人で悩んでたらちょっと寂しい気分だなあ・・
あ、そうだ・・)
・・・・・
・・
「ふーん 行き詰まりねえ・・」
ここはネロが下宿している風車の家
リズは今日は少し気分を変えてこっちに移ってくることにしたのだ
リズとネロで机をはさんで座って話をしている
ネロは非常に真面目な学生なので難しい魔法力学の本を開いていた
対面のリズのほうに向いている難しい本の裏表紙には
よく見ると下の方に
「ネロ・シグナレス」って名前札の文字が書いてあって
どうやらそれがネロの本名みたい
(ふーん ネロ・シグナレスっていうのかあ・・ そうだったんだね)
「といっても初等部の僕が中等部のリズに教えてあげられることは・・」
「そうよねえ・・」
「あ、リズって「ダンジョン」とかは知ってるよね・・?
洞窟みたいな・・」
「え、 あ うん 知ってる・・」
そう この世界にはそういう場所がある
それも知ってて当たり前の常識の感覚で
魔法とか妖精とか、それでダンジョンだとか
そういう幻想世界にあるような超常的なモノが
ひょっこり普通になって出てくると
あれ 私この感覚で間違えてないよね、って元の私と確認したくなる時がある
うん間違えてないよ
普通だよ
オリジンほどじゃないけれど
この世界の常識もやっぱりどこかネジが外れているのだ
この世界の「ダンジョン」っていうのは一応知識にはあったけど
そこは魔物のでる洞窟であったり資源の供給源であったり
危ない土地を冒険をする人たちや
剣士の人たちの宝探しや狩りの場所というかんじで
その場所は最低限 卒業単位のために試験で潜る程度の認識しかなかったため
とっさにはリズの頭に浮かんでこなかったのだ
・・
ネロは教えてくれる
「ダンジョンに指定された土地で出てきた魔物と戦うと
持ってる職業の才能によって刺激を受けて技が頭に浮かんできたり
身体を強くできたりするんだって
この学園の学生はだいたいが魔法使いだし
魔法学園にいるから魔法は学園で勉強して開花する機会が多いけど
剣士や弓術士なんかはダンジョンに潜った方が多彩に技を覚えられて
それで一人前になっていくんだって
リズのあれって魔法じゃなくて体術系?なんでしょ
リズはそっちの適性があったりしてね」
(・・・)
「へえ・・それはいいわね」
私のしたかった目的に近づけそうっていうのはもちろんなんだけど
体も鍛えられるかもって聞いてなかなか好感触
「うんうん・・いいわ」
リズは少し考えて納得したように再度声に出す
それから席を立って外出用の準備を進める
「え・・、リズ・・まさかダンジョンにいく気・・?」
「ダメなの?」
「いや だめじゃないけど危険っていうか・・」
「一番簡単なやつならいいんじゃないの? 学生がもぐるみたいな
そういうのならセントラル地区内にもあるって聞いたわ
モンスターいなかったり 木の棒で倒せるレベルの」
「うーん・・いや、でもリズ・・
学園でいつか試験でいく分じゃだめなの?」
「だめなの」
「う、うーん・・」
・・・・・・
・・・
聖セントラル中央魔法学園 中央街
ここは全ての校舎の中心部にあるエリアで
ここからは学園のすべてに道がつながっている
そのエリアの中央情報局には全ての施設への案内板および案内施設があり
今はそこにネロと一緒にいる
・・
「ネロ・・今日はすごい格好だね」
「え・・リズがダンジョン行くなんて言い出したから
昨日頑張って用意したんだよ・・」
昨日いろいろ準備した時にはもう遅かったので
あらためて今日出発になったのだった
ネロは自分の背丈より大きなリュックを背負っている
「うーん でもね 今日は郊外でもなくて学園内の
ダンジョンの制覇の証をとるだけの南のダンジョンにしようと思ってたから」
「え、モンスター倒さなくていいの?」
「はじめは慣れかなって」
「それもそうだね
学園内なら届け出許可も簡単だからすぐいこうか 案内施設ですぐとれるよ」
・・・・・
ダンジョンの探索届が受理されて
私たちは学園都市の南方にあるというダンジョンへと向かう
歩いて都市部を抜けてその場所が近づくと
少し盛り上がった、なだらかな広くて白い丘が見えてくる
「あの丘の辺りだよ」
「あそこね・・!」
初めての探索でちょっとウキウキのリズ
(あれ・・)
ちょっと気が付く
(あの白い丘・・前にネロとメーリス山地の道を抜けた後に
夜明けの星と一緒に町の前から見えてた場所だなあ・・)
・・
「丘にあるけどダンジョン自体は
この白い丘を下ったところにある麓の洞窟にあるんだ
学園にあるダンジョン地帯はどれも小規模なんだけど
歴史自体はすごく古くからあるんだ
この辺りに人が住んでなかった時代からあったんだって」
「へえ~・・」
・・
学園南のダンジョン前にて
「ふーん ここがねえ・・」
基本的にダンジョンっていうのは周りとは違う特有の力を持つ土地のことで
この国ではそこまで珍しいものではないけど
広い土地であってもそう多くあるものではない
学園区内に探索可能なそういうダンジョンが複数集まっているというところで
やっぱりこの場所が少し風変りであるということと
この学園都市の敷地の広さを感じることができる
ネロが言っていた通り そこは白い丘の少し下った先の場所のふもとにあって
その一帯は開発などはされてないみたいで
辺りには古そうな折れた巨大な白い石柱がそこら中にあって
その柱の中にはたまに人の子の形のような彫刻がしてある柱もあった
「 」
その人型の彫刻は長年の浸食の影響なのか
シンプルな人型のシルエットだけが今は残っていて
その影のような顔や体の細部までは分からなかった
そんな傾いた白い石の柱たちは
白くて小さい花をつけた植物の群生の中に埋もれていて
その花の周りをひらひらと舞っている白い小さい蝶々たち
どうも丘の岩盤の色だけじゃなくて
これらの細かな白いものが集まっていて
その丘の色をより白く見せているのであった
・・
「柱の方は僕はよくわかんないけど・・
こっちの花の方は光草の一種で「セント・エルモの花」っていって
特殊な磁場の環境を持つ
ダンジョンの土地の周りや境目とかに生えてることが多い花なんだよ
セント・エルモの花自体は世界にもたくさん自生しているんだけど
その中でもこの国に多い
特に色が白い花は「
でもその名前の白爪の由来はその花のことじゃなくて
一緒によくその花について飛んでいるあの「白爪蝶」の方が由来で
それはその蝶を手で摑まえたりすると
何故か奇麗に白い爪が流れた痕のように
ごっそりその蝶々の羽の鱗粉が肌につくからなんだ」
(ふーん セントエルモねえ 珍しそうな名前
光の草なんて珍しそうなのに
この世界では世界中で生えてるんだなあ
言われてみれば確かに
花の周りがちょっとぼんやり光って反射して見えるような気がする
それにしても
あの白い蝶ってそんな蝶々だったんだなあ)
「へえ・・、そんな由来がねえ
この白い蝶々たちはちょっと面白い蝶だったのね
じゃあそんな花と蝶がセットでいるなら
例のダンジョンのところももうすぐなのね」
「そうだね」
(・・・)
白い丘の遠くから見ると変な地形だなあと思っていたけど
近くで見ると
この辺りはなにかの古い遺構の跡のようだった
(この石柱は色が違うし彫り物もしてあるけど
雰囲気は少しだけ以前にメーリス山地で見たあの石にも似てるわね
そういう古い石が世界各地に残ってるって)
青空の色と奇麗に分かれた白い丘の謎の白い石の柱たち
その石柱たちが大きくて邪魔でこの辺は土地を開発できないのかもしれない
・・・
・・
学園南のダンジョンの受け入れ口辺りまでくると
丘のふもとにダンジョンの小規模な整備された屋根付きの建物がある
(・・・)
「ダンジョンって洞窟みたいなもんかと思ってたけど
がっつり建物の中にあるんだね」
「ここは学園内だからね
外側は管理できるように安全にしてあるんだと思うよ
中は普通にここは洞窟だと思う」
・・
そうやって建物内を歩いていくと
少し横脇にそれたところに無人受付のようなものがあるが
そこにはすでに他の学生の姿があった
「(ガヤガヤ・・)」
(・・!)
ん?この声は・・
「ほんとにモンスターいなかったなあ つまんねえなあ」
「それは元々わかってたでしょ」
「早く次に行きましょう」
これは勇者ミトラと側近の男2人・・
なんでこんなところに・・?
「!」
あちら側も移動をはじめて やってきた私たちに気が付いたようだ
勇者ミトラが私に顔を向けてくる
「あっ・・貴方・・同じクラスのリズ・クリスフォードね・・
偶然ね あなたもこれをとりに来たの?」
「 」
勇者ミトラは手元にあった赤い紋様のかかれた紙をペラリとリズに見せてきた
(・・紙?)
「私たちはダンジョンに慣れておこうって思って来たの それは何?」
「これを取りにきたんじゃないのね これが証よ
この学園の南のダンジョンの制覇の証
勇者協会が定めた勇者ランクっていう勇者の格を上げるには
この辺りの指定のダンジョン制覇の証がいるの
今日から連休でしょ だから簡単な証から集めてるの」
「そうだったのね」
(ふーん 証集めねえ、大変なのね
勇者ってだけで楽ができるわけじゃないのね)
「じゃあ私たちは急ぐから
あっ、あなたにはダンジョンは危険かも・・って
まあ・・ここなら大丈夫よね 魔法があまり使えないあなたでも」
訝し気な目を向けてくる勇者ミトラ
(う、なんか若干、勇者ミトラの言い方に棘がある・・
やっぱり私のこと根に持ってるのかしら)
・・・
勇者ミトラたちは制覇の証を求めて
次のダンジョン?に去っていったので 私たちも動く
無人の受付の横にあったダンジョンの入り口から
いよいよその洞窟の中に入る
・・・・
・・
「ここがダンジョンの洞窟・・」
入ってすぐの洞窟内は少しじめじめとしていて
普通の家の天井の高さくらいまで空間があいている
踏み出したリズの硬い地面の足音がコツーン・・と洞窟の空間に反響する
( )
岩壁のふちには見た目は苔のようで
小さくて背の低くて
でも長い綿毛の付いた謎の植物が茂っていた
「受付の人もいなかったね」
「ここはモンスター出ないからね・・」
「でもそれってダンジョンっていっていいの?」
「ダンジョンだけで生えてる草とかがとれるみたいだよ
あの植物とかはダンジョンでしか育たないから外には生えてないんだよ」
確かにさっきみた岩壁の端には少し変わった形の苔とかも生えていた
あれがダンジョン限定の苔か
「ふーん ならダンジョンか じゃあいこうか」
「そうだね」
・・・
・・
カツーン、コツーン・・
「・・・」
(思ったより普通の洞窟探検だなあ・・これがダンジョンねえ)
しかもダンジョンだけどそこそこ手入れがしてあって
等間隔で魔法のランプまでついてる
薄暗いけど明かりも不要であった
もっとこう、なんていうか
ダンジョン探索っていうから
わくわく感のあるワイルドな冒険のイメージだったんだけど・・
人里に近いダンジョンだしなあ
まあいいか 最初だしね まずは慣れよ慣れなのよ
(ダンジョンに入ったら私の腕がもしかしたら活性するかもって
期待してたんだけどなあ
ていうかほとんどそれが目的で来たんだけどなあ・・
あんまり活性してくれない・・ぜんぜん普段の力くらいだね)
リズは随所で確認に手に力を入れたり
手を開いてグーパーグーパーしながら奥の方へ進んでいく
そんなリズの様子をネロが不思議そうに眺める
・・
洞窟の奥へと歩いていっている時、
あんまりにも何にもない洞窟なので
ネロがそこでこのダンジョンにまつわる話をひとつしてくれる
・・
「今はわりと整理されて学園南のダンジョン、なんて
管理された区画の名前で呼ばれてるけど
メリカドの地方の伝承では
この今のセントラル台地の地区にあるダンジョン地帯を全部まとめて
昔は「還らずの地」とも呼ばれていたんだって」
「え・・、還らずの地・・?」
「そう、昔、この地に小さい子供が入り込んだら
帰ってこれなくなったりとか・・」
「え、なにそれ
急に怖いんだけど やめなさいよ
ていうかそんな場所に学園建てたのね」
( )
リズは何故かその時
入り口の前にあった、あの白い石柱に刻まれた人の子の形のことを
少しだけ思い返していた
「まあ昔の話だから
今は全然迷わないくらい地図も整理されちゃってるから」
「ふーん・・」
しばらく歩いていると
あれは・・
「もう着いちゃったね・・」
「あれが証が置いてある台かな」
・・
奥の空間は周りより広くなっており、ひとつの大きな部屋のようだった
「 」
その中央に石造りの祠があって
そこに勇者ミトラも持っていた制覇の証が置いてあるみたい
祠の両横には
謎のモンスターをモチーフにした石像2体が並んでいた
(・・・)
なんかちょっと腹の立つ顔つきをしている犬のようなモンスターの石像
いつかのオジキの使い魔のベダジュウに姿が似ている
近くまでくると真ん中の祠自体はけっこう古そうな構造物だ
祠の中の石の箱の中にしなびた紙がたくさんはいっている
その中の1枚を上からペラりと手に取ってみる
「ふーん これが証なんだね さっき見たやつ なんかへんな赤い印」
「これをもってくるだけの試験があるんだって」
「へえー」
勇者ミトラに紙を見せてもらった時はあまり意識していなかったけど
その文字の印は「炎」の形に若干似ているように思えた
・・
「リズ・・ちょっとここで休んでいい?
荷物が重くてちょっと疲れちゃった・・
お菓子とかも入ってるから一緒に食べようよ」
(・・ピクニックかな?まあいっか)
「いいよ休もうか 結局はじめの勇者たち以外 だれもすれ違わなかったね」
「この祠しかないもんね このダンジョン」
ネロはそういって一息ついて座ろうとする
(やっぱり大きなリュックね・・)
こんなのもってたらそりゃ疲れるよね 何が入ってるんだろうね
・・・
特に何もない奥の空間で少しだけ休憩することにする
が
「あっ」
ネロは祠の横に背を向けて座ろうとしたのだが
荷物が重くて体の後ろにバランスを崩して
祠の横脇の石像に激突して寄りかかってしまった
「ゴコ・・」
若干 石像がずれたような音がする
すると
(( ))
「(え・・、若干だけど感じる・・モンスターの感じ・・
魔物が近くにいる感覚 )」
それはここにはいないはずの気配
リズの右腕にぎゅう・・と血流が増える感覚
「いてて・・」
「ネロ・・ちょっとそこ どいてくれる?」
「え、う、うん・・」
そこを見ると石像がずれて床の部分に
この祠の紙にかかれていた印と同じ形が彫られていて
彫られていた部分の左上の方がまだ少し隠れていた
「・・・・」
「ガン!!」(ばきい)
リズはそこからベダジュウに似た犬のような石像をいきおいよく足で蹴る
「ガコ」
石像の位置が動いて
彫られた印の隠れた部分までが完全に現れた
(なにか破損したような音もしたけど気にしない)
すると
「ちょっとリズ! 祠を蹴るなんてバチあたりな・・ えっ」
「別に祠じゃないわ 隣の石像じゃないの ・・あれ」
(あれは・・)
((ブウウン・・))
祠のそれまで行き止まりで古びた岩壁であったはずの空間のその先に
新たにぽっかりと人が通れるくらいの穴が出現していたのだった
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