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 ドクター・セトはコーナーに駆け上がった。必殺技のフェニックスセントーンへと入る姿勢だった。しかし相手のエル・シエタはむくっと起き上がると飛び上がり、セトをフランケンシュタイナーで投げ飛ばした。マットに叩きつけられセトは起き上がれない。

 シエタはセトの左腕に左足を絡め、関節を極めた。何とか前転して逃れようとするセトだったが、シエタは左手で首を押さえつけてそれをさせなかった。セトは結局、マットを叩かれるになった。



エル・シエタ〇 15分27秒 オモプラッタ・シエタ ×ドクター・セト(エル・シエタが環日本ジュニアヘビー級王座を防衛)



 ベルトを巻かれて勝ち誇るシエタだったが、花道を歩いてくる二人の男に観客は目を奪われた。ロンドンブリッジ・CBと大鯱銀河、TTUの二人だった。

 大鯱は解説席からマイクを奪うと、まずは深々と一礼をした。

「観客の皆様、いかがお過ごしですか? 良いタイトルマッチだったと思いますか? それとも相変わらずセトがしょっぱかったとお思いですか? 三度目での挑戦でもベルトを獲れなかったセト君。君には何が足りない?」

 マットに倒れたまま、セトは大鯱に視線を向けた。

「ドクター、君に足りないのは欲求です。日本人は君のことを生かすことができない。我々イギリス人のもとで、トップを目指すのが良いでしょう」

 そう言うと、大鯱は右手を伸ばした。セトはしばらくじっとそれを見ていたが、リングの端まで這って行くと、大鯱の手をつかんだ。会場からどよめきが起こった。

「同志セト、ドクターというのはもっと敬われるべき称号だ。これから、本来君がいるべき場所に行きましょう」

 こうして、TTUに三人目の仲間が加わることになった。



 TTUに誰かが加わることは多くのファンが予想していた。それがおそらく、ジュニアの選手であることも。しかし、セトの名前を挙げるものは少なかった。

 凱旋帰国して、「孤高の研究者」というギミックで戦ってきたドクター・セトは、なかなかこれといった結果を残せずにいた。ギミック自体を疑問視する声も多かった。そんな中異色のヒールユニットに加入するとなれば、今後どんなキャラクターになっていくのだろう、と皆戸惑っているのであった。

「これで、準備は整った」

 控室に帰ってきた大鯱は、冷たい視線のまま喉を鳴らして笑った。



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