今の僕ら

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 駒ノ城の鋭い当たりが、沙良星を後退させる。何度も何度も挑んだが、押すことはできなかった。

 沙良星は駒渡部屋に出稽古に来ていた。沙良越が成長してきたとはいえ、美濃風部屋では稽古相手に不足する。成長の機会として、出稽古はとても重要だった。

「そんなもんか!」

 駒ノ城は檄を飛ばした。前頭2枚目、約五年間幕内上位で相撲を取っている。29歳と若手とは言えない年齢だったが、いまだに次の大関候補にも挙げられる力士だった。当たりが強く、一気に押し出すこともあれば、まわしを取ってからじりじりと前に出る相撲もうまい。

 何もかもが違う。沙良星は力の差を感じていた。

 十両に上がって二場所目での負け越し。「勢いに乗ってどんどん出世する」ルートには乗れなかった。幕下上位から十両下位へ。あくまで少しだけステップアップしたに過ぎない。気を抜いたら、あっという間に元の階段に戻ってしまう。

 プロレスラーの時は、練習すればするほど強くなっていく実感があった。若かったからだろうか。そちらこそが天職だったのだろうか。

 駒ノ城の両腕が差し込まれた。抱え込んだ沙良星は、反射的に合掌捻りを繰り出す。しかし、相手の体は動かなかった。そのまま押し出される。

「おい、受けるのと受け止めるのは違うぞ」

 倒れ込む沙良星を、駒ノ城が見下ろしていた。



 十両に上がり、沙良星には個室が与えられた。大部屋のすぐ隣なので、静かというわけではない。また、プロレスラー時代にはもっともっといい部屋に住めるようになっていた。それでも、壁に囲まれた空間にいるとき、沙良星は「今、報われている」と感じた。

 隣には沙良越がいたが、たびたび沙良星の部屋を訪れていた。まだまだ日本について学ぶことが多く、沙良星は教育係のようになっていたのである。

 だが、今日はその沙良越がいない。先場所途中で肩を痛め、その手術のために入院しているのである。それほど重症ではないと聞いているが、土俵に復帰するまでは時間がかかるだろう。

 美濃風部屋を背負っていかなければならない。

 部屋には、沙良越以外には幕下の力士もいない。

 プロレス時代には、一流の仲間が常に周りにいた。もちろん、団体と部屋は全然違う。それでも。団体も、一つの部屋みたいなものだったな、と沙良星は思っていた。

 孤独には強いと思っていた。けれども、そんなことはなかった。

 沙良星は、布団の上で枕を抱いていた。

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