第8話 目覚めし力・・?
「ふう・・・・」
でもさ それなりに面白いよね 役には立たなくてもそういう魔法だってさ
抜け殻だってかわいい?もんね
だって「オリジン」の格闘ゲームばっかりしてた私とか
もうほんとにそれしかしてないんだよ
ほぼ自由とかないの
だって実験施設で何かの脳神経系統を調べるのに
オリジンの画面でキャラに提示された指定の複雑な動きをこなすことで
いっぱい頭に貼り付けた電極からビビビって
何かのすごい複雑な機械に伝わった脳波をそのまま実験結果として
データに反映していくんだよ?
どうも施設で実験体からデータを採取するにはそれが最適だということで
オリジンをすることは組織で生まれた私には自由ではなく強制されたものだった
だけど当時幼かった私にも自分で選んだ自由があった
それは私がイヴ、「破滅の右腕」を持ち
機械化した邪悪な翼の妖しい姿の女悪魔「イヴ」
「イヴ・バスタードツイン・デストロス」を
私の操作するキャラとして決めたことだ
でもどのみち最低一つのキャラは選ばないといけなかった
それが自由ではないといえばそうなってしまうんだけど
まあ かっこよくて奇麗だったから 羽もついてたし
力の渦巻く荒れ狂うオリジンの空の上でも
何者も気にしないように力強く飛んでいくイヴの姿は小さいわたしの憧れだった
ただ それだけのことだった
わたしはそれでイヴを選んだんだ
・・・
物思いが脱線してしまった
だから自由に魔法だって学んで生きていけるこの世界の
なんとも自由なことか
おかげで手を付けることがたくさんありすぎてよくわからない
今まで日常生活はほぼゲームしかしていなかった私
あっさり元のゲーマーな暮らしと切り替えて
魔法の世界で暮らしていくことに適応しようとしている薄情な私だけど
格闘ゲームなんてそもそも存在しなくてできない世界で
私にはゲーム一筋でゲームしかないんです!それしかできましぇん!
なんて一人で声を張り上げて
白い目で見られながら引きこもって生きていこうなんてメンタルは私にはない
そもそも元から元の世界でも
底辺ゲーマーなんかしててもろくに食べていけてなかったんだわ
この機にちゃんとまともに生きていく力をつけましょう
そういう訳で
ちゃんとこの世界のルールでやっていくつもり
それはそれと
あんなことがあって飛ばされて目が覚めた世界だし
魔法みたいな不思議な力はあるし
その上に悪魔だの世界に災厄が起こるだのって言われてたから
ここが割と平和なだけで周りはとんでもないやばい終末世界なのかと思ったら
そうでもなかった
・・・
ここはメリカド魔法共和国という国で首都はメリカドハートっていうんだ
人間の英雄たちが切り開いた国であることを示す、
魔法剣と杖の刻印の国旗
私が今いるクリスフォード家のある場所は
首都からは南東に離れた位置にある第二の都市、
メリカドアドの中心部からは少し離れの郊外にある貴族領だ
北にある北方ガルティダ法帝国っていう
黒い翼の竜の皇帝印の国旗を携えた隣国をもう一つ挟んで
大山脈を越えた最北の大陸の方には
魔物領といわれる魔力の濃さと性質が異なっていて厳しい環境の
人が進出していない魔物というモンスターが闊歩するような土地もあって
わりと近代辺りまで大きな争いを繰り広げていたらしい
東の方の離れた土地の方にはエルフという
魔法や精霊行使に優れた耳のとがった種族が暮らしているような国もある
この世界では世界に占める魔法の力がとても強くて
文明にも多大な影響力があるからなのか、
「聖ソウル法典」っていう
魔法の力や過去の優れた英雄を崇め称えるような一般的な宗教も存在していて
広くその教えが普及して
まるまるその宗教徒の民で国ができているところもある
メリカド魔法共和国の首都メリカドハートにも
その宗教の古い時代からの三大聖地の一つの大神殿があって
巡教や観光に多くの外国の人が訪れる
・・
(・・・)
だけどこれだけ知ると
ここが十分とんでもない世界だと思わないこともない
「ふーん・・」
朝の食事をするときに 使用人さんが読んでいた新聞を見つけることができて
そういうこの世界の他国の情報も断片的にわかる
以前の記憶と同化しているので普通に文字は読める
というか言語は若干の違いはあるだけで
文字の原則のようなものは同じであるように思えた
それで簡単にだけど この世界の世界地図まで見てしまって
その地図の大陸の形は以前の覚えのあったものとは全然違っていて
これで記憶だけじゃなくて
ここが全然私の元の世界とは違うことが確定してしまったわけなんだけど
(・・・)
ここは不思議なとんでもない魔法の世界だったけど・・
私がここで目が覚めた経緯って未だに不明で
町でいきなりオリジンの怪人が現れて
「原点の世界に辿り着け・・!」とかなんとか言われていつの間に来たんだから
ここみたいな魔法の力もあるし危ない魔物みたいな生物もいるにはいるけど
人はちゃんと暮らしているような世界とかじゃなくて
私みたいなひ弱な人間ごときなど
踏み入れて30秒で何らかのえげつない要因で死ぬだろうという
魔物どころじゃない魑魅魍魎だらけのオリジンみたいな世界にぶち込まれなくて
本当に良かったと思う
まああれはふざけて作った夢の中みたいな本当にゲームの仮想の世界だからね
ゲームの中でなら楽しめるけど
じゃあ実際に行けますよって言われてもそれはノーサンキューな世界の筆頭だ
(それでもここでオリジンのことが
全く何も関係ないっていうことはないとは思うんだよね・・)
自分でもおかしいとは思っているんだけど一日中オリジンの世界にのめり込んで
劇物みたいなオリジンのちゃんとしていない理不尽な世界に
脳の意識が毒されてなじみ込んでしまっているから
この世界の異文化具合とか
混沌とした危険な魔の生物の生態のことを知っても
(あ、でも人が生きて生活していけるんだあ、ちゃんとした世界だなあ)
って
わりと冷静に納得して受け止めてしまっているという
・・
「(パサア・・)」
リズの部屋のベッドで使用人さんの所にあった、さっきの新聞を広げる
手癖で勝手に持ってきちゃったけど
まあ多分もう勤勉な使用人さんたちは朝に読み終わったはずだからいいだろう
そう新聞はある
各地域で最近起こったことを有志の団体でまとめ上げた地方紙というか
テレビなどは普及してなかったけど
そういう近いものはある
映像を映す魔導式のモニターのようなものはあるけど
魔導式の機械では土地の磁場などの影響で
あまり遠くにまで鮮明な映像を送ることができないので
緊急時はともかく
常に番組を作るような放送の文化までは生まれなかったというか
元の私の世界より文化が発達しているようなものもあれば
魔法の力に頼っているせいか意外と技術が発展してないものもあったりする
でも日々この世界で魔法は進歩していて
文明も他の国と競い合うようにして程よく成長していっているみたい
・・
目を通して気になったのは
新魔法術式の開発だとか
開発した魔法で畑の土をモリモリ耕して改良して作物の収穫が増えたとか
記載の文章でだけど
それがどんな魔法なのかイメージできるように書いてある
才能がないのでろくにイメージもできないけど
他にも気になったのは治安に関わることで
地方のモンスターの襲撃や凶悪な事件とかだ
その影響で直近の地方のお祭りが中止になった記事なんかがあった
なにか以前の私の世界とつながるようなものはないか
・・
「ふむ・・」
記事の見出しをチェックする・・
が今はよくわからなかった
今まで関わりがなくて魔物的モンスターの名前が
新聞に書いてあってもわからないものがあった
(海乱獣バキュムが現れて被害が出て
南の港町の海上路が封鎖されました、とか書いてあってもよくわかんない)
この世界には普通の動植物の他に
魔物というこの世界に広くある魔力を命の源にしている生態系がある
前に使用人さんがいってた旧星暦の「大滅」の日からは
そういう魔物たちの生態がおかしくなって
普段よりも大量に発生していたりして各地で警戒をしていたり
この地方でも討伐隊がでるくらいの魔物が
暴れていたという情報はあったっぽい
「ふーん大変だなあ・・」
今日の情報収集はこんな感じ
あらためて今の私に知れること、できることからしていこうと思う
・・・
物思いにふけりながらも
リズはその手は並行して作業をしていた
(にぎにぎ・・)
寄生の魔法でセミの抜け殻をせっせと手でこねて作り続けていた
自分でどこまでが限界ラインなのか知るためだ
今まではせいぜい暇なときにセミを一匹作るくらいだったので
これは私は知らなかった
だから知っておく必要があると思った
これは魔法に対する向上心が生まれた、というよりも
それは私のどうしようもないゲーマーとしての研究癖というか
それが私の持つ技能であるなら いまいち役に立たない魔法でも
ちゃんと力は使いこなせるように
とりあえず性能を知っておかないと満足できないっていうか・・
(
そう頭の中でそう唱えて でてきた塊を目の前に出し
セミの抜け殻を作っていく
(にぎにぎにぎ・・)
ひたすら作り続ける
「・・・」
他のみんなが思っている魔法とは
私の魔法ってなにか別なのだろうか・・、
普通の魔法?はずっと続けていると身体や脳が疲労するらしいから
こうはいかないだろうしなあ
まさかの総数20匹を超えたあたりでそうぼんやり思う
なんかこう相性がいいとか・・
魔力だけだったらこんなに複雑で精巧な魔法を使って体力がもたないよね
私の魔力って極端に少ないし
これはもっといけるかって調子に乗り始めた途端、
「あ・・」
体にがっくりときた
発動した一瞬 めまいがして意識が遠くなる
どうやらここがこの力の今の限界みたい
「これは・・いけないわね」
・・
リズはそれでここで今日の作業をストップすることにした
気分があまりよくないのでこれで休むことにする
休むために座っていたところから
ベッドにパッタリ横になる
(・・・)
視線の先には大量の精巧な鳴虫たちの抜け殻たちがあった
抜け殻・・とはいっても
それらはみんなバッチリ中身のあるセミの幼虫であって抜け殻とかではない
でも幼虫っていってしまったら うねうねして生々しいイメージなので
抜け殻ってイメージするようにしてる
(結構壮観ね・・)
ずらりと並ぶセミたちを見て ぼんやりと考える
なにげなく そう、 なにげなく私は思ったことを口に出す
「おいで・・」
((ゾロゾロ・・))
そうすると寄生魔法で作ったセミの抜け殻たちが動き出して
こちらにぞろぞろと向かってくるではありませんか
(えっ・・? うわ・・)
自らが生み出したものだから 声にこそださないけど
(いや これちょっと気持ち悪いよね)って
あ、まあでも よくみるとかわいいかも
自分で苦労して作ったしね
動いてる虫だって別に騒いでキャーキャーいうほど苦手じゃない
「ガシ・・」
近くでちょっと丸っぽい出来のセミの抜け殻を手に持ってみると
フッと消えて
あれっ、て思ったけど
本当に消えたわけじゃなくて
作成済みの抜け殻は私の手に僅かに残っていた魔力の粘土のところから入って
そこからどこか?にヒュン・・って消えていっているみたい
これは・・
魔法の管理というか自由に手から出し入れができるようだった
これはいい発見だったかも
私はそのやってきた20匹以上の壮観な抜け殻たちを
一匹ずつ手の中に全部しまい込むと
しばらく時間を置いて
それがなにもリズの体に不都合な影響を与えないと調べ終わると
また休むためにリズはベッドで目を閉じた
・・・・・
・・・
パチリと目が開く
(また寝ちゃったわね・・)
ベッドから見える窓の外がもう暗いのを見ると
リズはぼんやりと考えていた
「(うーん 今日はぼんやりとしすぎているかも・・
まあいろいろ力を試したからしょうがないけど・・)」
そういってリズはおもむろに自分の手をみる
判明したセミの出し入れ機能の確認のために
1匹だけ抜け殻をだす 少し間隔をあけてもう1匹もだす
(ポワン・・)キュウキュウ
相変わらず作った虫たちはワキワキしているけど
保存したからといってとくに以前と品質に変化はない
ピチピチでびっちりとしたリアルな毛穴たち
合格水準だ
「ふーむ・・調べたいことはまだあるけど・・・
まずは・・ 晩ご飯ね」
切り替えて また遅れてしまった食事をとるために
リズは食卓に向かう準備をはじめた
・・・・
出遅れた屋敷の食卓には誰ももういなかった
でも使用人さんは呼べばどんな時でもいつでもいるので
リズが遅れてもご飯はつくってもらえる
むしろリズが遅れることが多いので
使用人さんはもう慣れていて姿は見えないんだけど
どこかで待機しているという様子だ
今日のメニューは地元のワインで丁寧に下味をつけたお肉の料理と
ポタージュと少しの野菜サラダと切り分けた果物がついていた
・・・
リズひとりの食卓
「・・・」
でも郊外の施設で毎日ひもじいけど図太く生きていたわたしの影響のせいか
寂しさが少し抑えられた まあ寂しいけどね
前はすごく寂しいと思っていた
それになんていうか部屋の雰囲気も
広い空間に作業中の使用人さんの影だけが向こう側で忙しくせっせと動いていて
一人ではなんだか居にくいっていうか
だけど私は思う こんなにおいしい豪勢な食事を毎日食べられるなら
一人でもまあ 相当ましかなって
(それに私一人ってわけじゃないもの)
「トコトコ・・」
隣で放流したセミの抜け殻がテーブルの上を歩いている
そう、ひとりじゃない・・ このセミ君が・・
いやそうじゃないって
(使用人さんもいるもの・・)
そんなリズの一人晩餐であった
・・・・
食事を終えて一人で部屋に戻ろうとしていたリズ
「 」
通り過ぎる廊下にはクリスフォード家が誇る有力な魔法使いであった、
歴代々の当主たちの肖像画が並べられている
そこに並べられている御先祖様の当主たちは
色が濃かったり薄かったりするけどみんな紫色の目をしていて
若い頃の顔立ちであることが多かった
(あれ・・あの姿は)
そこに父であり、今の当主である
バーゼス・クリスフォードと廊下の角でばったり会う
いや私の部屋にいくのに通らなくてはいけない場所だったから
お父様は私を待っていたのかもしれない
荘厳なお父様の髭が廊下の照明に少し照らされていた
「リズ・・少し私の書斎まできなさい」
(きちゃったかあ・・)
「はい お父様」
・・・・
・・
バーゼスお父様の書斎は
ほんとに古き良きってかんじの雰囲気で奇麗に整っている
目立つ物はお父様の趣味の古い大きな魔道具の置時計に
戸棚などには昔の書物がたくさん並んでいて
書斎には独特の本の匂いがする
しっとりと高級な艶のある年季の入った木製の机に
貴族領の重要そうな契約書類やペンがそこいらに規則正しく置いてあった
お父様は静かに書斎に入った私にやさしくはないけど
厳しすぎないくらいの口調で
「どうしたんだリズ 体調は少しよくなったと聞いていたが・・
お前が寝込むのは仕方がない
だがそれでも以前はきちんと療養の管理はされていた
最近はよく世話を断って不規則な時間に起きてきて
それでは身心が健康であっても体調に不調をきたしてしまう
それではな だらしがないといわれても仕方がないぞ リズ」
「はい、申し訳ありません お父様・・」
当たり障りのない謝罪をするリズお嬢様 オプションで目をちょっとうるわせる
いやほんとうにだらしないけどね
真っ当なことを言われると困るなあ・・おいおい
だらしがないっていわれるあたり
お昼にお兄様がお父様に言ったんだろうなあ
あの調子で・・
「昼間にな お前のことをバゼロにいわれた
あれはお前のことをほんとうに心配していたんだぞ」
やっぱりいってた・・
ほんとうですか? お父様
まあでも あのお兄様なら
尊敬するお父様に対してなら猫被って得点とりをしてそうだしなあ
「すみません 私がふがいないばかりに・・
私はクリスフォード家の恥です・・」
なんてしおらしい リズお嬢様
ちょっと憂いを帯びる
それを聞いて少し焦った様子のバーゼスお父様
「そ、そこまでは言っておらん!
いいか 精進するんだ 精進だ 気をつければよいのだ」
「はい お父様 気を付けます」
こうしてみるとバーゼスお父様はけっこう人格者なんだよなあ・・
でもなんかこう・・
釈然としない
うーんなんでだろう なんでなんだ
むずむずとした気持ちの私は
寄生魔法で作った手作りの精巧なセミの抜け殻を、
ちょっと1匹だけ お父様に向けて放ってみることにしたんだ
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