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 気が付くと、土俵から落ちていた。

 最初の一突きで、体が飛んでいるのが分かった。立て直しようもない。

 「けれど上を目指すなら、先手を取らないとだめだ」沙良星の頭の中で、大鯱の言葉が響いていた。



稲錦(1勝0敗) 押し出し 沙良星(0勝1敗)



 初日。沙良星の相手は怪我で連続休場し、十両に落ちていた元関脇の稲錦だった。押しの威力は、これまで対戦した誰よりも強かった。

 自分の限界。そういうものを考えるとき、沙良星は冷静だった。力士としては決して若くはない。十両で勝ち越すのがやっと。おそらく、大関や横綱を目指すという器ではない。

 それに対して大鯱は、関脇まで上がり、横綱に勝ったこともある力士だった。将来を期待され、ファンも多かった。「プロレスラーとしてはしょっぱい」と、様々な人から聞かされていた。それは、沙良星にとっては救いの言葉だったのだ。

 トレード相手は、成功していない。そう思いたかったのだ。

 けれども実際試合を目の当たりにして、そうは言えなくなった。確かにまだまだ、プロレスラーとしては未熟だ。けれども、しっかりと強さは見せているし、何とかしようという思いが伝わってくる。

 僕の方が失敗だったのか。

 部屋に戻るまで、ずっと沙良星は考え続けた。今でもプロレスを続けていたら、マスダの相手は自分だったかもしれない。勝てるかはわからないが、いい勝負はできるだろう。きっと、大鯱以上に。

 大鯱が相撲を続けていたら、どうなっていただろうか。幕内上位にいることは間違いない。そして、三役復帰もそれほど難しくないだろうか。大関や横綱になれたかはわからない。

 僕らのトレードは、結局どうだったんだろうね。沙良星は、どこかにいる大鯱に心の中で語り掛けた。



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